映画と音楽そして旅

主に懐かしい映画や音楽について…
時には新しい映画も…

(バーチャル・ツアー)(17)「月よりの使者 富士見駅」

2006-06-16 00:01:20 | 旅 おでかけ
 甲信国境を越えて信州へ入った列車は、やがて「富士見駅」で停車しました。
 その昔…私をまだ見ぬ信濃路へ誘いこんで、あれこれと想像の世界に迷いこむきっかけを作った宇野浩二の小説の一節…
 「その時、丁度汽車が止まったので、もうどの遍だらう、と半分独言ちながら、窓の外を覗くと、「ふじみ」と認めた白い立て札の傍に、海抜三千百三十五尺と書いた棒標が立ってゐた。『君、もう信州へ這入ったんだよ』(中略)…名状し難い身震いするやうな感動を覚えながら、友達に報告すると…(下略)」
       (「明治大正文学全集」『山恋い』より 旧仮名使いによる)
 中央本線「富士見駅」は小説にあるように、標高1000メートル近くの高原にありますが、これは今も昔も変っていないと思います。
 この駅は当時は最も標高の高いところにある駅でしたが、小海線の開通によりトップの座を、先日に通った「野辺山駅」に譲りました。
今春に中央高速で濃尾平野から恵那トンネルを出た時、一面は純白の世界…あの時はほんとに「信州へ来たんだな…」と実感しましたが、長時間がたごと揺られたやっと辿りついた昔の列車の旅なら感慨は尚更だったと思います。

 この清冽な空気の中にあったサナトリウムは、いろいろの作家や文学者との接点があり、小説の舞台にもなりました。
 活字に飢えていて目につくものを無差別に、手当たり次第に濫読していた頃、姉が友達から借りて読んでいた小説…久米正雄の「月よりの使者」をこっそりと読んだことがありました。
 ここを舞台とした物語は戦前戦後にかけて、何度も映画にもなったことはよく知られていますが、私はこの映画の主題歌が好きでした。
     白樺揺れる高原に  りんどう咲いて恋を知る 
     男の胸の切なさを  啼け啼け山鳩幾声も
 中身はここの「白衣の天使」(古い言葉…)と、ある青年とのラブ・ロマンスですが、少し探偵小説的な場面もあってドキドキしながら読みました。

 写真はやはり私が愛読していた「日本地理大系 中部編」に、掲載されているサナトリウムの全景です。背景の山は八ヶ岳で小海線は、この山の南麓から東麓を通っています。