だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

ユートピア

2012-12-10 12:36:09 | Weblog

 

 昨日は豊田市旭地区の太田町に移住した若い二人、ナベちゃんとさとみさんの結婚式と披露宴に出席した。二人は東京大学の牧野篤先生がイニシアティブをとり豊田市が実施した「日本再発進・若者よ田舎をめざそうプロジェクト」でこの地にやってきた。これは、全国から公募して田舎で暮らしをたてようという若者を採用し、2年半は市が月々の給料を出すので、その間に自活できるよう準備をして、その後もずっと地域に住んでほしい、という事業である。名古屋大学出身の若者たちがやってる会社M-easyが事業主体となり、3年前の秋からはじまった。私も事業スタート時のイベントで基調講演を頼まれて話をしに行って(「日本再発進」)以来、プロジェクトメンバーの若者たちとは何かとおつきあいを続けている。今年の3月にプロジェクトは終了。メンバーは入れ替わりながらも、最終的に子どもを含めて10人が旭地区に住み続けている。このプロジェクトで出会い引かれあった二人はこのたびめでたく結婚となった。

 二人が選んだ結婚式の会場は、集落の氏神神社。氏神さまにしては立派な社殿であるけれども、神官さんがいるわけでもない、ごくありふれた小さな神社である。地元でも結婚式などあげた人はいない。二人はここで生きていく決意をこめてこの場所を選んだことだろう。
 集落では総出で準備。神社を掃除し、お餅をつき、テントをたて、ストーブやお茶の準備、とおおわらわである。二人の門出を集落全体でお祝いした。美しい花嫁は白無垢でさらに美しく。花嫁衣装は冠婚葬祭の衣装を調達できるようにと、昔からみんなでお金を出しあって運営している地域の貸衣装だ。新郎は羽織袴でいつものおどけた表情がきりりと引き締まっている。明治の日本男児みたいだ。
 この冬一番の寒さの中吹きさらしの社殿で神事は滞りなく終了。次は境内で記念の写真撮影。親族一同で一枚。次に集まった人全員で。地元のみなさんに友人たち、プロジェクトで関係した行政職員たち、総勢100人はいただろう。そして最後に、集落の人たちで。その真ん中には集落の一員としてしっかりと受け入れられている二人の姿があった。その後に、新郎新婦がケーキ入刀ではなくて、もちつき!。その時には、おじさんたちによる祭のお囃子が。演奏は久しぶりとのことだが、力強い太鼓の音が鎮守の森に響きわたった。最後に新郎新婦が紅白の餅を配って終了。このお餅は前日に集落で6臼をついたとのことだ。

 それから会場を温泉ホテルに移して披露宴。こちらもすばらしい会となった。司会も音響も近くに移住してきた移住仲間たちが担う。地域の顔役や行政の幹部がお祝いの言葉を述べる。どれも本当に心のこもったよいお話だった。披露宴ではケーキ入刀。そのケーキは地元のおばさんたちの手作りである。プロジェクトメンバーたちによる二人の日常を再現した寸劇。共同生活をしていただけあって、それぞれのキャラをとても上手にとらえていて抱腹絶倒だった。
 宴たけなわの頃、三々五々新郎新婦と記念撮影。ここでも集落の人たちが二人を温かく包むようにとりまいて写真におさまる光景に、見ていて胸が熱くなった。またプロジェクトにかかわった行政職員たちの本当にうれしそうな笑顔が印象的だった。行政の仕事の本来の目的は住民の幸福にあるはずだが、それが実感できる事業はまれである。無理やりひねくりだされた数値目標で成果を問われる毎日。二人の結婚と地域への定住は、このプロジェクトの目に見える「成果」である。これは行政職員冥利につきるだろう。
 そして披露宴のクライマックス。新郎新婦が両親に宛てた手紙を朗読した。気丈な花嫁に対し、新郎は出だしから涙でつまる。励ましの声が飛んだ。その後で、それぞれの母親に贈り物。二人が今年収穫したお米を、それぞれの出生時の体重分。感動的だった。

