Ambivalent Blog

e-Tetsuによる「アート」と「釣り」の生活誌

個人の金融資産と株式投資

2004-09-26 | ◆ビジネス
最近、個人の金融資産と株式市場に関するニュースがいくつか出たので整理しておきたい。9月26日の日経によれば、株式市場(東証+大証+名証)における株数ベースの売買シェアは4割を超えたにもかかわらず、個人株主の保有シェアは2割強で大きなギャップがある。今後の個人金融資産の動きは、金融機関にとって大きな関心事だけにそのギャップは興味深い。

株式市場における個人投資家 - 日米比較
先の日経記事を整理すると以下の通りである。委託売買シェアは株式数ベースであるのに対し、株式保有シェアが株式数ベースなのか金額ベースなのかが記事では不明なので、一概に委託売買シェアと株式保有シェアを比較して良いものなのか判らない。しかし、日本と米国における株式保有シェアについては、統計のベースが同じであると仮定すると、その差には目を見張るものがある。特に投信・年金まで含めた個人投資家のシェアは3割と8割という違いである。

<日本>
委託売買シェア:4割強(株式数ベース)
株式保有シェア:2割強(投信・年金含めても3割)

<米国>
委託売買シェア:?
株式保有シェア:4割(投信・年金含めると8割)

個人金融資産 - 日米比較
日銀のホームページの「教えて!にちぎん」コーナーに国際比較:個人金融資産1,400兆円 という記事がある。それによると、日本の個人金融資産は、総額でも一人当たりでも、米国に続く2番手に付けている。

<日本>
総額:1,461兆円
国民1人当たり残高:1,148万円

<米国>
総額:4,257兆円
国民一人当たり残高:1,494万円

しかし、問題はその内訳で、日本人は金融資産のうち54%が現預金であるのに対し、株式はわずか7%である。一方、アメリカ人は現預金11%に対し、株式が34%を占める。このデータ自体は2001年と少し古いが、先ほどの株式保有シェアの違いも納得が行くというものである。

その意味するところは...
先ほど引用したのと同じ9月26日の日経5面に「米投資家萎縮、株離れ」という記事が出ている。原油高やテロ懸念などから米投資家がより安全資産に資金を振り向けているという話だ。たしかにそうした傾向はあるのだろうが、株式市場において個人投資家の株式保有高が高いか低いかによってそのインパクトは異なる。機関投資家ほどには企業業績に敏感に反応して売買を行うわけではない個人投資家は安定株主となる可能性が高い。従って、個人株主の比率が高いことは、景気後退局面においても株価下落の抑止効果があると推測できる。一方、日本のように個人株主の比率が低い一方で、売買シェアのみ高い市場では、景気後退などが一気に株式相場をパニック状態に落としいれ、株価下落の追い風となりやすい。

金融システム不安の後退により6月末の流動性預金の残高が200兆円を突破したそうである(日経9/25)。これはタンス預金が銀行へ還流したことによる。これがリスク資産への待機残高となるが、これが長期の株式保有へと繋がれば、日本の証券市場もより健全なものとなるであろう。これが収益性を追求する短期売買へと繋がれば、日本の証券市場は更に脆いものとなるのだろう。


株価指数と社会的責任

2004-09-24 | ◆ビジネス
最近、企業の社会的責任(CSR - Corporate Social Responsibility)が注目を集めている。9月23日(木)の日経にも『「CSR報告書」発行相次ぐ』との記事があり、リコー、NECなどの大手企業の取組みが紹介されている。その背景には、企業が社会的責任を果たすことが企業価値の向上に繋がるという考えがある。つまり、環境問題、雇用、法令遵守などにしっかり取り組んでいることは、中長期での企業の成長に繋がるということだ。逆にCSRに積極的に取り組んでいない企業は、常に不祥事を起こすリスクを抱えていると看做される。

CSRへの取組みが企業価値と密接に関わることから、企業の市場統治が進んでいる欧米では、早くからCSRが株価指数に活用されてきた。つまり、CSRへの取組みについての評価基準を設け、その基準を満たす企業のみを集めた株価指数を作るのである。代表的なものとして以下のものがある。

アメリカ:Dow Jones Sustainability Indexes (DJSI)
イギリス:FTSE4Good

JDSIは1999年に設定されたインデックスで、採用されるための基準としてEconomic、Environment、Socialという3つのカテゴリーがあり、それが更に細分化されている。特徴としては、単に社会的責任のみならず、企業が中長期に渡って価値を向上させていく能力(Sustainability)を持っているかどうかに評価基準をおいていることであろう。従って、行動規範や環境に関するもののみならず、ナレッジ・マネージメントや有能な人材の確保といったことまで評価基準となっている。

