日本経済新聞社が23日、英国の有力経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)グループを親会社の英ピアソンから買収すると発表した。
経済ニュースを中心としたグローバル報道を強化するのが狙いだ。
買収額は8億4400万ポンド(約1600億円)で、日本のメディア企業による海外企業買収としては過去最大規模。
報道のデジタル対応が進む中、欧米ではメディア業界の再編が加速していたが、日本企業による買収劇に欧米メディアでは驚きの声が広がっている。
◇編集権の独立、FT記者が懸念
【ロンドン矢野純一】
日経によるFTグループの買収発表について、英メディアは大きな驚きをもって伝えた。
FT紙の23日の電子版は「(編集に対し)干渉しない経営者がFTを手放した」との見出しで報道。
同紙記者の間からは、日経の買収後も引き続き「編集権の独立」が守られるかどうか心配する声も上がっている。
FT紙の電子版は、「編集権の独立を厳守することを除いて」合意したと報じた。
親会社の英ピアソンは1957年にFTの経営に乗り出した際、編集部の決定に干渉しないことを誓い、「(何者も)恐れず、かつ公平に」と宣言したという。
このため、FT紙の記者はツイッターで、喜多恒雄・日経会長が「報道の使命、価値観を共有している」と話していることについて、「本当か?」と疑問を投げかけた。
英メディアによると、米通信社ブルームバーグや独アクセル・シュプリンガーが買収するとの情報が有力だっただけに、日経による買収について英紙ガーディアンの電子版は「FTの記者は衝撃を受けている」と伝えた。
社内では、買収が報じられた直後の23日午後4時に社員への説明が行われたという。
ロンドン市民の間にも驚きが広がった。
IT会社に勤めるドナルドさん(28)は「英語圏でない日本の新聞社が買収したことに驚いた」と話した。
◇米経済紙WSJ「日経にとって試練になる可能性」
【ワシントン清水憲司】
日経のFT買収は、米メディアも大きな関心を持って報じた。
AP通信は、FT社のジョン・リディング最高経営責任者(CEO)が今回の買収に賛成しつつも、「編集方針に与える影響が、幹部らが長く、熱心に、そして慎重に考慮した点だった」と述べたことを紹介した。
米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は「日本のメディア文化は多くの面で、西側諸国とは違う。
企業や政府といった取材対象に敬意を払う傾向がある」として、辛辣(しんらつ)な論評で知られるFT買収が「日経にとって試練になる可能性がある」との見方を示した。
また、米通信社ブルームバーグは、今回の買収金額が、2013年に米通販大手アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が米紙ワシントン・ポストを買収した際の「5倍」と指摘。
13年のソフトバンクの米通信大手スプリントなどの事例を持ち出し、過去の日本企業の巨額買収が「しばしば悲惨な結果になった」と報じた。