映画感想(ネタバレもあったり)

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『幸せへのまわり道』 ラストシーンのピアノの意味は? トム・ハンクス主演

2021-04-07 | ネタバレあり
A Beautiful Day in the Neighborhood
上映日:2020年08月28日
製作国:アメリカ
上映時間:109分
監督/マリエル・ヘラー
脚本/マイカー・フィッツァーマン・ブルー ノア・ハープスター
出演者/トム・ハンクス マシュー・リス クリス・クーパー



ホラー映画?

白人おじいちゃんがずっとやりたい放題。
死ぬ前の夢かと思いましたよ。


この映画の制作者が伝えたい善なるメッセージがきっとあるんだと思うし
それをキャッチできた観客の皆様におかれましては
この映画との幸せなつながりができてとても良かったことと思います。


僕はもう怖くて。。
なんでこんな暗い画面なの?
何で突然老人たちが一斉に目を瞑り始めるの?
どうしてそれをロジャースが一回も瞬きもせずに凝視してるの?

今まで楽しくピアノ連弾してたのに夫の興味の対象が瞬時に変わって
1人ピアノの前に置いていかれてしまった妻の表情。。。



***


怖いのさ、ずっと。
なのに「ホラー映画だよ」って言ってくれないのがさらに怖い。。

後半で話がひっくり返るのかと思っていたら全然そうならない。
実はロジャースがサイコパスでしたっていう話にならない。。

ただただまっっっっすぐ話が進む。

で、ほんとにラストのラスト、ラストのピアノの一撃。



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客観的な視点がない、とは言いません。

ロジャースと奥さんがピアノ連弾して楽しんでるときに
ロイドが部屋に入ってきたので
ロジャースは連弾をやめ、ロイドと2人でササッと食事に出かけてしまう。

夫がやりたいことの前では
今の今までノリノリで楽しくやっていた妻とのピアノ連弾なんて
バッサリと中断しても何の問題もないことである
というのがまずとても怖いんですけど

この後の奥さんの表情がなかなかすごい。

一度も振り返らず部屋を出ていく夫の後ろ姿をじっと見る奥さん。
彼女はピアノの前に座ったまま。

「一時停止押しちゃったかな?」っていうくらいにピタッと止まってただ消えていった夫を見つめる彼女。

この、聖人だと奉られている夫の異常性を必死で伝えようとしているかのような視線。


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で、この後レストランで向かい合うロジャースとロイド。

ロジャースはある〝エクササイズ〟をロイドに提案する。

ロジャースはロイドに喋りかけてるだけなんだけど
他の席に座る老人たちがその言葉に耳を傾けるようになり注目する。

「1分間目をつむりなさい」というとみんな食事の手を止めて目を瞑る。

ロジャースは「私も一緒にやる」と言っていたが
ロジャースだけは全然目をつむらない。

目をつむっているロイドを見つめてるってことなんだろうけど
実際はカメラを凝視してる。

カメラは、まばたき一回もしなロジャースをズームしながら30秒間を映し続ける。

ロジャースはまっっっすぐこちら(観客)を30秒間無言で見つめてくる。
(やばい!脳に侵入されるっっ!というアラーム作動!)

なかなか異常なシーン。

しかも
あたたかく優しい雰囲気のシーンではないんですよ。
無言で真顔のおじいちゃんの顔にズームしていく30秒なんて
怖いに決まってる。

1分間が終わって
ロジャースは「私も一緒にやる」「一緒にやってくれてありがとう」って言ったけど
ロジャースはやってないからね。


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父と息子の融和のシーンの劇伴もかなり不穏な音楽。



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ラストネタバレは以下に。




番組の収録を終えたロジャース。 
距離を取りながらロジャースの背中を追うカメラ(このショットがすでに不穏)。

 スタジオの隅のピアノを弾き始める。
 心地よい音楽〜♪ ラストにふさわしい感じ。

 からの、10本指でジャーンッ!
鍵盤を叩きつける。
大きな不協和音。

 湧き上がる怒りを抑え込みたいときにロジャースがよくやると言っていた行為。 

で、また心地よい音楽に戻る。

 おわり。

 めっっっちゃくちゃ怖いラスト。。。



ロジャースも怒りを内包しているってことなんだけど
ロジャースは何に怒ってたの?
あんなにも全てロジャースの思い通りに事が進んだのに。

富と名声を手に入れて
さらには「富と名声が欲しいわけではない人」という聖人レベルにまで上り詰め、
さらにさらに「聖人などではなく私自身も怒りと戦っている」という親近感さえも手に入れ

冒頭で「雑誌ってのはこんなにたくさんの人の手によって作られているんだぁ」と雑誌というものの価値を高めておいて
ラストではその雑誌の表紙に自分の顔をババンと載せる。

やりたい放題なのに、彼の怒りはどこから生まれたの?

それは誰も知らない。妻さえ知らない。


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おそらくは、この映画の制作が決まった2018年にアメリカ国内や世界に「怒り」の連鎖を広げていたトランプ政権に対しての「怒り」なのでしょうね。






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