9月末から始まったナゴルノ・カラバフ地域での紛争は、ロシアの仲裁でアルメニアとアゼルバイジャンが完全な停戦に合意した。
時事が、アルメニアのパシニャンがつらいと言っているという妙ちきりんな記事を書いているけど、そりゃ辛いでしょう。多分、この人は失脚するんじゃないか。
ナゴルノ紛争終了へ署名 「つらい」決断とアルメニア
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020111000282&g=int
で、完全停戦というものの、これは要するにアルメニアの降伏だとアゼルバイジャンのアリエフ大統領は自国内のテレビで言ったそうだ。
ナゴルノ紛争「完全停戦」で合意、アゼル「アルメニアの降伏」と主張
https://www.afpbb.com/articles/-/3314892
(中略) アゼルバイジャンのアリエフ大統領は10日、テレビで、「われわれがアルメニア首相にこの文書に署名させた」 「要するにこれは降伏だ」と述べた。
実際そうだと思うな。軍事的にはアルメニアの完全な敗北。そして、外交的にも敗北したため、ロシアの仲裁を受け入れ降伏する以外に道がなくなったというお話でしょう。
その後直ちに、ロシア平和維持軍がナゴルノ・カラバフ地域に展開を開始した模様。
WATCH Russian peacekeepers begin deploying to Nagorno-Karabakh under Armenia-Azerbaijan peace deal
https://www.rt.com/russia/506242-russian-peacekeepers-deploying-karabakh/
ナゴルノ・カラバフ地域とアルメニア本体を結ぶ道路からアルメニア軍が撤退して、そこにロシア平和維持軍2000人が5年間入る、ってことらしい。
These peacekeepers will move in as the Armenian armed forces withdraw, and will stay for five years, according to the draft. An automatic five-year extension of their mandate is envisioned, unless any of the parties objects six months before its expiration.
https://www.rt.com/russia/506238-putin-russian-peacekeepres-karabakh/
ということは、これはこの地域をアルメニアが独立させてアゼルバイジャンから分捕るというアルメニア人の一部がいだき続けていた願望はお終いということではなかろうかと思う。
AFPによれば、トルコも関与することになっているという話だけど、こっちはどうなっているのか不明。
アリエフ氏は今回の停戦合意には「歴史的な重要性」があるとした上で、アルメニアに短い猶予期間を与えてナゴルノカラバフから部隊を撤退させ、停戦の実施にはロシア、そしてアゼルバイジャンを支援しているトルコが関与することになっていると説明した。
現実的にはトルコ軍は不要でしょう。ロシア軍がいたらアゼルバイジャンが攻撃することはないだろうし。
これに至る1日前には、アルメニアの上空を飛んでいたロシアのヘリが撃墜され2人が死亡する出来事があり、アゼルバイジャンが直ちに謝罪、補償もすると言い出し、ロシアも受け入れたので何も起きずに終わった。
ロシア軍ヘリ撃墜を謝罪 アルメニア領でアゼルバイジャン
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020111000196&g=int
Aliyev offers apology to Putin over downed Russian helicopter
https://tass.com/emergencies/1221765
ぐずぐずしていると、ロシアはアルメニアがCSTO(旧ソ連グループの安全保障グループ)の加盟国なので、条約上の義務を履行してアゼルバイジャンに何かしないとならなくなる可能性は一応ある。それを防ぐためにアゼリが緊急に謝罪したように見えた。
逆にいえば、アルメニアとアゼルバイジャンが完全停戦を話し合う中、それを嫌がるグループが、ロシア機を撃ったということだろうか。
■ アルメニアの素人政権
で、この紛争はホントにへんな紛争だったが、その前にこんなに条件が悪いのに、勝手に息まいているアルメニアに呆れる、というのがこのへんの事情に詳しい人たちの見解ではなかろうか。
アルメニアは2018年に政権交代して親西側路線を取って、脱ロシア化をはかっていた。
で、その一環としてロシアで訓練を受けた従来からの軍人を追い出し、結果的に、まぁなんてか政治人事の軍になっちゃっていた模様。
金持ち国家じゃないから兵器類も昔のしかない上に馬鹿が大将になった軍に何ができるだろうといった格好で、夏ごろから動いていたアゼルバイジャンの動向も見定められず戦闘となって(応戦して、だろうと思うが)、完敗した。
アゼルバイジャンにしろ、アルメニアの宿敵トルコにしろ、いたずら者のグルジアにせよ、アルメニアが馬鹿でも誰も滅多なことではちょっかいをかけないとしたら、それはアルメニアの後ろ盾がロシアだから、という話だと思うわけだが、この誰でも知ってることを脱ロシア化を図ったアルメニア政権は知らなかったらしい。
ロシアは、国民に対して、
・アルメニア人もアゼルバイジャン人も共に私たちの大事な隣人で、兄弟のような国家で、多くの人は家族的なつながりさえ持ってる。だから紛争が終わることを願ってる。
・ロシアは条約上の義務は守る
という2点を示して態度を変えなかった。
つまり、ナゴルノ・カラバフは正式にはアゼルバイジャン領なわけだから、アゼルバイジャンがアルメニア領を攻撃しない限り、ロシアは軍事介入しませんという話。
アゼルバイジャンからすればそうなることは100も承知、200も合点なのでアルメニア領には手を出さないという線で推移していた。
脱ロシア化を喜んでる政権だし、ソ連が終った後も何かとロシアを足蹴にして楽しんでいた過去を思えばロシアさん助けてとは言えない、と頭ではわかっていてもショックを受けたアルメニア人もいただろうと思う。
停戦合意の時には、反対する群衆が何百人かアルメニア政府の建物に押し入ったようだが、大騒動にはなっていない模様。
https://www.rt.com/russia/506241-armenia-karabakh-deal-protest/
YEREVAN, November 10. /TASS/. The citizens of Yerevan, protesting against the decision on ending the war in Nagorno-Karabakh, have broken a cordon, bursting into the Armenian government’s building, a TASS correspondent reported.
https://tass.com/world/1221727
アルメニアの素人政権の今後が注目されるね。
■ NATO東方拡大プラン
前にもかいたけど、この紛争は、ベラルーシの騒動と同期させようとして仕組まれたものなんだろうと思う。ベラルーシの大統領選挙が夏にあることは周知で、それに向けてカラー革命が仕組まれていたのもみんな知ってたって感じだったので、同時期にトルコ&アゼリがアルメニアで騒ぎを起こした、って感じ?
以前のアルメニアの政権なら、その戦闘を拾わなかった(事前に察知して騒ぎにする、といったことを含めて)可能性もあるわけだけど、現在のパシニャン政権は、「勝つまでやる」の大騒ぎをして、フランス、アメリカに割って入ってもらおうと努力していたが、フランスもアメリカも、停戦しろ、という程度を崩さなかった。その意味でロシア・フランス・アメリカが一致していたという珍しい事態だった。
何度も書いてますが、この、どう見てもナチスの進撃プランのような、この図が現在のNATO東方パートナーシップ。
青が現在のNATOで、既にワルシャワ条約機能にあった国々が多数含まれ、現在は、緑の地域を「東方パートナーシップ」プログラムの対象国として、ここを将来的にNATOに入れると頑張ってる。
見ればわかる通り、この段階は既に、「東欧」でも欧州でもなくてソ連の国内だった地域。
EU/USAがこれを止めない限り、この地の紛争は今後も続くでしょう。こんなこと誰が頼んだんだと多くのヨーロッパ人は思っていると思うわけですが、NATOというステルス帝国の軍事組織が勝手に決定すると勝手に動く仕組みになっているのが現在。
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