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◇企業システム◇米IBMが「新クラウド・サービス」を発表

2008-10-27 16:29:55 | システム運用管理

 【システム運用管理】米IBMは、すべての規模の企業が、より簡単にクラウド・コンピューティングを導入し、データ管理の改善、運用コストの削減、連携を容易に実現する「新クラウド・サービス」の提供を開始すると発表した。これにより、13のクラウド・コンピューティングセンターや、40のIBMイノベーションセンターなど、IBMの世界中に広がるネットワークを通じて、ユーザー企業は多数のクラウド・サービスの専門家にアクセスすることができ、クラウド・コンピューティング・モデルを通じて、アプリケーションをテストすることができるようになる。さらに今回、SI企業が、クラウド・コンピューティングにより、新アプリケーションを短時間で開発可能なサービスも同時に発表された。 (08年10月15日発表)

 【コメント】クラウド・コンピューティングの定義はなかなか正確にできないのが現状だ。それだけ技術の進歩のスピードが早く、次々に新技術が付加されているとうことだけははっきりとしている。一般的にいってクラウド・コンピューティングとは、パッケージソフトを個々のユーザーが購入し、サーバーやPCに搭載して利用する従来の方式ではなく、あらかじめインターネットに接続されたサーバー上に搭載されたソフトを、従量制でユーザーがオンライン共同使用する方式を指す。既にグーグルなどにより、オフィスソフトなどがこの方式で提供されており、今後、徐々にユーザーは増えていきそうな気配だ。問題は企業システムにクラウド・コンピューティングが普及するのかという問題だ。SaaSで一挙にCRMソフトユーザーを広げることに成功したセールスフォース・ドットコムは、企業システムへのクラウド・コンピューティングの成功事例の代表的なものとなった。そうなると企業システムへのクラウド・コンピューティングの浸透は時間の問題のようにも考えられる。ところが企業システムへのクラウド・コンピューティング普及には、今後たくさんのハードルを超えねばならない。

 その一つはセキュリティの問題だ。実はコンピューターの共同利用の歴史は古く、TSSを経て現在まで幾多の試練を経験してきた。いかに顧客データを守るかは古くて新しい問題だ。それはサーバーを物理的に共同利用させる技術だけに限定される問題だけでなく、人間の介在する場合のセキュリティ管理をどう実現させるかにある。既に米国ではセールスフォース・ドットコムの顧客データの漏洩問題が発生している。つまり、SaaSにより自社の顧客データを管理するということは、リスクをはらんでいることを、十分に承知しておかねばならない。そうなると、クラウド・コンピューティングが企業システムで爆発的に増えるということが、必ずしも言えなくなってくる。それに、各企業独自の戦略システムと、企業システムの共同利用をどう折り合いをつけるかも微妙な問題として挙げられる。ある一社が提供するクラウド・コンピューティングを利用するユーザーのアプリケーションが皆同じでは、企業システムの優劣で競い合う時代においてはあまり歓迎されまい。さらに、使用した分だけ払う従量制なのでコストを抑えられるという点も、初期投資の低減は事実としても、使用年数が経過した後でも一定額の料金を払い続けることを、ユーザーが果たして納得するのかも問題だ。

 とはいえ、時代の流れは確実に企業システムもクラウド・コンピューティングへ向かっていることも事実であろう。仮想化システム、SOA、OSS、グリッド・コンピューティング、SaaS、PaaSなどは、企業システムがクラウド・コンピューティングを導入するする際の露払いになるという見方が有力だ。今回、米IBMが発表した新クラウド・サービスは、こんな情勢を先取りした施策として注目される。ロータスやラショナルなどIBMにとって虎の子のソフトウエアをすべて投入して、クラウド・コンピューティング市場を抑えようとするIBMの姿勢がありありと読み取れる。その裏にはクライアントシステム市場でマイクロソフトに完全に牛耳られた、苦い経験が脳裏にあるのだろう。今回のクラウド・コンピューティングは、サーバーシステムが主役を演じる市場であり、ここでは絶対に負けるわけにはいかない、とIBMは考えているに違いない。(ESN)