遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「丘の日の雲」

2010-09-15 | 現代詩作品
丘の日の雲



小高い丘にのぼる
男の理由はなんだったか。
青い空を流れる
霊媒の白い雲をよび
会えなくなった友を偲ぶのだったか。


夏草の丘の一角には
石碑があって
誰かの歌が刻まれていた
こけむす石が
淋しい影を宿して見えた。


《つわものどものゆめの跡か。蹟か。痕か。


夏の夕暮れには霊媒の雲が
物語る、死後の世界で
丘はびっしり埋め尽くされていて
男はここに来て初めて
雲の手に肩叩かれる淋しさを知る。


小さな家並に
あかりが灯る頃、帰れない
みなしご達の行方を思い
男はでたらめの歌を歌いながら
棲み家のあたりをさがす。


ーー小雨の丘のみなし子。夕陽の丘のみなし子。みかんの花咲く丘のみなし子。
そして、鐘の鳴る丘のみなし子。港が見える丘のみなし子。異国の丘のみなし
子。丘は花ざかりのみなし子。丘を越えてのみなし子。そしてあの丘越えての
みなし子。その他大勢のみなしご。みんなみんなたぶん淋しいみなしごだった。


十五少年漂流記や
ひょっこりひょうたん島の風に 
男がまかれた頃の
冷たい風が吹き下ろす、そのわけに
応えてくれる人もいない。


《つわものどものゆめの跡か。址か。墟か。


ひとり早蕨の丘に来て
泪の遭難者が後をたたないことを知り
男はここに来た誰もが、一度は雲の
みなしごであったことを
はっきりと思い知るのである。



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