FTSE4Goodは2001年に開発されたインデックスである。こちらは評価基準の大項目として、Environmental、Social & Stakeholder、Human Rightsを掲げている。特にHuman Rightsに関しては、Global Sourcing Sectorとしてオイル、ガス、マイニングに特別な基準を設けている他、人権保護が十分でないと考えられる国家におけるオペレーションにも注意を向けている。

では日本はどうかというと、2003年になってモーニングスターが日本株を対象として社会的責任投資株価指数(MS-SRI)を設けている。また先に紹介したFTSEがつい先日(2004年9月21日)にFTSE4Good Japanをスタートさせている。

FTSE4Goodのデータを見ると、FTSE4Goodインデックスはおおむね全企業を含めたインデックスを上回っているようである。つまり、CSRが企業価値の向上に役立っているということである。しかし、CSRの取組みを積極化させる上での課題は大きく2つある。第一に、CSRへの取組みを形式ではなく、実態のあるものとすること。第二に、CSRの徹底に掛かるコストを経営者が必要なものと認めることである。行動規範が設けられたが誰もそれを遵守していないというのは良くある話であるし、経営が傾けばCSR専門部署は真っ先に廃止に追い込まれる。

CSRとは短期的にはコスト増である一方、中長期では企業のリスク要因を排除して成長を促すものである。そういった特性への考慮が経営者側にも、投資家側にも求められるのである。

 

オンデマンド時代のソフトウェア企業評価

2004-09-19 | ◆ビジネス
先日メリルリンチ証券が開発したオンデマンド・インデックス(MLODI - Merrill Lynch On Demand Index)について紹介した。MLODIとはソフトウェア会社がソフトウェアを販売する際に、売切りのライセンスとして顧客から対価を受け取るのか、あるいは利用料として対価を受け取るのかの比率を表したものである。

メリルリンチが何故MLODIを開発したのかを説明した資料を読むと、それが単なる企業評価指標の追加に留まるものではなく、ソフトウェア会社の評価方法をそのものを変えていくべきだという提言であることがわかる。"Software Goes On Demand"と名づけられたこの資料、もう少し読み込んでみたい。

背景
メリルリンチは2004年がライセンス売切型からオンデマンド型への転換点であると見ている。オンデマンド型は企業のIT投資の適正化にも繋がるため、ソフトウェアの販売方法は大きく変わるということだ。それゆえに、この変化の中にあるソフトウェア会社を投資家が正しく評価できるよう、MLODIを開発したという。ざっくりと背景を纏めるとこういうことになる。

3種類のオンデマンド
しかし、オンデマンドといっても以下の3つのバリエーションが存在するという。

①ライセンス売切りだが、IT企業が運用受託
②利用料型だが、顧客企業が自ら運用
③純粋なオンデマンド

①や②は③への移行期間に多く見られるとも言えるが、アプリケーションの種類、あるいは企業のIT管理能力によっては①や②の方が適しているケースもある。例えば、企業の差別化分野であれば①の型を採用し、大掛かりなカスタマイズを加えることが最適な判断であるかもしれない。また、IT管理能力が優れていれば、②の方が他システムとのインテグレーションが容易になる。つまり、オンデマンドといっても、その形態は一様ではない。

インデックスのカテゴリー
また、アプリケーションのカテゴリーによって、オンデマンドへシフトする速度の速いもの、遅いもの、あるいはシフトしないものがある。それゆえ、メリルリンチはインデックス化するにあたって、アプリケーションを以下の通りに分類している。

①アプリケーション・ソフトウェア
・ERP - Enterprise Resource Planning 
・CRM - Customer Relationship Management
・SCM - Supply Chain Management
・Knowledge Worker Applications
・MCAD/PLM - Product Lifecycle Management
・Business Analytics

②インフラストラクチャ・ソフトウェア
・Operating Systems
・Database
・Application Server Platforms
・EAI - Enterprise Application Integration
・System Management
・Security 
・Storage

このような分類することによって、例えば、SCMではオンデマンド化の進展が遅いだろうとメリルリンチは予測している。一方で、CRMやSecurityソフトの分野などでは、オンデマンド化が着実に進展していると分析する。つまり、インデックスを細分化することにより、より正確にソフトウェア企業のオンデマンドへの移行を把握することが可能となる。

オンデマンド時代のソフトウェア会社の評価
そして最後に、オンデマンド・ビジネスの世界においては、それに適した企業評価方法を用いる必要があるとメリルリンチは主張している。つまり、ソフトウェアがライセンス販売ではなく、利用料として売り上がるため、従来のように株価と収益、あるいは売上の比率を見てもあまり意味がないという。なぜなら、新しい契約が初年度に貢献する売上高及び収益は従来に比して小さい一方、それは中長期で売上・収益に貢献することになるからだ。ゆえに、メリルリンチは未実現収益としてバランスシートに計上される新規契約高、そしてその実現を表すキャッシュフローにより重点を置くべきだと主張する。さもなくば、オンデマンド型にシフトしつつあるソフトウェア会社を過小評価することになりかねないからだ。

