だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

蒲郡市(2)脱・孤育てフォーラム

2022-02-14 15:51:02 | Weblog

 昨日は、蒲郡市で開催されたまちづくり市民フォーラム「#これから みんなでつくる蒲郡の子育て 脱・弧育(こそだ)て~親だって社会と繋がりたい~」にパネルディスカッションのコーディネータとして参加した。

(アーカイブ動画はこちら https://www.youtube.com/watch?v=6iJjAAOZfoc

まちづくりについて市長と市民が直接対話する場として今年度2回目だ。今回のテーマは子育てだが、ありがちなこの種のシンポジウムとは一味も二味も違う、深い対話ができたと思う。

 まず、鈴木寿明市長を含めて登壇者全員がバランスボールの上でふわふわしながら登場。これは、パネリストの一人齊藤沙織さんhttps://www.instagram.com/sao_balance/が産後ケアとしてのバランスボールエクササイスを行うインストラクターで、「バランスボールに座るだけで明るく元気になれる」ということだったので、まずは会場の雰囲気づくりとして私が皆さんにお願いして実現した。

 パネルディスカッションでは、まずは子育て中のお母さんの立場で、困ったこと、不安なこと、不満なことをお話ししてもらった。登壇者の大場麻理さんhttps://www.instagram.com/yogamagori_mari/はやはり産後ケアとしてのヨガを親子でやる講座を開催している。齊藤さんと大場さんからはまず産後のたいへんさが語られた。出産直後は体力が衰え、「交通事故で全治2ヶ月と同じような状態」であること。出産直前は女性ホルモンが豊富なのだが、出産とともに枯渇し、更年期と同じような症状になる。情緒不安定になりイライラしやすくなる。子どもがお腹にいるときは自分の一部だったのに、生まれた途端、自分の思いどおりにはならなくなる。なかなか寝付いてくれない赤ちゃんをあやして自分が寝る時間が取れなくなる。トイレに行けない、食事もろくにとれないなど「生理的欲求すら満たせなくなる」。周囲に助けてもらいたくても、自分の気持ちを夫や家族に伝えることには体力が必要だがその体力がない。母性を活性化させるホルモンが豊富になり、そのために時に周囲に対して攻撃的になることもある。

 その先にあるのは「自分がなくなる」感覚だ。自分のための時間がほぼなくなる。すべてが子ども優先。自分が好きなことをやることがなくなるため、自分は何が好きだったかわからなくなる。齊藤さんはご主人から何か欲しいものはないかと聞かれて、何も思いつかず、「じゃあオムツ」ということになったというエピソードを語ってくれた。出産前はずっと洋楽が好きでダンスをやっていたのに、「自分ってどんな人だったっけ」という感じになるという。大場さんはお母さんたちの「自己肯定感の喪失」について語った。大場さんによれば自己肯定感とは、「自分は自分のままで大丈夫」という感覚だという。うまくいかないことがあっても「風で揺れてもまた戻って来る」ような自分であるという感覚。しかし、「いいお母さんでいなくては」という思いが強く、母乳の出が悪いだけで「自分はダメだ」と思ってしまう。子どもにきつくあたってしまい、冷静になると自分で自分を責めてしまう。このようなことの連続の中で自己肯定感が失われていく。

 そういう状態では行政が行う子育て支援もうまく機能しない。保健師さんが訪問してくれても、信頼関係のない中では本音で困っていることを話せない。「問題があるお母さん」というふうに思われたらどうしよう、という心配の方が先に来る。大場さんは検診で杓子定規な評価で子どもに「問題がある可能性がある」とされることが、お母さんたちの心にはかり知れないダメージを与えることが紹介された。検診をしている医師や保健師は忠実に職務をこなしているわけだが、それがお母さんたちの心を追い詰めるとしたら、これは一筋縄ではいかない難しい問題だ。

 齊藤さんは、自分も苦しむ中でバランスボールに出会った。体力を回復させて心も整える。好きな洋楽を聴きながら、子どももいっしょに楽しみながらやれることを経験して、「これだ」と思った。そのことを同じように苦しんでいるお母さんたちに伝えたいと、インストラクターの資格をとったという。大場さんはヨガが産後の心と体を整えるために絶好であり、これもお母さんが子どもといっしょに楽しみながらやれる。コロナ禍でお母さんたちがますます孤立して追いつめられている状況の中で、何か自分ができることはないかと考えてヨガの講座をやるようになったという。お二人ともそのことで、「自分をとりもどす」ことができているのだと思うし、心と体を整えることもさることながら、「自分をとりもどす」ためのきっかけをお母さんたちに提供しているのだと思う。

 会場での参加者はコロナ対策のために20名ほどだった(オンラインで60名ほど参加)。その中から3人の女性が発言された。彼女たちは、コロナ禍の中で子どものマスク着用の是非、子どもへのワクチン接種について、多様な考え方を認めない社会になっていることについて問題提起された。こういう場でマイクを持って発言するというのはよほど勇気がいることだ。コロナ禍でお母さんたちは難しい判断・決断を迫られ、情報が少ない中でさらに追いつめられている様子がひしひしと感じられた。

 鈴木市長は、これらの話を真剣に聞いてくださった。「こういうことを(子育てをしていた)もう20年前に知っていたら人生が変わっていたかもしれない」と語った。安易に「行政としてこうします」というようなことは語らずに、もっともっとこういうナマの声、深いところからの声を聞いてまちづくりを進めていきたいと語った。この言葉を聞いた市民の皆さんは、これから市役所はもっと信頼できる存在になるかもしれないと希望を持ったと思う。

 行政の子育て支援策はどこも充実してきている。蒲郡市も他市町村に遅れることなく、むしろ先進的な施策を行っている。それでも市民の子育ての悩みは深い。つまり、これはこれまでの発想の子育て支援では解決できない問題ということだ。もちろん行政が何かをやれば解決できるような問題ではない。市民と行政が顔を突き合わせていっしょに悩み、考えていくような問題だ。そのような問題があるということを、市長をはじめ行政幹部との間に共感を持って共有できたこと、そのことを市民がしかと見届けたことが、今回のフォーラムの大きな成果になったと思う。今後も表面的な政策論や組織論ではなく、市民の深い思いが語られ共有されるフォーラムを続けていけたらと思う。

 

 


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