玉川上水 花マップ

玉川上水沿いの主な野草の生育地図を作ります

玉川上水、笹塚での観察会

2019-11-09 22:54:01 | 観察会
玉川上水、笹塚での観察会

高槻成紀

 玉川上水は羽村から東に30km続いた後、杉並の浅間橋で暗渠になる。基本的にはそうなのだが、笹塚のあたりで部分的に開渠になることは聞いていた。ただ、ごく狭い範囲なので、見ないままにしていた。


笹塚の位置


 最近になって花マップのメンバーであるリー智子さんから、その笹塚で街づくりの一つとしてこの緑地をどう利用するかを考えて活動を始めているグループがあり、観察会に誘われたが、できたら私にも参加して欲しいと言われた。



 先日、立川で調査をしていたらその活動を主導しているオフェルさんと櫻井さんご夫妻がお子さんと参加されて、少し話をした。オフェルさんはイスラエルの方で、都市の自然の管理計画を進めてきて、例えばガゼルの住む公園を作るなどの活動をしてきたということだった。現在、渋谷区が笹塚の緑道をどうするか市民の意見を求めているということだった。
 そうしたことから11月9日に現地に行った。


笹塚駅と玉川上水(オレンジで囲った部分)。Googlde mapから作成


私は大人の人が集まるのだと思っていたが、蓋をあけると子供参加型の集まりを計画していたようだった。ところが期待していた小学校がこの日に別の予定があるので、子供は参加できなくなったということだった。ただお二人の友達の保護者と子供が少し遅れて参加した。
 はじめにオフェルさんからこの活動の意図が説明され、今日は1時間ほどを笹塚の緑地を観察し、残りの時間を上流というか西側の世田谷区部分を除くということになった。


説明をするオフェルさん


 私は少し早く着いて一通り緑地を見ておいた。私たちが親しんでいる玉川上水とは大きく違い、U字型の水路ではなく浅いV字型であり、コナラなどの雑木林の樹木はなく、イネ科が多かった。また意外に水がきれいだった。


開渠部の景観(手前側が笹塚駅)


みんなでゆっくり歩き始めて、まずイネ科の説明をした。
「みなさん、野草といえば白や黄色の華やかな花をつけるものを連想しますが、そういう花はここには少ししかありません。そこにヒメジョオンがあるくらいです。でも実はたくさんの野草の花があります。それはイネ科で、ここにメルケンカルカヤ、アキメヒシバ、スズメノヒエなどがありますし、少し先にはススキ、チカラシバ、アブラススキなどもあります。イネ科の花は「これが花?」と思うほど華やかさはなく、色も緑色や茶色など地味なものです。というのは華やかな花は花粉を昆虫に運んでもらうために華やかになって宣伝をしますが、イネ科は風で受粉するので、その必要はないからです。昆虫によるものを虫媒花、風によるものを風媒花と言います」
「イネ科もそれぞれがすごく違いますが、イネ科の花は軸に穂がついていて、穂に小さな花が並んでいますが、その穂の長さや形、つき方がさまざまです。アキメヒシバは穂が一箇所から広がりますが、エノコログサは穂がなく、軸に直接花がびっしり着いています」
「ここにみずみずしい葉のイネ科がありますが、これはナガハグサと言います。牧草が逃げ出したもので、農業ではケンタッキーブルーグラスと言います。ラグビーのワールドカップのグランドはとてもいい芝生でしたが、あれは多分これです。「思い出のグリーングラス*」っていう歌を知りませんか。アメリカのカントリーソングで、歌詞は犯罪を犯して牢獄に入っていた人が刑期を終えて家に戻ったら、我が家の庭のグリーングラスが懐かしかったというもので、私はこれはケンタッキーブルーグラスだと思います。この草の緑は少し水色がかって見えます。日本の在来のシバは野芝といって全然違うものです。葉は結構硬くてチカチカします。ああ、ちょうどここにありました。これが野芝です。これに比べると、ケンタッキーブルーグラスは柔らかいので、ラグビーでトライして飛び込んでも気持ちいいはずです」
といつものように横道に逸れました。

*トム・ジョーンズでヒットしました。こちら

 虫媒花がほとんどないと言ったが、ブタナにヤマトシジミが来ていた。ヤマトシジミはカタバミが食草だから、こういう市街地の中でも生きていけるのだと思う。


ブタナにヤマトシジミ


 駅の方に向かい、橋を渡った。そこから水を見るときれいな清流が見えた。玉川上水に詳しい加藤さんによると、この水は湧き水だということだった。それならこのきれいさも納得できる。橋を渡って下流に向かった。こちら側にはヤブマオ(正確な名前は保留)がたくさんあった。対岸にサクラの木があった。
「ここは小平あたりの玉川上水と違い、コナラなどの落葉樹がありません。サクラがありますが、これは植えたものです。サクラの下を見ると植物が少なく、特にイネ科はほとんどありません。だからここは明るいことが特徴で、直射日光が当たるとイネ科が入ってきます。ただ小平などではススキはありますが、他のイネ科はこれほどはなく、ワレモコウ、シラヤマギク、ツリガネニンジンなどの野草がありますが、ここにはありません。なぜかは単純にはいえませんが、トータルに「自然度が低い」ということです。ウメの木とシダレヤナギもありますが、いずれも植えたものです」


説明をする高槻(こちら向き)


 特にこれという植物もなく半分くらいを歩いた。私たちがキョロキョロしたり、玉川上水を見ながら話をしていたからであろう、お年寄りが話しかけてくださった。


話をしてくださったお年寄り


「俺たちは子供の頃、ここを泳いだもんだよ」
「えー、そうなんですか」
「ああ、もっと水があって、泳げないとガキ大将が仲間にしてくれないもんだから、一生懸命練習してな」
「赤フンとか」
「ああ、ふんどしと呼べるようなもんじゃなかったがね」
「ていうことは、水は1メートルくらいあったんですか」
「もっとだよ。あそこのところに弁天様があって、あの先まで泳いだんだ」
「へー、それいつ頃のことですか」
「昭和20年ごろだな」
「そうですか、いい話をありがとうございました。」
こういう交流ができたのもうれしかった。

 水辺にジュズダマが少し生えており、イヌタデが紅色の花を咲かせていた。下流の橋が近づいたところではミゾソバとノコンギクがあり、少しではあるが、玉川上水らしい野草もかろうじて生き延びているようだった。橋の方に戻るとき、園芸種の黄色いコスモスにキタキチョウが止まっていた。少しは蝶もいるようだ。


ミゾソバ、ノコンギク

 橋に戻って水路を見ると、魚がいるとか、ザリガニがいるとか盛り上がった。




橋からのぞく(上)、撮影する櫻井さん(下)

 子供を相手にしていたオフェルさんが長いボードに子供たちを指導して木の葉などを貼り付けた作品を持ってきた。


作品を作る子どもたち


とても楽しい作品に仕上がっていた。


子どもの作品


記念撮影


 渋谷区がどのくらいの覚悟で計画しているのかわからないが、このささやかな緑地が、いい形で市民活動につながれば素晴らしいことだと思う。そのために地道な観察が役に立てばいいなと思った。


笹塚開渠部を上から見たところ

 ほとんどの写真は加藤さんによるものです。ありがとうございました。
コメント
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