MLODIの意味するもの
このように見てくると、メリルリンチの設定したオンデマンド・インデックスは、ソフトウェア会社に対する厳しい評価軸を突きつける一方、オンデマンド・ビジネスの評価方法を提案することを通して、ソフトウェア会社がオンデマンド型へ移行しやすい環境を作り出していると言える。そして、結果としては企業も恩恵を蒙ることが出来ることになる。

もし投資家が目先の売上と収益のみでソフトウェア会社を評価し続けるならば、短期的には売上・収益の減少を招く可能性のあるオンデマンド型への移行は経営者にとって有り難いものではないはずだ。逆にメリルリンチの主張するように投資家サイドの見方が変われば、オンデマンド型のITサービス提供が加速されることになるだろう。先日のオラクルの発表の背景には、こうした環境の変化もあるのかもしれない。

ユビキタスの反動と生体認証

2004-09-18 | ◆ビジネス
ネットワーク、そしてノートPCを始めとするモバイル端末の発展により、情報漏洩のニュースには事欠かない状況が続いている。そしてその反動は情報保護に関わる法整備、そして厳密なパスワード管理、モバイル・デバイスの管理である。

しかし、我々は既に覚えきれない数のユーザーIDとパスワードを持ち、ユビキタスな環境に慣れて切ってしまっている。ここ最近セキュリティー関連の製品も急速に適用されているが、未だ市場の進展との間にギャップがあるというのが実情と思われる。もうこれ以上のパスワード入力は勘弁である。そして、せっかく薄く軽くなってきたモバイル機器を机に固定するのは勘弁である。

それゆえに生体認証には是非期待したい。生体認証で個人を特定し、それによって情報アクセスの管理をしてもらえれば、もうこれ以上パスワードを覚えなくても良くなる。もしモバイル機器も生体認証なしでは起動できなく出来れば、モバイル機器の紛失や盗難にも対抗しやすくなる。つい先日のニュースでは、東京三菱銀行ATMでの手のひら静脈による認証というのがあった。生体認証は他にも空港でのセキュリティ・システムや医療関係などでも活用されつつある。

生体認証の仕組みが安価に利用可能となることを切に願うが、一方、クローン人間を作る作らないという話もあれば、ナノテクによる新しい科学物質の生成という話もある。もしクローンの生成がそんなに難しくないのなら、ある人の細胞から同じ静脈パターンを持つ手のひらだけ、実験用のねずみの背中に作ってしまうなんてことも出来るかもしれない。(以前、ねずみの背中に人間の耳がついているのを見たことがある。)生体認証も決して万全では有り得ないのかも。

JPモルガンチェースによるアウトソーシング契約解除

2004-09-18 | ◆ビジネス
JPモルガンチェースがIBMとのアウトソーシング契約をキャンセルした(CNET Japan)。総額50億ドルの複数年契約である。この契約に基づいて2003年に4,000人のJP社員がIBMに移籍したが、解除によってほぼ同数の社員がJPへ復帰することとなる。急成長を続けるアウトソーシング産業においてこれは何を意味するのだろう?

CNETの下記の記事によれば、アナリストは今回のケースのような超大型アウトソーシング案件の減少と小規模アウトソーシングの増加を予測している。

「ITアウトソーシング、超大型案件は絶滅の道をたどるのか」

アウトソーシングは基本的にはノンコア・ビジネスを外部委託することで、経営資源をコア・ビジネスや戦略分野に注力することを目的とする。しかし近年のアウトソーシングにはコスト削減圧力も加わって、コアとノンコアの境界が曖昧になってきていたのではないだろうか。すると勢いアウトソーシングする範囲も大雑把になる。

しかし、今後こうした大型アウトソーシングの流れが減少する要因として、やはりサービス指向アーキテクチャー(SOA)の考え方の影響というのは無視できないのではないか。SOAは業務システムをコンポーネントに分割することを可能とするため、アウトソーシングの範囲もより柔軟に設定していくことが出来る。また、SOAを推進していく過程は、ビジネス戦略におけるコアとノンコアを改めて問い直す過程でもある。

そう考えると、今後SOAが浸透するにつれて、アウトソーシングの単位はより細分化される。適切なアウトソーシング戦略を立てられる企業が最も外部環境の変動に強くなるだろう。いたずらに規模の大きいアウトソーシング契約には警戒が必要だ。