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小説「2023年日本転移」24話

2020年12月30日 | 小説

      24話 沖縄台湾航路

杉原総理に呼ばれた人事総局の鈴木はもう臨時はいらないと思える臨時執務室
の前で立ち止まった。会議以外の毎日、扉が閉ざさることは無く開放に固定。
(何度も来ると・・・慣れてしまったな・・・)
中ほどで声をかける
「鈴木です、お呼びとの事で参上いたしました」
顔を上げ机を回り込んで近づき握手を求めてきた
「いやいや、よく来てくれましたな、総局の活動に皆で感心しておりますよ」
「それはそれは、お役に立てているなら何よりです」
無理しなければ笑顔は出てこない・・・年寄が演技とは役者ではないのだが
(また無理難題を言い渡されるか?)
「さあさあ、どうぞどうぞ」着席を進めてくる総理
「ありがたい・・・年寄は足腰や記憶が・・・どうも衰えて・・・」
(この程度で引き下がるはずも無いな・・・杉原はしたたかだ)
「何を言われるか、初めてお会いした頃よりお元気そうですぞ!」
(確かに、体も傷まず記憶も確実、思考力もなぜか上がってる気がする)

「元気と言われると、年寄は嬉しく感じますねえ~しかし体力は年々・・・」
「まあ、そう警戒しないでください、悪い話では有りませんから」
テーブルの茶をゆっくり飲み、耳を傾けた
「南部縦貫幹線は御協力により順調に建設が進んでおります、真に有り難い。
これから北部縦貫幹線の建設に進みたいのですがご存知の通り、人材に困難が
在る訳です。東北地方は・・・あーーー住民が少ないという・・・
そこで台湾救援計画の一部として60万人を海路移送し建設と救援の両立を実現
するのが方策として適切と考えますが・・・いかがでしょう?」
(うーむ。直接的に人事総局と関係は無いはずだが・・・)
「気にかかる点が・・・船は在るのでしょうか?」
コーヒーを飲みほして声に力を込めた
「そこですよ!船は無い。早い話が・・・総局に船を用意していただきたい!」
お茶の味が消えた
(なんという無理難題・・・海岸壊滅の現在、船をどこでどうしろと・・・)
「なるほど。数隻は人員輸送に使える船が在るのですね」
杉原総理は両手で否定した
「いやいや、外洋で移送できる船は1隻も・・・無いのですよ」
「すると・・・車両と同じく早急に回収し修理の上で海路輸送実現すると?」

「いやあ理解が早くて助かりますなあ~端的に、その通りですな!」
(いや、その通りと言われても・・・やはり難題だったか・・・)
「そこで、ご意見を直ぐに聞かせていただきたい」真顔の総理が鈴木を見る
(意見など在るはずが無いが・・・船か・・・)
「5000トン以下のフェリーが多数陸地に取り残されてます、むろん殆ど大きく
損傷してるので大修理を要します。船台まで複複線を建設しガントリクレーン
で輸送し大修理、輸送困難なら擱座現場で幾つかに切断し輸送する。
複複線を建設する間にクレーンを組み立て船体を正常な姿勢に維持する。
擱座フェリーの発見と地域状況の空中偵察を政府に求めたいと考えます」
総理はしきりに頷いた
「うむうむ、真っ先に相談して良かった、良かった。偵察は軍に指示しますので
実務の準備を進めていただきたい!実は・・・台湾の方が限界に・・・
政府も協力する意思が有ります、内閣の決定を急ぐので船の修理を願いたい」
(うーむ・・・また仕事が増えるなあ・・・だが台湾600万、見捨てれば全滅)
「何隻と約束はできませんが、準備し修理に努めましょう!」
総理が頭を下げた
「日本国民と台湾国民に代わり、感謝します」

第二人事総局陸上課に臨時組織として船舶係りが作られた。
中央から下関まで偵察隊が船台を探索し残存設備を確認、有力地点に臨時拠点
を設け修理設備を集積。船体やエンジン知識ある老人隊が擱座フェリーを検証。
1000トンクラス4隻を優先する事に決定、軍の偵察報告を踏まえ修理計画策定。
損傷の少ない点と修理の容易さで就役は40日後の予定。
計画では5000トン以下に対象船舶を選択、修理と運用の迅速を期した。

政府は修理就役を待たず海軍の小型艦艇6隻による食料、人員輸送を開始。
台湾の稼働艦艇1隻が参加し7隻による航路が動き出した。
日本側の入港地は新潟が選ばれ鉄道と車両で建設工区に移送された。
今後に備え大規模な一時収容所が新潟に建設されて行く。
原発は5万キロワットで運転開始、新潟周辺に電力供給を確立した。

第二人事総局の局長室で鈴木は夕暮れを迎え想いにふけった
(1年と少し・・・忙しく頭と体力を擦り減らす仕事だったが・・・
老後をただ漫然と過ごし死んで行くだけと思っていたが、最後に期待され
いくばくかを応えられたと思えるのは幸せであり満足でも有る・・・
自分も後5年だろうな、貧乏と希望のない70年だったが、何かを見れるかも?
大災害で大勢が死んだ幼児も老人も壮年も若者も、外国にも安全は無かった)
(船舶修理計画書・・・実現すれば600万に希望が生まれる、過酷な作業を
老人がやり抜いている。文字通り死ぬ気で昼夜作業を引き受けてる・・・)

その夜、今夜で寿命が尽きるのかも?と静かに想いながら眠りについた。

 

翌朝。なぜか若々しく見える鈴木の顔を朝日が照らした。


眩しさに身を転げ元気に跳ね起きた。
昨夜は寿命が尽きたと思ったが、まるで50代の感じだ・・・朝立ちとは?
ろうそくの最後の輝き、なのかな?
まるで判らないが気力と体力は充分だ!さて今日も書類を処理しよう!

 

 

 

 

 

 


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