シリアの問題がまだ続いている。わたし的にいえば「宴の始末」ができない、ってところ。
そして、「ジョンの心はモスクワにある」でおなじみのジョン・ケリーとロシ
アのラブロフ外相は8月27日ジュネーブで12時間もお話合いをした模様。
Lavrov, Kerry round up 12-hours-long talks in Geneva
http://tass.com/politics/896183
基本的に何を話しているのかは本当はよくわからないと思うな。ただ、一応表に出てる主旋律は、シリアをどうしましょうか問題。で、これを難しくさせては、何度も書いている通り、
一つは、イラン、イラク、シリアを結ぶ付けたくないという要因。主な推進者は、サウジ、カタール、イスラエル、そしてへんな角度かトルコ。
もう一つは、シリア、トルコ、イランにまたがって存在しているクルド人の問題。
トルコはクルドを「テロリスト」扱いして敵対している。
しかし一方で、アメリカはそのクルド(特にシリアの)を現地の先兵として使 ってる。
だからここでトルコとアメリカは敵対する要因があったし、今もあるし、将来 もある、ってところでしょう。
で、直近の問題としては、ラブロフ外相がまとめている通り、
シリア問題は、テロリスト集団から健全な(シリアにとっての)反政府勢力を分離しなければ、現実的で長持ちする停戦を確保できんよ、
ということ。
"I don't see any possibility of assuring a really durable, full-fledged ceasefire without the separation of healthy opposition forces from terrorists," he said. "The understanding of this task between us and our American partners gets increasingly clearer."
http://tass.com/politics/896183
もう何度も何度も同じことを言っていて、状況的にはジリジリとラブロフの言 っている通りになっているようには思うけど、ブレークスルーには至ってない。
なぜなら、ぶっちゃけ、それらテロリスト集団こそアメリカの資産だからでしょ(笑)。
もうね、アルヌスラ(変名したけど)を庇いぬいてる時点で、CIA主導だろうがペンタゴン主導だろうが、アメリカ人ももう見放してるよね、このへん。
■ トルコ、シリア国境でクルドを叩く
で、トルコはシリア国境を越えてクルド叩きをやっている。
トルコ・シリア国境で戦闘激化-米軍に脅威増す
http://jp.wsj.com/articles/SB11229581354231873921504582280561431775868
【イスタンブール】シリア内戦でトルコ軍が地上作戦を開始してから初めて
トルコ軍兵士1人が死亡したのを受けて、トルコ軍とシリアのクルド人反体制勢
力との緊張が激化している。これは、この地域における米軍特殊部隊の危険を
一層増大させ、過激派組織「イスラム国(IS)」を一掃するという米軍の任務
を難しくする動きだ。
とかウォールストリートジャーナルは書いてるけど、米軍の任務がISの一掃だなんて、本気にしている人ももうあまりいないと思う。
米国はまた、トルコ主導で先週開始した作戦を支援している。この作戦は、トルコ国境に近いシリア北部の町ジャラーブルスからIS陣地を一掃するとともに、トルコ国境からさらに約20マイル南にあるマンビジュから逃亡した戦闘員を掃討するのが狙いだ。
ここらへんが現状重要なんでしょう。つまり、米はトルコをちょこっと支援して、クルドを引き離して、またまた、再度、再再度クルドを適当に使い捨てする状況になってるけど、そうは言えないし、そうすると中東における大事な兵力なくすし、だからいろいろ言ってる、みたいな。
総じていえば、クルド独立を中東大混乱の北辺のドライビングフォースにしようかな、という話は破産しました、ということだと思うけど、アメ様(もしくはNATO総体)はこの破産をどうダメージ少なくできるかで悩んでいるみたいなフェーズだと思っていいと思う。
このへんの話ですね。
「新中東」マップ再び+都議選
■ 馬鹿げた話
で、この何度やってもぐずぐずなこのへんの話によって、結果、この5年で何が得られたかというと、the West は無法者集団だったという認識が米を中心とした西側世界で広まった、というただそれだけだと思う。
何故アメリカやらイギリスは勝手に特殊部隊を入れて、他国を侵害してもいいのか、という問題を the West の主流ジャーナリズムは問うことすらできていない。
都合が悪いところは書かない主義ですからね、最初から。
そこで、それら一切合切の個別の事情をうち捨てて、アメリカの主流メディアの現在は、反ロシアに夢中って感じみたいだ。
馬鹿げてる。ロジカルに考えれば、アルカイダを守るためにロシアとの核戦争も辞さず、とか言ってるも同然だから。
■ 壊れたチェスボード
さてそこで、Mike Whitneyという人が最近書いていた記事が興味深い。とりわけタイトルがいい。the Unz review とzerohedgeに出ていた。
