低山歩きの魅力を楽しめるグリーンストーン・トラックに続いて、夏の泊まり掛けトレッキング第二弾は地元の歴史がテーマ。クイーンズタウンの奥座敷とでもいうべき、グレノーキーという村の近郊では、かつて灰重石(Sheelite, 鉄を強化するタングステンの材料)の発掘でにぎわった場所がある。2008年1月20日に公式オープンしたばかりの、DoCの新しい保護地区
ファカーリ(Whakaari Conservation Area)の、2つのトラックからは灰重石鉱山遺跡を眺められる。
一つは所要時間6~8時間の
「ヘザージョック・トラック(Heather Jock Track)」、もう一つは所要時間8~10時間強の周回トラック
「マウント・マッキントッシュ・ループトラック(Mt. McIntosh Loop Track」。前者は普通の体力があればほぼ誰でも楽しめる日帰りコース、後者は日帰りまたは1泊2日で、途中渡渉があり、藪こぎをしながら急な斜面を下る箇所があるので経験者向け。ねむりねこ
達は、ヘザージョックを以前歩いたので、今回はマウント・マッキントッシュの方に行くことにした。朝早く出発すれば日帰りもできそうだけど、二人揃ってクリスマス・イブ
とクリスマス
が休みになったので、途中の山小屋に1泊して2日で歩くことにした。
この保護地区は、もともと国有地(Crown Land)で、期限付きで牧場地として貸していたのだが、期限が切れた時に土地保有権の見直し(tenure review)があり、歴史保護地区に指定変更された、という経緯がある。保護を必要とする貴重な動植物の生息地ではないためか、この国では比較的珍しい多目的トラックで、トレッキングのほか、マウンテンバイクや乗馬も楽しめる。
駐車場から、マッキントッシュ・トラックへの分岐点までは元牧場道なので、大変歩きやすいが、結構な登りがずうっと続き、時々立ち止まりながら歩く。トラック沿いには、使用されていた灰重石発掘の器具が放置されており、往年の面影を偲ばせている。
分岐点から左手に進み、谷底へ下るとバックラー・バーン(Buckler Burn)が流れている。川幅はそんなに広くなく深さは膝上程度だけど、場所によってはかなり深く、流れがかなり早いから、安全に渡渉するには知識と経験が必要だ。ここ2~3日雨が降ってないのにこの状態だから、雨の日や降雨後は川が増水するので、経験者でも渡渉は危険だろう。
川を渡って小一時間ほど歩くと、
マッキンタイヤー小屋(McIntyre Hut)に到着。
この小屋は1年ほど前に新築され、平素から利用者も少ないため、まだ真新しく、どこもかしこもピッカピカ。
備え付けてあるビジターブックを見ると、小屋を建てたのは、二人のDoCレンジャーで年齢の合計が122歳
そのうち一人は、クイーンズタウン周囲の歴史的建造物の補修作業が専門の大ベテラン。ベッド数が5つの小さな山小屋の窓からは、トンプソン山脈が一望でき、こじんまりと居心地がいい
こんないい小屋に一人一泊たったの5ドルで泊まれるのだから、プロの仕事に感謝して、大切に使わせてもわなくちゃ、という気持ちが起きる。
その晩は、牛ヒレステーキと夏野菜のカポナータに茹でた新じゃがのバター添えという、アウトドアとは思えない豪華な夕食
参考にしたレシピは、キャンプ用コンロで手早く作れる、グルメ料理を紹介した本
「グルメ・トランピング・イン・ニュージーランド」の中の一品。ねむりねこお気に入りのこの本については、また後日ご紹介したい。ディナーは文句なく美味しかったけど、赤ワイン
を持ってこなかったのがちょっと痛かった、なんて言ったら贅沢でバチが当たっちゃうかな
翌朝は10時頃山小屋を出発。ベーコン・エッグの朝食でさらにエネルギーを補充したねむりねこ達は、そこから1時間半ほど登ったところにあるマッキントッシュ小屋(McIntosh Huts)を目指した。この日は朝から風が強く、時々立ち止まらなくてはならないほど。曇り空のため眺めも今一つで、黙々と目的地を目指す。
小高い山の上にあるマッキントッシュ小屋は、牧場の人たちに使われていたと思われる、今にも壊れそうな粗末な小屋なんだけど、眺めがバツグンだし、内部が面白い造りになっているので、妙に愛着が湧いてしまう。
ニュージーランドには個性的な山小屋が多く、変わった山小屋目当てにトランピングする人(Hut Hunter)がおり、山小屋の写真を集めたポスターまで市販されている。少し休憩した後、ロング・ガリー峠(Long Gully Saddle)を経由して下山。
マッキントッシュ小屋からの眺めも良かったけど、ロング・ガリー峠からの眺めはこの周辺のハイライトを一望できるまさに絶景
氷河を抱くアーンズロー山、ハンボルト山脈、トンプソン山脈、ワカティプ湖、グレノーキーの村、リーズ川、網目状のダート川を一望できる眺めは、この辺のトラックでも1、2位じゃないかと思う。絶景に言葉もなく眺める
と猫かぶりだった。残念ながら、曇り空で写真映えがしなかったので写真は撮らなかった。
アップダウンを繰り返した後は、牧場のフェンスにつけられたトラックマーカーを目印に道なき道をひたすら歩く。
ガレ場をトラバースした後は、急な下りがスタート。前半は下草を藪こぎしてタソックに足を滑らせながら下り続け、後半は身の丈ほどあるエニシダの生い茂る藪をかき分けながら、なおもひたすら下りまくる。だんだん膝が疲れてきて、開けた場所に出るたびにジグザグを切って歩く、ねむりねこのことなんかお構いなしの非常な世界だ。こりゃ、明日は筋肉痛だな……
標識によると、標準歩行時間は3時間程度とあるが、かなりの強健者でなければこの時間で歩くのは難しいし(標準的トランパー
のペースで5時間かかった)、雨でも降ろうものならさらに滑りやすくて危険だ。したがって、この下りの部分は「荒行」を求める人以外にはお勧めできない。ロング・ガリー峠で絶景を楽しんだ後は、もと来た道をスタコラ戻る方がずうぅっと快適。
「行きはよいよい、帰りはコワイ」を経験した今回のトランピング。ケガをせずに楽しめたのは本当に何より。トレッキングをしてていつも不思議に思うのは、歩いてる最中に「こんなのもうたくさんだぁ
」てなツライ思いをしても、歩き終るなりそんな苦労はどこへやら、「今度はどこへ行こうかな……」という気持ちになること。何故なのかなぁ…… やっぱり、これって
が楽天家で懲りない性質だから