玉川上水 花マップ

玉川上水沿いの主な野草の生育地図を作ります

シンポジウム(小平の玉川上水の自然が危ない)の記録

2023-05-09 11:11:21 | シンポジウム
シンポジウム(小平の玉川上水の自然が危ない 2023年5月7日)の記録

事情があって「玉川上水みどりといきもの会議」のブログが一時的に使えないので「花マップ」の庇を借りることにしました。

記録 
動画記録 こちら 
アンケート 集計 意見
感想(一部) こちら
意見交換の記録 こちら



会場はほぼ満席になりました。

会場の様子

++++++++++++
以下は高槻による記録です。

 私は 玉川上水の 動植物を調べてきた。そして、小平の玉川上水が上水全体の中でも もっとも豊かであるということがわかってきた。その小平の玉川上水に幅の広い新しい道路がつけられるということを知り、黙っていられない気持ちになった。そこで 同じ思いを持つ人たちとシンポジウムを開催することにした。このシンポジウムでは二つの講演と 意見交換の時間を設けた。

 最初の話題は水口和恵さんによる10年前の住民投票活動と、その後の経緯に関するものだった。
 小平都市計画道路328号線は、2010年2月に東京都が説明会を行ってから、事業認可へ向けて動き始めた。それより前の2007年から2009年にかけて、328号線が玉川上水を横断する部分は地下、高架、平面のどの形状がよいか、東京都と小平市で話し合っていたが、2010年の説明会では、36m幅の道路が平面で玉川上水を分断する案が示された。説明会では、328号線ができれば、救急車が小川町交差点から多摩総合医療センターまで行く時間が、9分から6分へと短縮できる、と説明された。
 その後、この道路計画に疑問を感じた水口さんたちのグループは、計画を見直すべきか否かについての住民投票の実施を目指し、署名運動を始めた。期間は限られていたが、2012年12月から翌年1月にかけて7183筆もの署名を集めることができた。これを受けて同年2月に住民投票をするための条例の制定を小平市長に直接請求し、その条例案が市議会で可決された。ところが、4月に市長選があって小林市長が再選された後、市長は投票率50%以上が必要という条件を「あと出し」し、5月26日に行われた住民投票の投票率は35%で、50%に達していないことを理由に不成立とされた。皮肉にも市長選挙の投票率は37%であった。それなら市長選も不成立ではないかといいたくなる。私はこのことを知ってはいたが、フェアでないことに改めて憤りを感じた。
 住民投票実施の翌々日に、東京都は国交省に328号線の事業認可を申請し、7月に事業認可が下りた。道路予定地の地権者の方々は、事業認可の取り消しを求める裁判を提起し、水口さんたちは、住民投票の投票用紙の開示を求める裁判を提起した。それらは、どちらも原告敗訴となり、投票用紙の開示を求めた裁判の最高裁判決の翌日には、投票用紙は破棄された。私はこれを聞いて、誰のための判決であり、誰のための行政なのかと思った。


水口さん

 続いて私が小平の玉川上水の豊かさについて話した。一つは「花マップ」のことで、玉川上水30kmに96の橋があるので、その数の区画に分けて、主要な野草の生育状態を記録することができた。 その後、 一ヶ月に 3回の調査をして、開花状態を記録した。これにより、種子植物だけで 少なくとも500種以上が生育することが確認され、玉川上水の植物の豊かさが確認できた。

「花マップ」冊子

 次にタヌキの話をした。タヌキの生息状態を センサーカメラを用いて玉川上水とその周辺の孤立緑地で比較したところ、玉川上水の方が撮影率が高く、緑地が連続してることが重要であることがわかった。


玉川上水と孤立緑地での撮影率

 津田塾大学は 小平にあり、玉川上水に接している。そこにはタヌキがおり、果実を主体とした食生活を持っているが、その果実は エノキ、ムクノキ、ギンナンなどで、里山でよく食べられるキイチゴやクワなどは 食べられていなかった。

津田塾大学のタヌキの食べ物(高槻2017より)

 このことは 90年前に津田塾大学が砂埃を避けるためにシラカシを植え、その林が育って鬱蒼とした林になったことによることがわかった。 またタヌキがいれば糞をし、その糞でこれらの樹木の種子が散布され、また糞虫が養われている。このようなタヌキを中心とした生き物のつながりを知ることができた。
 次に樹木調査と鳥類の種類と個体数を調べたところ、小平と三鷹の井の頭公園が豊かで、杉並は乏しくなり、小金井は最も貧弱であることがわかった。このことは森林の状態が鳥類群集に強い影響を与えることを示す。


玉川上水沿い4カ所での鳥類のタイプごとの個体数
(高槻ほか2023印刷中より)

