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「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告/エマニュエル・トッド

2015-05-13 22:34:02 | 欧州情勢複雑怪奇

なんだかかなり唐突に面白そうな本が出ていた。

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)/エマニュエル・トッド

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)
堀 茂樹
文藝春秋

商品説明にあった文言。

冷戦終結と欧州統合が生み出した「ドイツ帝国」。EUとユーロは欧州諸国民を閉じ込め、ドイツが一人勝ちするシステムと化している。ウクライナ問題で緊張を高めているのもロシアではなくドイツだ。かつての悪夢が再び甦るのか?

5月20日発売だそうなのでまだ読んだわけでもないんだけど、トッドが話していることは数か月前からロシアものを語る人々の中に出てきた。

おそらく、この本の中でも触れられてるんじゃないかと思うけど、反ロシアを理屈をつけて語ってることで有名なブレジンスキーについて、トッドは、ポーランド出身の反ロシア主義者の常として、ロシアの脅威は見えているが、背中はまったく見えていないとと言っているらしい。私は思わず爆笑してしまったっす。

まさに、そうやって後になって第二次世界大戦となる1939年8月のドイツとポーランドの決裂が発生したんだよなぁ~と思うわけです。

ちなみに、日本で見る数多くの書物が、ドイツがポーランドを侵攻したことで第二次世界大戦がはじまったと書いてあるけど、あの時点ではまだポーランドの西半分をヒトラーのドイツが交渉決裂ならこうするぞ言っていた通りに攻撃し、ポーランドは守り切れなかった以上のことは何も起こってない。欧州戦争でさえない。

それが欧州戦争になったのは、英仏がポーランドと軍事同盟を結んでいたためにここでドイツに宣戦布告をしたため。

しない、という選択だってあったが彼らはそうした。しかし、言うだけ言って実は何もしていない。英仏はドイツに宣戦布告はしたものの実際には兵を動かしていない。というよりこの時点では英仏は戦争準備などまったくできていなかった。だからこそ、英仏がポーランドをいさめられなかったこと、白紙委任のような軍事同盟化が間違っていたという話にもなる。戦後から繰り返し繰り返し語られているが決してメインストリームに浮上しないテーマなのね。

 wikiこのへん。ポーランドに同情的にかなり文学的に表現されているので、そこを割り引いてタイムラインだけを拾うなら使えると思う。

もし、イギリスがここで本当にドイツがダンツィヒを切り取ったりポーランドに踏み込んだりしないようにしたいと思ったのなら、何ができたか。それはイギリスはソ連とお話する、と宣言すればよかったわけでしょう。そうすることによって実際何をするかはともかく時間が稼げるし、そのフォーメーションだとドイツははさまれることになるから、一回とどまらないとならん、と。スターリンも同じように考えてイギリスにオファーを出した。が、イギリスの代表者はそれを真剣に受け取らなかった。しかしスターリンのオファーは真剣なもので準備のない英に兵隊貸すぜというプランまで出してというのが最近記録から明らかになっているんだそうだ。英テレグラフに出ていた。

Stalin 'planned to send a million troops to stop Hitler if Britain and France agreed pact'
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/europe/russia/3223834/Stalin-planned-to-send-a-million-troops-to-stop-Hitler-if-Britain-and-France-agreed-pact.html

さらにいえば、この組み合わせが結局一番効力がある、あるいはもうそれしかないというのはイギリス内でも語られていた。が、外交はまったく別のことをして、あろうことかその真逆にポーランドとの同盟を強化する方向にいった。(

そうやって時間を無駄にしている間に、結局モロトフ・リッベントロップ協定なるものがドイツとソ連間に結ばれた、と。独ソ不可侵条約

それを聞いた日本はびっくりして、名高い「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」となるんだけど、よくよく考えると、別に複雑ではなく、軍事力をもって領土切り取りを行っているヒトラーを止めるためには、英仏側とソ連で、お前やめろよ、という形を作るしかなかった。しかし、それを、前年にはミュンヘン会談というまやかしをし、次にポーランド交渉でぐじゃぐじゃをしてしまったのが英仏の外交。

結局最後には英仏+ソでドイツに当たったんだから最初っからこうしておけば、あんなに人は死なんでもすんだのに、というお話。

(だからこそ、ここに陰謀論が出てきて、結局欧州各国はヒトラーに欧州を統一させたかったのだろう、となって、その最終形態が現在のEU/NATO体制だろう、となる)

