遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「幽霊教室(近世編)」改稿分

2010-11-04 | 現代詩作品
幽霊教室(近世編)



中国から流れてきた雲の霊気という不可思議な力が
他界と現世を結ぶ通路であったという近世の名作のなかを
狩猟にでかける教室内のまさに優麗な出来事のテレビの中継を見ましたか?


一人の生徒は、足がないだけではなく腰から下もなかったのです(太平百物語)
つぎの生徒は、現れる時には下駄の音をさせる霊もいるそうです(怪談牡丹灯籠)
その次の生徒は、魂に形を与えられ斬られて赤い血を流すのもいます(加婢子)
……テレビのなかの先生の表情はここからは見えない。


一人の生徒は、生臭い物、とくに魚の臭いをきらうものと思います(雨月物語)
つぎの生徒は、亡霊でも喉が乾いて水を求めるものもいるそうです(諸国百物語)
その次の生徒は、一日に千里を行くことができる超人的なものです (雨月物語)
……テレビのなかの先生の発言はここからは聞こえない。


一人の生徒は、しかも遠くへ行く為に馬に乗ることもあるそうです(雨月物語)
つぎの生徒は、死んだ時のまま成長もなければ老いもないのです(雨月物語)
その次の生徒は、そのため長生きした妻と不釣り合いとなり、のちに死んだ妻と
 一緒にこの世に出現したときに夫は二十四、五歳、妻は六十歳余りという事態
 もあったそうです(保古の裏書)
……テレビのなかの先生の顎髭がちらりと見えただけだった。


一人の生徒は、解任したままに死んだ女が、自分の力で体内の子を産み落とせず、
 通りかかった見知らぬ男に自分の腹をつき破ってくれるように頼みこんだ幽霊
 もいます。(太平百物語)
つぎの生徒は、母親の亡霊はこの世に残した幼い自分の子に乳をのませることが
 できるものです(加婢子) 
その次ぎの生は、幽霊となった女が現世の男につれそってその男の子を生むこと
 もあります(諸国百物語)
……テレビのなかで先生は女生徒の意見をほしがっていそうに見えた。


一人の女生徒は、幽霊がまだ生きていると信じている人の目には、生前の姿を見せ
 るみたいですが、すでに死んでいることを知っている者の眼には骸骨だけがうつ
 るんだ、そうよ(三十石よふね始)
つぎの女生徒は、女の亡霊は契りをかわした恋人の前だけにはそのかたちを見せる
 そうで、およそかかわりなどのないひとにはまったく見えないこともあるという
 からなんか恐い(加婢子)
その次ぎの女生徒は、恨みある主人にだけ血しぶきの怪異を見せる、そんな召使い
 の女の幽霊もいるっていうの、ほんとうみたいです(太平百物語)
……テレビのなかの先生こそが霊気の通路そのものだったのではないかと。


そしてなぜ女性だけが幽霊という
流れる霊気のとりこになるのか
テレビの中の教室こそが虚空に浮かぶ浮遊華のようで
先生は超越的な存在の幽霊草をにぎり
金斗雲にのって消えたとか、消えないとか
近世隣の末路か、現世の
夢の儚さ               

*参考(「日本の幽霊」諏訪春男著)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