 私は今から10年以上前、環境学に参入するに際して、将来の持続可能な地域の姿をイメージしておく必要があると思い、そのような地域で人々がどのような日常を送っているか、空想をめぐらせて「小説」じたてで書いてみた。(「風森まちのお気楽日記」)それは、私としては、21世紀の後半には実現していてほしいと思う、ひとつのユートピアの姿である。自然の中で、その一員として、みんなが仲良く愉しく暮らしている。
 その小説の中では、人々は、自給的な農作をしつつ、稼ぎになるような仕事もしている。地域内でうみだされたモノやサービスは地域通貨で流通する。食糧自給はもちろん、エネルギーも地域の自然エネルギー100%。子どもも年寄りも地域の中で役割があって活き活きと過ごしている。

 2012年のこの旭地区で、実はその多くが実現している。地域通貨も木の駅プロジェクトのモリ券やおむすび通貨が流通している。自然エネルギーについては大正時代から小水力発電によって電力を自給している。これから木質バイオマスがどんどん進んでいくだろう。何より、人々が食糧の自給を基本としつつ、愉しく活き活きと暮らしている。若者たちがこの地に移住してくることによって、それが形になって目に見えるようになってきた。
 私たちは彼らから多くのことを学んだ。私は過疎問題に対して、以前は、まず農業や林業を再生し、雇用を作り出すことによって、若者が移住できるようになると考えていた。そういう観点で、若者よ田舎をめざそうプロジェクトは大丈夫だろうかと気をもんでいたこともあった。その考えがまちがいだったことを教えてくれたのは彼らである。「地域のじっちゃんから、あんたたちがここにいるだけで元気が出てくる、いてくれるだけでいいと言われた」と。まず住み着くこと。そこからすべてがはじまる。新たな雇用や生業は、外野にいる人間が作ってあげることはできない。そこに住み続ける決意をもった者が、さまざまなリスクを承知で、新しいことに果敢に挑戦することによって、はじめて作り出すことができる。もちろん、まだまだよちよち歩きだけれども、確実にその営みがはじまっている。

 ナベちゃんはとにかくこの太田町に住むことにこだわり、それを実現させた。さとみさんの将来の夢は、地域のばっちゃんたちのように「かわいいおばあちゃん」になることとのこと。ここで生まれて生きて年齢を重ね、そして死ぬ。二人がめざしているのは、そんな当たり前な地域の姿である。一方、地元の人たちは彼らを影に日向に支援しつつ、彼らからこの地域に暮らす幸せを受け取っている。

 「小説」に書いた「ユートピア」を生きてこの目で見ることができるとは思っていなかった。気がついてみると、目の前にある。その幸せを実感した一日であった。
 
 

 


 

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3 コメント

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感動的ですね!! (バッシー)
2012-12-11 05:42:08
「新郎新婦が両親に宛てた手紙を朗読した。気丈な花嫁に対し、新郎は出だしから涙でつまる。励ましの声が飛んだ。その後で、それぞれの母親に贈り物。二人が今年収穫したお米を、それぞれの出生時の体重分。感動的だった。」
この部分いい光景ですね。こんな情景が生まれる今の足助は「懐かしい未来」が生まれつつあるんですね。
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おめでとう (河合定泉)
2012-12-13 17:09:16
 あらためて、おめでとうございます。
この言葉をナベちゃんサトミちゃんへでもありますが、旭地域の皆さんすべてへ贈ります。
 今回のお二人だけではなく、この地域へ移住して来た若者たちを地域の人々が歓迎している例をいくつも見てきました。
 若者だけに期待するのではなく地域が未来に対する希望をもらって何かが起こり始めているのを感じます。
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おめでとう!! (Unknown)
2012-12-14 21:27:42
こんな素敵な結婚式初めてです。
お二人と二人を見守る地域の方々の喜びと優しさが伝わって着ました。ナベちゃん さとみちゃん おめでとう!!お幸せにね。
太田町の皆様二人をよろしくおねがいします。
とても感動の映画のようなワンシーンでした。
感動をありがとう。がんばって元気な太田町を来年は見に行きたいです。
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