「壊れたチェスボード:ブレジンスキー、帝国をギブアップ」といったところか。
The Broken Chessboard: Brzezinski Gives Up on Empire
http://www.unz.com/mwhitney/the-broken-chessboard-brzezinski-gives-up-on-empire/
素材になっている記事は、ブレジンスキーが今年4月に American Interest誌に寄稿したもの。そういえばほとんど話題になっていなかったような気もする。
そこでブレジンスキーは、もうアメリカ一国がスーパーパワーとかできないから他のパワーと調整してアーキテクチャー作りをアメリカがリードすべきだ、とか書いていた。
Toward a Global Realignment
http://www.the-american-interest.com/2016/04/17/toward-a-global-realignment/
滅茶苦茶勝手な理屈だよね(笑)。つい10年ぐらい前まで、すべての国をただの属国だの小物だの物扱いして、アメリカだけがチェスのプレーヤーみたいな調子だったというのにね。
で、振り返ってみるに、この人がムジャヒディーン投入の責任者なわけで、この人こそアメリカ凋落の首謀者の一人と言ってもいいんじゃないかと思うなぁ。
アメリカは最初っからユーラシアの中心部に仲間がいないわけですよ。だから、ロシアを乗っ取ってユーラシアをご褒美みたいに手に入れたいと考えて来たわけだけど、結局100年かかった総決算は、アメリカのプレステージみたいなものをぶち壊しにしただけだった、って感じではなかろうか。
で、そうなるための最悪の手は、ムジャヒディーン、アルカイダ、自由のなんちゃら、みたいな「傭兵」に頼って行ったことだと私は思うな。で、本当は傭兵による混乱作戦なのに、それをカバーする装置として、自由だの民主主義といった理由を使った。(ここで左派系統がどっぷり侵略部隊の仲間に入ったということでもあるね)
■ 感想戦
ではどうすればよかったか。私が思うに、イラン、トルコみたいなムスリム世界との関わりが太くて、中心的な、伝統があって、国としてのスケールもある国をなんとかして手なずけて、そこを繁栄させることから中央部に間接的な影響を及ぼすというのが最善だったのでは?
それができなかった要因はこんな感じか。
- サウジの石油を独り占めしたいという欲望に負けたこと。(そしてこれをドル覇権の支柱の一つにしたこと)
- ブレジンスキーなんかが典型例だけど、ロシア(ソ連だろうがなんだろうが)を崩したいという欲望がシステマチックではなく、破壊衝動を呼んでいること。
ではないかと思うんだが、どうだろう。
あと、もう一つは、アメリカ帝国はしょせんはアメリカ人の帝国ではなくて、大銀行家のための帝国なので、収奪機構を作っていくことになるため、欲望のコントロールがほぼ不可能なこと、というのもあるかもな、と思う。
対比的にいえば、ロシアは親戚になると相手に得をさせようとする傾向がある。これは反・資本主義というより、昔ながらの帝国だったりするんだと思うんだよね。お前ら落ち着け、歯向かってくるな、そのかわりこれをやるからな、そうだと俺もいいが、お前もいいだろう、で話しを落ち着かせられる。こっちは破壊衝動に陥るキッカケはむしろ少なく自己抑制が効く。リアリストが多いと多くの人が言うのも同じものを指してると思う。
そこで、アメリカとロシアがぶつかると、経済他の調子がいいときは、競争って素晴らしい、etc.でアメリカが輝いて見えるんだけど、win-winが達成できなくなって疲弊してきたらこのモデルは単なる強者による弱者の収奪機構になってしまうので、普通大多数の人間は好まない。従って、少数の支配者でコントロールしようとする、すると無理が来る、無理が来るからメディアを利用したファシズムモデルで縛り付けようとする、みたいな感じ。
この対比でいくと中国はどうなるんでしょうね。国家資本主義的な感じで推移しているので分類的にはアメリカモデルで来てるとは思う。中国は資源も多数ある国なんだけど、なんせ人口も多いので資源国的には存在できない。さりとて大昔のように律令制度を周辺に及ばせるってな文化政策も現状は取れない。もう少し、政治文化の言論を含めた文化力をつけることが今後の課題、と言えると思う。が、現状、仮にその質が低くても10億人以上に影響が及んでいるという時点で既に文化パワーだとも言えるのは彼らにとってプラスだわな。
(ロシアは資源もあるが、実は文化力、政治力、分析力、波及力も捨てがたいものがあるなぁ・・・。反ロシアの人には困ったことだが。あ、日本にロシアの声が届きにくいのは、まず第一に、日本が欧州キリスト教文化圏でないからだと私は思う。倫理的なロジックが合わない)
そういうわけで、チェスボードが壊れてる中でアメさんはどうするのか。9月はなかなか興味深い時間帯になりそう。
ということは、現在のアメリカがやっているのは第一次世界大戦時のドイツ帝国と同じですね。ポーランドが独ロ墺の均衡から「解放」されたのはドイツ軍がロシア支配地域に攻め入って大混乱させたから、ですから。
そして、分割していたという意味では独ロ墺は同じなのに、なぜだかロシアだけを選択的に恨むようポーランドを条件付けた。このモデルが忘れられないのかもしれないですね。