2023.12.20
玉川上水の「大樹しらべ」の報告
市川 優・大石征夫・大塚惠子・加藤嘉六・黒木由里子・桜井秀雄・
澤口節子・関口隆彦・高槻成紀・田中 操・豊口信行・長峰トモイ・
広岡佐和子・松山景二・村上健太・リー智子
2023年に花マップネットワークの活動として玉川上水の大樹を調べたので、報告する。調査範囲は羽村の取水堰から杉並の浅間橋までの約30 kmである。ただしゴルフ場であるとか、立ち入りができない場所などで測定できない場所もあった。
調査は玉川上水にある橋を目印にして、上流から橋に番号をつけ(主な橋番号は、拝島の平和橋が21、小平の監視所が39, 小金井の小金井橋が63、三鷹の万助橋が83、最後の浅間橋は96などで、調査は95の岩崎橋と浅間橋の間の区画までおこなった)、橋と橋の間を区画として、区画内にあった直径50 cm以上の木の種類と直径を記録した。これを花マップネットワークのメンバーで分担して測定した。
方法は基本的には地上1.2 メートルの木の周囲をメジャーで測定し、円周率で割って直径を求めたが、柵内などで周囲が測定できない木については塩ビパイプあるいは竹で作ったT字形の測定具を作って直径を測定した。この方法では5 cm刻みで推定したので、精度はやや低いが、予備調査によって3, 4 cmの誤差はあるが、それ以上ではないことを確認した。
<直径50 cm以上の木は何本あったか?>
調査範囲にあった直径50 cm以上の木は731本であった。これは100メートルあたり2.4本となるが、右岸と左岸に分けると100メートルあたり1.2本となる。
<何種類の木があったか?>
全体で26種が確認された。ただし、ヤマザクラには多様な品種があること、調査時はヤマザクラとソメイヨシノの区別が難しかったため、「サクラ類」とした。このうち、イチョウ、ウメ、ソメイヨシノ、スギ、トウカエデ、ヒマラヤスギの6種は植栽されたもの、あるいは栽培種なので、当地に自生する種は20種となる。
<多かった樹種は?>
多かった順にサクラ類(302本)、コナラ(136本)、クヌギ(110本), ケヤキ(110本)で、これらは100本以上あった。
表1. 出現した木とその本数

サクラは植栽された樹種であるので、これを除いた樹種の本数を見ると、コナラ、クヌギ、ケヤキの3種が約4分の3を占めていた(図1)。

図1 サクラ類を除いた樹種の本数内訳
<どこが多かったか?>
木の本数は区画ごとに100 メートルあたりの密度として表現した。その結果、上流の新堀橋(5、数字は橋番号)が最多で25.0本/100 m、ついで清願院橋(玉川上水駅、38)、小平の新小川橋(48)、上流の羽村大橋(3)と続き、ここまでが10本/100 m以上であった。
主要樹種について密度の分布を見ると、クヌギとコナラは立川から小平にかけて集中的にあることがわかる。これに対してケヤキは全体に偏りなくあり、サクラは羽村と小金井よりも下流に多い。このことから、立川から小平にかけての範囲はサクラの植樹がされなかったおかげで、武蔵野の雑木林的な林ができたことがわかる。クヌギは特に高密度であり、植林された可能性が大きい。クヌギは太平洋戦争中にコルクをとるために植えたという情報があり、樹齢からしてもその可能性がある。

図2. 主要樹種の密度分布。横軸の数字は橋番号。縦軸は一定でないことに注意。
<大きい木は?>
最も太かった木はケヤキで、直径が137 cmあった。この木は「牟礼の大ケヤキ」と呼ばれ、現在は放射5号線に挟まれるように孤立している。

図3. 玉川上水で最大の牟礼の大ケヤキ
そのほか大きい木の上位20本を見ると、16本(80%)はケヤキで、そのほかにはイチョウ2本、エノキとコナラがそれぞれ1本であり、大樹にはケヤキが多いことがわかった(図4)。

図4. 直径の大きい順に上位20本を示した図
<直径1 メートル以上の木は?>
直径が1 メートル以上の木は78本あった。これは全体の10.7%にすぎず、距離1 kmに2.5本しかない。これは片岸約200 メートルに1本しかないということになる。1メートル以上あれば「巨樹」と呼べる太さだが、そういう木は少ないことがわかった。
直径が1 メートル以上の木からサクラを除くと半分の39本だった。
まとめ
玉川上水約30 kmに直径50 cm以上の太い木は731本あった。ヤマザクラ、ソメイヨシノを含む「サクラ類」が最多で302本あり、コナラ、クヌギ、ケヤキなどが続いた。野生の樹種は20種であった。サクラは上流と小金井より下流に多く、ケヤキは偏りがなかったが、コナラとクヌギは小平と立川に集中的に多かった。サクラ以外で最大の木はケヤキで、トップ20のうち16本はケヤキだった。(文責:高槻成紀)
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参加者の感想
大塚惠子:この調査では大樹に触れたり周りの地面もフカフカで生き物も多く見られ、調査の中でも幸せなものでした。その反面、桜は見るも痛ましい姿が多く、ナラ枯れや松枯れなど病気の大樹については考えさせられました。玉川上水の狭い緑地で、枝を落とされ、道路沿いなど、環境が悪い中でも生きる姿が印象に残りました。
高槻成紀:大きな木の前に立つと自然に手を合わせたいような気持ちになります。直径1メートルを超える木を見ると、「この木は何をみてきたのだろう」と想像します。小平にコナラやクヌギが多いことがデータで裏付けられたことは嬉しいことで、鳥が豊富なことも納得がいきました。同時に昨今のナラ枯れによって既に伐採された木や立ち枯れた木も多く、心が痛みます。