ウクライナ問題はまだ何も片付いていないのに、なぜだかメディアが追わなくなった今日この頃。
もちろん大混乱は続いており、先々週あたりのお笑いニュースは、ウクライナの閣僚に外国人登用という話。
【モスクワ時事】ウクライナ最高会議(議会)は2日夜、親欧州連合(EU)派が圧勝した10月の前倒し選挙を踏まえ、続投するヤツェニュク首相率いる新内閣の閣僚名簿を承認した。うち3閣僚がロシアに厳しい米国、旧ソ連のリトアニア、グルジア出身の「お雇い外国人」という異色の顔触れだ。インタファクス通信などが伝えた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141203-00000111-jij-int
まぁ、キエフは乗っ取られてますから、もう。警察機構、治安機構なんかも最初からおかしいから、クーデターと同時にスリープしていた人たちが既存機構を乗っ取ったってことなんだと思う。
しかし4000万国民がこれで納得するかといえばそうはならないわけで、今後ももちろん混乱していくでしょう。
その前に、で、この国のお収支をどうするのか問題がある。
先週書いた通り、デフォルト寸前というか、誰がどう支援するのかが全然決まってない。IMFが支援する、勝った、みたいな報道をウクライナ側支援者はよくやっていたものだけど、だけど一回のヘルプで終わる話じゃない。
ここで書いた通りの状況。
バルバロッサ作戦 v2: 今回も補給で失敗してる気がする
で、昨日のFTを見ても、この状況は変わらないらしく、IMFの推計では、150億ドル足らないということらしく、これがないと何週間かで財政は崩壊すると西側諸国の政府に警告しているそうだ。
IMF warns Ukraine bailout at risk of collapse
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/9a3efede-7fc5-11e4-acf3-00144feabdc0.html#axzz3LZk8mzkV
で、面白いのは、ドイツのショイブレ財務大臣が、ロシアのシルアノフ財務大臣に電話して、ロシア政府が昨年出資した30億ドルの債権をroll overしてくれるようお願いしたらしい。
(FTはroll over(繰り越す、借り換え)という語を使ってるけど、先週書いた通りこの債権はおそらく例のクロス・デフォルト条項付の債権だと思うので、デフォルトのcallはしないでくれとお願いしたのでは?)
これに対して、英国のオズボーン財務大臣は、EUはロシアに制裁をかけながらロシアからのヘルプを求めるのかと驚きを隠さなかった、と。
According to two people who attended the EU meeting, concern over Ukrainian finances has become so severe that Wolfgang Schäuble, the German finance minister, said he had called his Russian counterpart, Anton Siluanov, to ask him to roll over a $3bn loan the Kremlin made to Kiev last year.
George Osborne, the UK finance minister, expressed surprise at the request, attendees said, saying the EU was now asking for help from Russia at the same time it was sanctioning the Kremlin for its actions in Ukraine.
ここで微妙に英独の立ち位置が違うのが表現されてるってことだと思う。FTは会議の参加者から聞いた話としてわざと書いてるんだろうね。
この問題が奇妙なのは、150億ドルとは1兆6000億円かそこらなんだから、EUはもし本気だったら出せない金額ではない。ドイツ単独だって余裕でしょう。もちろん、EU諸国を全然助けないで、わけのわからないそんな大きな国(人口4000万って欧州内では大国に入る)を抱え込む理由がまったくないから出来ないというのが本当のところだと思う。
しかし、だったらなんでEUの連合協定を結ばせたのか。このぐらいの金額がすぐにも必要だったのは昨年も同様。だからこそロシア政府がそれを出すといって、ウクライナの大統領は別にヤヌコビッチでなくてもロシアに付いて行こうとしただろう、って話なんだよね。
ここにある大きな疑問は結局、EUは、なかんづくドイツは何をしたかったのか、そして今も何をしたいのか、ってことだと思う。
■ 国ごとに考えるから間違う
