ニュージーランドみなみじのクイーンズタウンの11月はというと、時期的には初夏なんだけど、季節の変わり目特有の荒れ模様のお天気のことが多い。でも今年はそう悪くなく、眩しい陽射し
のあふれる清々しい日が多かったりする。
そう、山歩き
にもってこいの季節がやってきたのだ。ああ、この時期をどんなに待ち焦がれたことか
9月下旬に南島南部を襲った季節外れの雪嵐のせいで、山間部は場所によってはまだ雪崩の危険があるので、そういうところはまたのお楽しみにとっておき、ある場所に行くことにした。
それは、トラック終点からグレノーキーの最高峰アーンズロー山 (Mt Earnslaw, 2819m) の絶景が眺められる、
アーンズロー・バーン・トラック(Earnslaw Burn Track)。実は、2年ほど前にも歩いたのだけど、予想していたよりも天気が早く崩れて、せっかくの絶景を見損なったので、いつかはリベンジしてやろうと狙っていたのだ
このトラックはあまり整備されていないため、伸び放題の下草(おもにブナの幼木)に覆われ、
合計で20~30本の倒木が行く手を遮り、
かつ土砂崩れの跡をトラバースする箇所がある。
トランピング・トラックとしては結構ワイルドで経験者向きの部類に入るけど、一方で、人に出会うことは滅多になくて素晴らしい眺めを独り占めできるチャンスが非常に高いという利点も。ニュージーランドでのトランピングで嬉しいことは、トラックがまるで高速道路のように整備されて、初心者でも比較的安心して縦走できる
ルートバーン・トラックのようなトラックから、このアーンズロー・バーンのようなかなり歩き応えのあるトラックまで選択肢が実に多様なことだ。
始点からは鬱蒼とした森の中を緩やかなのぼりが延々と続き、加えてハンパでない数の倒木、薮こぎ、ガレ場わたりの連続。「どうだ、これでもか」と言わんばかりに体力と忍耐力を駆使させられるのだが、達成感は苦労に比例して大きい…… と願いたいところ。
途中で見つけた、大きな、大きな赤ブナの木。
渓流で水の補給。とっても冷たくて、甘い清水だった。
トラックの終点付近。アーンズロー・バーンを望む。バーン(burn)とは
ゲール語で川を意味する。
トラックの終点は、森が完全に切れて、川の上流に向かって草地が広がる。対岸には岩場を利用して作られたシェルター、ニュージーランドで一般的に言われるロック・ビヴィ(Rock Bivvy/ Bivouac)があるが、
たちはロック・ビヴィを使わず、草地を500mほど上流に向かった平坦なところにテントを張り、そこからさらに3~4km上流にあるギリクソン滝を見に出かけた。
ギリクソン滝は高低差が160mもあるんだけど、アーンズロー山の方がずうっと高いので、あんまり大きい滝に見えなくってな~んか気の毒になってしまった。それにしても、氷河を抱いたアーンズロー山の雄大で美しいこと
これまでの苦労なんて一気に吹っ飛んじゃった。う~ん、これだから山歩きって止められないのよね
川のせせらぎを聞いてキャンプした翌日は、稜線歩きのルートを取ろうとしていた。しかし、ねむりねこ
は昨日倒木を乗り越えた時に膝の裏の腱を痛めたようで、足を出す角度によっては鈍い痛みが走る。
とっても楽しみにしてた、眺めが抜群の尾根歩き。膝のことを考えたらトラックを引き返すのが良策とは思うけど、ガッカリした気持ちで歩き続けるのはちとツライ。かと言って、尾根からの急な下りで膝が本格的に痛みだしたら大変なことに。悩んだ挙げ句、行きたいという気持ちが勝ち、荷物を猫かぶりに手伝ってもらい、痛み止めを飲んで予定を決行することにした。
ロック・ビヴィが対岸に見える当たりから下流に向かって500mほど下ったところにある川を徒渉し、川に沿って森の中を薮こぎしながら登って行く。ブナの幼木が生い茂り難儀させられるが、所どころ、シカがつけたと思われる獣道を辿って、森林限界の上に出る。
そこからどうやって稜線に出るかが課題。一気に登るのはちょっとキツそうなので、斜めにトラバースして稜線を目指すことに。
ところがこの判断は失敗。行く手が突然崖っぷちになり、そのまま直登するハメに……ガレ場、岩場、灌木の茂る急坂を、息を切らせながらひたすら登り続ける。「こんな大変なとこ、来るんじゃなかった。膝の痛みもあるのに、どうして行きたいなんて思ったんだろう。ああ、私って本当にバカだ」と後悔することしばし
「もうダメかも」と思う時でも、左右の足を前へ前へと出していれば、直面している苦しみに終わりが来るのが山歩きのいいところで、尾根に出た瞬間、それまでの辛さがスパッと吹き飛んでしまった。やったー
左右の谷を足下に見下ろし、周囲にはずらり並ぶ秀峰の数々…… この素晴らしい景色を眺めながら歩きたくって頑張ったのよね。特に、この狭い稜線は快感。左側はすぐに崖っぷちなので、リース谷が足下によぉく見えること
くふふ、楽しいなぁ~
こうなると、膝の痛みなんてないも同然、苦労の甲斐は大いにあったわね
山は厳しくて優しい。頑張った人には、必ずそれに見合ったご褒美
をくれるのだ。
しかしどうしてこの尾根歩き、楽勝と思いきやちょっと一筋縄では行かず、険しい岩場が行く手を遮ってしまった
仕方なく、少々下に迂回してまた稜線上に戻った。それから、また行く手に急な崖が現れた。まだ尾根は少し残っているのだけど、もう充分に堪能したので下山することに。
この場所はかつて牧場だったそうで、家畜
を移動させるためのトラックがまだはっきりと残っており、帰りはこのトラックを辿っての下山だったので楽ちんだった。
夕方5時頃駐車場に到着。一日目は9時間、二日目は10時間、よく歩いたもんだ。冬の間は運動は大してしていなかったことを考えると、体力はそんなに落ちていなかったようで一安心。今夏も元気に山を歩くぞっっ