 杉並では2019年に開通した放射5号線の開通後に鳥類がほぼ半減した。これに対する東京都の予測は極めて杜撰であり、このようなことで計画が実行されたことは理不尽なことである。
杉並での放射5号線前後の鳥類の個体数(大塚ほか2023印刷中より)

 これらの 結果を踏まえ、昭和時代に作られた道路計画が現在も強行されようとしていることの不合理性、市民の声が届かないことのもどかしさなどに言及した。

  玉川上水は江戸時代に作られた歴史的遺跡である。1965年に上水の機能を終えてからは、樹木が育つようになった。周辺が市街地化する中で、武蔵野の動植物が逃げ込むように生き延びる場所となり、住民にとっては散策し、その自然を楽しむことの意味が大きくなった。半世紀も前の昭和の高度成長期に、経済発展のために都市の自然が破壊された。328号線は、その時代の空気の中で計画されたものであった。現在はどうであろうか。「人か自然か」という二者択一の基準を置き、自然の犠牲はやむを得ないとしたのは高度成長期の考え方であった。道路がつけば人の生活が便利になることは確かであろう。しかし、「人か自然か」という二者択一の考え方は正しいのであろうか。日本の現状を考え、これから先のことを考えた時、次の世代にどのような玉川上水を残すかは、我々に課された大きな課題であろう。動植物のことを考え続けてきた私には、この分断道路をそのまま開通させることに何もしないのは、自分を許せない気がする。 折しも、神宮外苑の街路樹伐採に対して大きな反対運動がおこっている。私たちの中に、都市に残された自然に対して、もうこれ以上の仕打ちはやめるべきだという気持ちが湧き上がっているのではないだろうか。このことは、行政の決定に対して、住民の意志をいかに反映させるかを考えるという意味でも重要な課題であると思う。

休憩の後、2氏からコメントをもらった。

 関野吉晴氏は「グレートジャーニー」の経験からアマゾンの狩猟採集民との交流の話から、ゴミ、排泄物、死体が自然の循環の中にあること、それに対して我々はその循環からはずれてしまった。それは「もっともっと」という欲望が過剰となったからであり「ほどほど」が大切であり、玉川上水の分断道路も同じ過剰欲望の一例だとした。

関野吉晴氏

 次に國分功一郎氏は、10年前の住民運動の時に体験した説明会での衝撃、つまり誰がどうして決めるかがわからず、住民の声が全く無力であることを知らされたことを話した。また328号線が小平の西のことで、多くの小平市民にとっては直接関わらないにも関わらず、市長選と同レベルの投票率があったことから、市民の関心が高かったことを説明した。次に昭和の高度経済の時代の計画が今も進められていることについては、あの時代の経済は望めないにも関わらず、行政だけでなく資本による大きい動きがあると思うとした。そして行政に立ち向かうのは極めて困難であるとしながらも、横浜市の瀬上沢緑地の開発を東急が断念したなどの例もあり、何がどこで役に立つかはわからないので、こういうシンポジウムなども何かの力になるかもしれないと結んだ。

國分功一郎氏

 その後、意見交換をした(記録はこちら)。小平市以外から参加した人に挙手を求めたところ過半数の挙手があるように見えた(アンケートによれば実は46%であった)。このことは多くの人がこの分断道路は小平だけの問題ではなく、玉川上水全体にとっても重大な問題であると考えていることを示す。
 多様な意見が出たが、一つの極は道路計画そのものを見直すべきだというものであった。この人は人も自然の一部であるということ、昭和に立てられ得た計画は今は状況が違うので納得できないという意見であった。これに対して問題をそこまで戻すのは非現実的であり、実際に少しでも可能性があるものとしては地下ないし高架に変更させることで、地上(平面)道路による樹林破壊を回避すべきという意見であった。これについて異なる意見も出され、盛り上がりを見せた。
 リー智子さんから、 自分は地下化には問題があると考えるが、もしそのことによって 計画の見直しがされれば、着工が十年くらい延びるのではないか、その意味で地下化にも意味があると思うという意見が出て、拍手する人もあった。

 今回の意見交換によって一つの結論に到達することはないし、そうである必要もないと思う。私たちのできることには限りがある。しかし、玉川上水の自然が貴重であるということを明らかにし、そのことを積極的に発言することによって、多くの人にその価値を知ってもらうこと、そしてそのことをメディアなどを通じて社会に発信することで、行政に見直しを図ることはできるかもしれない。そうした努力を粘り強く進めていきたいと思った。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 玉川上水の野草たち 24, 2023... | トップ | アンケート集計 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

シンポジウム」カテゴリの最新記事