と、そんなことが話題になるのは、おそらく現在のウクライナをめぐる事情と重なる部分があるから。

で、トッドとしてはまた同じことが起こるんじゃないかと恐れていると。そして、それはポーランドが後先考えずにただドイツを突っぱねている状況がもたらす結果が見えてきたフランスの外交官が、ほとんどパニックしながらポーランドへの説得を行っていたというのと同じセンスじゃないかと思えたりして、それも面白い。いや、面白くはないんだが。


いずれにしても、2014年からのウクライナ紛争のおかげで、いろんな人がいろんな見解を穿り出してきて、とても面白いことになっている。戦後史の「正史」は崩れつつある。で、日本にとって問題なのは、なにか日本の「保守派」の人は正史が崩れると自分にとって有利になると思っているやに見えるけど、私は逆だと思ってむしろ怯えてます。


別のパースペクティブとして読んで損はない一冊じゃないかと思う。これをうのみにしろ、ってのじゃなくて。

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Unknown (オオタ)
2015-05-14 00:56:31
第一次~二次大戦のそもそもの間違いは、欧州の辺境に、クレタ島、マルタ島、そしてジブラルタルといった微々たる領土しか持っていなかった英国が、ドイツの欧州制覇を阻止しようとした事(しかも、あろうことか、この戦略を独ソ戦争が始まってからも維持した)に有ったと考えています。

まず第一次大戦の切っ掛けとなった、1914年のサラエボでの大公暗殺は非難されてしかるべきでした。すなわち、それは、ナショナリズムという民主主義独裁の一形態を掲げて、余り民主主義的とは言えないけれど、多民族協調をある程度実現していたところの、オーストリア・ハンガリー帝国の解体を期して行われた凶行であったことから非難されるべきであり、しかもそれはロシアの勢力圏拡大の一環として、いわばロシアの手先として行われた凶行であった点から、一層非難されるべきなのです。

嘆かわしい事に、その後の英国外交は夢遊病者的であった、と私は思うのです。何故なら、ドイツやオーストリア・ハンガリーと戦った英国は、セルビアのナショナリズムを支持したということになるところ、多民族帝国たる大英帝国の分解にお墨付きを与えたに等しかったからであり、また、ロシアの勢力圏拡大を支持したということになるところ、これまた、クリミア戦争(1853~56年)を戦う等、大英帝国を維持すべく、接壌的膨張主義のロシアとユーラシア大陸全域に亘ってグレート・ゲームを演じてきたところの、いわば英国の19世紀以来の国是の放棄に等しかったからです。

英国は、せっかく日本側に立って事実上参戦した日露戦争に於いてロシアの東アジア進出を挫折させたのですから、今度は、独墺側に立って事実上第一次大戦に参戦し、(フランスと)ロシアを短期間で決定的に敗北させ、その欧州進出を半永久的に挫折させるべきだったというのに・・。

英国によるナショナリズムの支持は、ウィルソン米大統領による民族自決の奨励を招来し、大英帝国の瓦解プロセスを始動させただけでなく、ナショナリズムの鬼子たるファシズム/ナチズムの生誕をもたらしてしまうことになりますし、同じく英国によるグレート・ゲームの放棄は、独墺側の勝利で短期で終わるはずであった第一次大戦を長引かせ、厭戦気分の蔓延したロシアに於いて、戦争継続を主張していたケレンスキー政権のボルシェヴィキによる政権奪取をもたらしてしまい、ロシアが赤露に変貌した、よりおぞましい形での接壌的膨張主義の実践を継続することを許してしまうのです。

更に嘆かわしいことに、英国が第二次世界大戦に於いても、ほぼ同じ図式の夢遊病者的愚行を再度繰り返したことを我々は知っています。すなわち、自分が生み出した怪物たるナチスドイツと戦った英国は、セルビアならぬ漢人ナショナリズムを支持すると共に、やはり自分が生み出した怪物たる赤露の欧州及び東アジアへの勢力圏拡大を黙認したのであり(その結果、スターリン主義体制下で6千万人以上の犠牲者が出た)、日本帝国と心中する形で、全球的な大英帝国を過早に瓦解させてしまうのです。

それにしても、チャーチルが、第一次世界大戦の時は海軍大臣として対独墺開戦に熱烈に賛成し、第二次世界大戦の時は、以前から対独強硬論をぶっていた彼が、まず海軍大臣に復帰し、チェンバレンの辞職の後を受けて首相として戦争を指導したことは、第一次世界大戦と第二次世界大戦の一体性の一つの強力な例証であるところ、それは世界にとって真にもって不幸なことでした。
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