多分3通り考えられるんだろうと思う。
- EUはウクライナを取りたかったがロシアがもっと良い取引材料で奪った。だからウクライナで抗議が行われた。
- EUはウクライナをロシアの方に行かせたかった。だからウクライナが呑めない条件を付けた(金も出さない、ロシアとの取引中止しろ、NATOに入れ)。
- EUはウクライナを取りたかったし、ロシアも叩きたかった。だから、ロシアとの間では(2)のように見せて、ウクライナがロシアを選択した途端、反対のデモをかまして革命騒ぎを起こした(NATOはクリミアを奪取する公算)。
(1)は報道の通りで、現在のストーリーはこれを前提に組まれている。EUはウクライナを取りたい、じゃなくて、ウクライナがヨーロッパを選択した、と書くのが政治的是正表現ですが(笑)。
(3)は馬渕睦夫さんなんかはそうお考えの様子だし、ロシア国民もそうだと思う。つまり、ロシアはEU/NATO/USAに騙されたというストーリー。
私は、(2)と(3)が同居なんじゃないかと思ってみる。
つまり、国ごとに考えるから間違うわけで、ドイツAは(2)だと思って世間を欺きつつ進めていた(残念だがロシアに持っていかれた、というストーリー)が、それを見越して(3)のグループに属するドイツBがデモを拡大させていく方向に進めていった、と。
で、ドイツにもABがあるように、アメリカにもポーランドにもイギリスにもフランスにもABがあっただろうと思うわけです。
Bグループはつまり、10月革命派、ボルシェビキそのもの、潜んでいた人々はコミンテルンみたいだよ!ちゅーことで。あはは。
ということはしかし、ドイツAは、ロシアとの間で手打ちをしてたってことになるわけですね。しかし、じゃあロシア側は全面的にA派に与していたかというと、彼らがそこまでナイーブってことはなさそうだなと思う。
しかしとりあえず、(2)を中心に進めていた。しかし(3)が鋭意活動中であることが見え見えだったので、例えばヌーランドの電話を公表したりして牽制していたが、EU側のAチームは誰もそれを効果的に抑えられなかった、ってことではなかろうか。
ヌーランドの「ファックEU!」は、ドイツ(または相当数のEU)とロシアの密約に対する激怒じゃないのか、と思うわけです。
2か月ぐらい前、英テレグラフ紙の著名コラムニストアンブローズ・エバンズ=プリチャード(AEP)が、ドイツとロシアは再保障条約を結ぶ気なのか、みたいなコラムを書いていたけど、これはイギリスのBグループからの「あてこすり」じゃなかろうか?
ドイツ・ロシア再保障条約再び?
さらにいえば、Bチームはジャコバン流だから、
1814年と1914年から見る神聖同盟の有用性
こういう安定塊を欧州に作るみたいな発想が嫌なのね。nationを刺激して大帝国(帝国は諸民族を含む)を崩しにいくのが過去200年の欧州およびユーラシア周辺部だったわけだし。
■ 今後の成り行き予想
現状では、Bチームがドイツを対露の前線に立たせて(またかよ)、やっぱりロシアを撃たねばいかんというムードにすることに一応成功している。
しかし、Bチームの難点は、上の債務の問題を考えてもわかる通り、そもそもウクライナをEU側が面倒を見られるのかという根本的なところで考えが足らない。リソースが足らなすぎる。経済と金融って似て非なるものだと思うんだよね。Bチームは金融+メディアなので、騙したり偽情報でも儲かる産業のメンタリティーを受け継いでしまっているのが問題じゃないっすかね(産業金融というより両替屋なんだよね)。
しかし、経済とは所詮は人の活動なので、騙しには限界がある。それを含めて、全部含めて、ボストンバック一つでお嫁に来てくれとウクライナちゃんに言えるほどEU君には余力がない。しかもウクライナちゃんは、見かけは田舎娘だがトンデモナイ放蕩娘なのね。ロシア兄ちゃんはそれを知ってるが、ウクライナちゃんがフランクフルトの良い男に入れあげてるし、半分シャブ中になってる(ナチに食い荒らされてる)しで心配は心配なんだがしばらく勝手にしろよ、と言うことにした。で、フランクフルト男に向かって「よろしくな。金かかるぜ、うちの妹はさ」と言っているというところじゃないでしょうか。
そういうわけで、ウクライナは酷い時代を過ぎた後、結局ロシアとの関係改善の方向に行って、EUとロシアの中間にいる以外ないっしょ。こんなことは最初からみんなわかっていたことだし、2004年のオレンジ革命以降も似たようなものだった。
では独露間はどうなるのかといえば、ここはいっぺん切れるんでしょうね。サウスストリーム、対欧州向けのロシアによる制裁返しをみてると、ロシアはドイツに意趣返しをしているようにしかみえないところがあるし。
![]() |
詳解 独ソ戦全史―「史上最大の地上戦」の実像 戦略・戦術分析 (学研M文庫) |
David M. Glantz,Jonathan M. House,守屋 純 | |
学習研究社 |