前回、都美術館ターナー展へ出かけた事を書きましたが
今回は、ターナーの絵から感じ得た感覚を書いてみようと思います。
「ターナーはイギリスの美術史上最も偉大な画家とされています。」と、どの画集、美術教科書に紹介されていますが、実際どの程度我々は知っているでしょうか。私という小さな人間が感じたことを書くことでターナーの偉大さに想いを馳せてみます。
さて、美術書、画集等から受けるターナーをどのように見ますか?
説明書を読んで理解した気分になり、それで良し。と思う人は意外と多いのではないでしょうか。あるいは、「中世絵画だな~」と画集の小さな絵だけを見て終わっているのではないでしょうか。
又、美術史専門家が添え書く説明は、技術論を除き単に言い伝えられた評判等を言葉で使いまわしたり、年譜を追うことで絵と作者の背景を、追随しているものが多いです。
それでは、作者なり画法技術なり、更に描かれた時代を知る事へは結びつきません。
今回のターナー作品夫々にも説明書なるものが横にあって、皆さん、作品鑑賞より説明読みに一生懸命の方々が多かったです。
然しながら、無理もありません。
我々にとっては全く異なる文化、風景の中からターナー作品は生まれているのですから、深く追求する必要もなく、西洋絵画を鑑賞する者として、立ち位置に戸惑ったとしても、おかしくありません。
つまり、ターナー作品を語る場合、必須顔料の水彩とガヮッシュの材質さへ知る人少ないですから、尚更です。
但し、オペラグラスを片手に鑑賞する達人が何人か・・
ターナー作品こそ、離れて全体を見なければなりません。近くに寄って技術を堪能しなければなりません。・・オペラグラスで人混みを避ける鑑賞者がいるとは、達者な人がいるものです。
オペラグラスを持つ方の鑑賞態度に見るように、
ターナー作品の水彩スケッチ細部の素晴らしさが、大作に繋がる創作過程が、それこそが、ターナー作品の真髄なのです。
日頃から何らかの創作技術に関わっていないと理解しにくいのが、ターナー作品なのです。
説明書を順番待って一生懸命読んでも意味ありません。
ターナーが生涯描いた作品には一貫性が有ります。会場を見渡せば一目瞭然。いくら当時のパトロンを背景とした制作過程を思っても・・現代人の何人が太刀打ち出来る事でしょうか。
スケッチを大切にする事で小品が大作に負けない。
組み合わせる事で、時代と文化を伝えている。
200年も前に生きたターナーは抽象絵画さへ創作している。
・・・ここに人間の普遍性さへ感じさせ、私は身近に感じるのです。
日本人が見た事もない風景。ハリーポッター世界の風景がターナーによって描かれている。
これは、創作です。が、
その創作の為に、大切な事は基本だ。と教えている。
私が描くスケッチとターナー作品と・・正直、「同じような感覚の持ち主」と感じました。
ターナーが生きた時代に私がいれば同様なスケッチを描いたろうな。とも感じました。
ターナーにはパトロンがついていた。
恐らく、その時代にはターナーに負けず劣らず素晴らしい絵を描いた人達が多勢いたことは推測できる。それは、彼の作品を現代人が描いた。といっても違和感がないからです。
ターナーの名前を外して、現代絵描きの作品と並べても楽しい筈ですね。
が、彼は、200年も前に描き切ってしまっている。つまり、現代人の大きな壁となっているのです。
彼は奇をてらわず真面目に絵を描きなさい。と教えてくれている。
大きな作品を描くには、小品を組み合わせ創作しなさい。と教えている。
現代日本人、特に自称絵描き達には耳や目の、いや、頭の弱い処をついています。
抽象画らしきを描いて、絵らしきを描いて「アート」と称し売名に走る人が多い今日。
残念ながら、200年も前にターナーがアートなるモノを創作してしまってる。
実に痛快ですな。
ともかく、ターナーの小品を見よ。スケッチを見よ。
ダ・ヴィンチ、レンブラント、ルーベンス、フェルメールも現代生きる人間と変わらない 「人」 なんですね。
ターナーはそんな事をも伝えて呉れている気がします。
そうそう、最晩年の抽象のような絵について・・・
説明書きに「荒れた海とイルカ」とタイトルされている絵。
会場の多くの人達が、イルカを探していました
残念ながら、ターナーは 「未完成の放り出した絵。だが、背景がおもしろく、潰したくない絵」 と、言っているんですよ。私にでも理解に及ぶのに・・・不思議です。
イルカ云々の題は恐らく後世に付けたのでしょう。どの画集にも「荒れた海とイルカ」と掲載されているようですが、無理強いもよいところ。バカバカしいと思うが、絵描きにとっては思うが壷。ターナーはあの世でセセラ笑ってるでしょうね・・・
自分の感性に自信を持ちたいものです。
さて、ターナーは素晴らしい作品を見せてくれました。近年の西洋絵画展では、私にとっては特筆でした。出来得れば、自然光で見たかったです。色彩はもっともっと美しかったでしょう。
ターナーを通して、西洋の人達の創造性の高さを確認しました。個を大切にし、文化に影響を与える西洋の人達。日本人とはどこが違うでしょう。
東海大学名誉教授・大原茂之氏が、
日本伝統文化を継承してきた橋本雅邦と狩野派を伝承で語り、維新後の日本画技術衰退を、面白い切り口で比較論を述べてます。
西洋の個人主義に巻き込まれた日本文化の、芸術家達に独創性を失って行った。という現代日本社会への強い警告を含んだ比較論を述べておられる。
残念ながらまだ発刊には至っていないようですが、その内、大原氏の警告を若者達、企業人達が真摯に受け止める事を願ってます。
技術、信用、国力を劣化させるのはいとも簡単。という根拠を、文化を比較して語っている切り口は斬新であり忠告さへ含んでおり、彼には大いに期待しているところです。
さて、ターナーと大原氏に触発されましたので、
次回、私はターナーに代表される西洋文化と日本文化の比較をサワリだけ書いてみましょう。
大原氏には、ターナーと雅邦を比較し、さらなる社会文化論に結び付け、持論を進めて頂く事に期待したく思ってます。
・・・後世に伝わる書として完結に向かうと思います。
絵を描くことは、総合観察力、曳いては個人の成長と社会への貢献に結びつきます。
ターナー展は素晴らしかったです。
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話は飛びますが、私の店舗で開催する、95歳・上田毅八郎画伯の作品展も素晴らしいです。
素晴らしいものには古今東西・共通点があるのですから、自らの感覚を磨いていきたいものです。
60、70はハナッタレ小僧。とは現代の言葉。まだまだ頑張ります。
では・・・
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2013.10.30.
Yoh-M.
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