今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

残酷な歳月 16 (小説)

2015-12-28 10:41:33 | 小説、残酷な歳月(16話~30話)

残酷な歳月
 (十六)

ジュノは、りつ子が胃がんであり、それも末期である事は、はっきりしたが、手術をするべきかが、迷う病状だった。

もし、手術が成功したとしても、おそらくは「半年」長くても一年の時間だろうとの診断であった。

りつ子は、地元の医師からも、おそらくは、同じ事を告げられているようで、どこかで覚悟しているようなところがあった。

ジュノは、りつ子との接点を極力避けたい気持ちが強く、りつ子の主治医は別の医師に担当して貰っていたが、何かと言うと、りつ子は、ジュノに会うことを要求する。

りつ子の今後の方針が決まらないままに、ジュノはりつ子を避けるように、思い切った行動をとった!

実父の故郷、「岡山へ」向かった!

ジュノはこれからのじぶんの人生に、果たしてどんな運命が訪れるのか、全く予想もつかない恐ろしさを感じて、体の震えが止まらないほどだった。

自分の新しい希望,そして逆に不安が途轍もなく大きいように思えるのだった!

空は何処までも高く
雲はゆっくりと流れて
そこにすむ人は誰ですか
美しき人は締めつけられるほど
せつなくてこの心が乱れる
幼き君を思う兄の想い
追い求めるしかない
幼い日の愛おしさで
父と母に出会える
そんな気がする幻


ジュノの考えも及ばない事が、その地にはあった。
父の故郷、「岡山県、M市」

新幹線の岡山駅から、タクシーで二時間、家もまばらな、山村風景の中に、ひときわ大きな古い屋敷があった。
『ジュノは生れてはじめてみる風景、父の故郷!』

この静かな、山村、父の生家は、この地では名の知れた名家だと、聞く、ここ、父の実家に向かうタクシーの運転士も知っていたほどの地元では昔からの旧家で、名家だったと、ジュノは知った!
ジュノがいろいろと思い悩む事など、無用な心配であった。

時間が早まわりするような息苦しさから、ジュノは何度も、何度も、深い深呼吸をして、「お屋敷」と言われる、その家の門の前にたった。


(新たなる運命)

仕事の都合上、岡山行きを、急きょ、つくり出した時間は短い為に、ジュノは、父の実家へは、東京を発つ前に、連絡をいれた。

ジュノがどのような人物で、どのような用件で、伺うかを、話して、驚いた事に、すでに、父の実家
『蒔枝家』
では、ジュノの事は知っていた!

『いつ、お尋ねくださるかと、お待ちしていました!』

との答えが返ってきたのには、ただ、驚き、ジュノは、何か言い知れない、期待感と恐怖感がないまぜに、落ちつかなさを抱えて、岡山に旅立った。

この「お屋敷」といわれる、大きな門と、古いつくりだが、どっしりとした,黒塗りの土塀が、古き良き時代をあらわし、その姿を観ただけで、ジュノは、懐かしさのような、親しみを感じた。

だが、十歳までの寛之としての記憶にはない、この風景であって、大杉さんに、子供の頃に、聞いたような、不確かな記憶から、ジュノは無意識に、思い描いていたのだろうか。

大きく、どっしりとした、門の扉はすでに開けられていて、ジュノが、この家の門の前にたった時には、すでに若い男性が迎えに出ていた。
『イ・ジュノさんですね!』 

との、言葉が、ジュノの不安を取り去るように、穏やかさを感じさせてくれた。
『お待ちしていました、さあ~ どうぞ!』

ジュノは挨拶を交わそうとしても、ただ、お辞儀をするだけで、言葉が出てこなかった。

見るからに、手入れの行き届いた、大きな庭は爽やかな風が通り、ジュノの緊張感を優しく、解きほぐすような心遣いを感じた。

門から続く、少し長めの敷石の通りが母屋へつづく、この家の正式な玄関なのだろうか、若い男性は静かに気品あふれた、重そうな引戸に手をかけてあけた。

風格のある、どっしりとした、黒光りする柱や、梁の太さには、ジュノは今まで見た事がない建築物で、驚きながらも、清潔感に気持ちの良い、応接間というのだろうか、懐かしい映画の世界で観た雰囲気がする落ち着いた部屋に案内された。

先ほどの若い男性がこの家の主だと、正式に挨拶があった!

お互いの挨拶を交わしたあと、ジュノは、どう話を進めようか、考えあぐねていると!
男性は、私の方から、紹介させてくださいと言って!

私は遠い親戚から、養子として、迎えられた、
『蒔枝直樹』 という者です。

ジュノは、今、祖父母は健在なのかが、とても、気になっていた事をいち早く察した、この男性は、ジュノが傷つかない言葉で、祖父母の事を話し伝えた。

やはり、祖父は十五年前に、「七十八歳で、亡くなったこと」
「祖母は、八年前に、亡くなった」と話した。

今、この家に、住む者は、「私だけなのです」と、直樹と名乗った、この男性の話だった。

直樹は、祖母から、生前に、ジュノさんのお父上の事、ジュノさんの事を、お聞きしていますので、存じていましたが、私も、どうお話すればよいのか、何からお話すればよいのでしょうか!

少し、お休み頂いたあとに、おじいさま、おばあさま、そして、お父上のお墓へご案内いたしますので、すこし、お休みください!

と、言って、直樹はその場を立って行った。

ジュノの通された部屋は、造りこそ古いが、ガラス戸の重厚な造りの引き戸越しに、日本庭園風の庭が美しく見えていた。

すこし時間が過ぎた頃、直樹は、ジュノを「蒔枝家の墓所」へ案内して・・・
驚かれるでしょうが、今は、ありのまま、お参りして頂き、後ほど、お話をさせて頂きます・・・

ジュノは、直樹の落ち着き払った態度が、とても気になっていた。
今回、生れて、はじめて、訪れた!
「父の故郷!岡山!」

しかも、ジュノが、連絡するまでは、母が死んだ事も知らないはずだ!
ジュノ(寛之)も、妹の樹里も、行方不明のままだったはず!

案内された、「蒔枝家」の墓所には、驚いた事に、私、ジュノ(寛之)は死んだことになっていて、父と共に墓所に葬られていたのだった!!

これはいったい,どういう事なのだろうか?
ジュノはあまりにも大きいショックなことだった!

この、蒔枝家では、ジュノを亡くなった事にしなければならないほどの、事情が、それほどの事があったのか!

私は十歳だったけれど、幸せな子供時代であったし、あの事故の事も、はっきりとした記憶が 『ジュノとして、寛之として』 あるのに。

この私の人間としての証明はどうすれば良いのだろうか!

私は生きた存在
誰が私を消してしまったの
あの幼き日が
あの美しき日々が
何処に行ってしまったの
父の故郷の真実は
美しき人を戸惑わせて
冷たい石に刻む
惨酷な真実
私がどんな罪を犯したのですか


      つづく





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