「差不多」的オジ生活

中国語の「差不多」という言葉。「だいたいそんなとこだよ」「ま、いいじゃん」と肩の力が抜けるようで好き。

おくりびと

2008-09-17 | 映画
映画「おくりびと」を見ました。ブログ友のjamsession123goさんが5つ星をつけていたので、是非モノと思い出かけたこの作品。泣けて笑えてしんみりとする秀作でした。

=以下goo映画から=
所属する東京のオーケストラが解散し職を失ったチェロ奏者の大悟は演奏家を続けることを諦め、妻の美香を連れて故郷の山形に戻ってくる。早速、求人広告で見つけたNKエージェントに面接に出かけ、その場で採用になるが、それは遺体を棺に納める納棺師という仕事だった。戸惑いながらも社長の佐々木に指導を受け、新人納棺師として働き始める大悟だったが、美香には冠婚葬祭関係の仕事に就いたとしか告げられずにいた。


ストーリー自体はなんとなく最後までを、最初の20分ほどで見通せる。ある意味とてもシンプルな展開であり、つくりです。でも、この映画を秀作たらしめているのは、やはり納棺師という職業を通じて生と死の問題を突きつけられること、そして自身の死別体験を思い起こし、そのときの感情や状況などもろもろが想起されることによる感情移入、最後に主人公の大吾を演じる本木雅弘さんの眼差しの深さでしょう。

だれにも訪れる死。死はその人自身の人生の総決算であると同時に、家族ら周囲の人同士の人間模様を浮き彫りにします。そこをちょっとユーモラスに描くことでじめじめした映画にならずにすんでいます。(以下、少しネタばれがあります)

死に際し、いまや必要不可欠となっている納棺という職業ですが、まだ差別があるのですね。いたるところにそんな言葉が出てきます。本木さんの妻役を演じる広末涼子さんが「汚らわしい! 子どもに自分の職業のことを話せるの!?」と詰め寄る場面が象徴的です。死は穢れということなのでしょうか。実は、てのは知人に何人か死にまつわる職業についている方々がいて、あまりそういう意識はなかったのです。むしろなんと尊い職だろう、と感じていたぐらいですから。この映画がすこしでもそうした差別意識を薄めてくれるとしたらうれしい限りです。

で、本木さんの眼差しの深さがとても印象深い。途中、歳月の流れを表現する場面で、本木さんが次々とご遺体を納棺するシーンが出てくるのですが、そこでご遺影をちらりと眺め、ご遺体に向き合う。そのセリフのないシーンでの本木さんの眼差しは深く、とても優しく慈悲深い。てのはこの眼差しに涙しました。名優ですね。名優といえば、大吾を雇う社長役の山崎努さん。その語り口、眼差し、手ワザの美しさも惚れ惚れします。

あと好きなのは、妻に上述の言葉を投げかけられ、職を辞するつもりで本木さんが山崎さんとむきあった場面。山崎さんと本木さんが向かい合って、フグの白子を食べる。「うまいんだ。悔しいけど」。2人は同じ言葉をつぶやき、黙々と食べる。生きるうえでは他の生命を犠牲にせざるを得ない人間の業を受け入れる言葉を、とても自然に、でも、軽々しくならずに語る様子は秀逸です。職を自らのものとして受け入れる、透き通ったような覚悟が伝わってきます。

いやあ、いい映画を観るとホント幸せな気分になります。映画って、いいですね。