惰天使ロック

原理的にはまったく自在な素人哲学

「知識」についてのメモ(4) ── 無名の権威が自己組織する場合(1)

2014年04月02日 | チラシの裏
メモ(1)の最後でも言ったことだが、このメモの中では真理を保証するもののことを単に「権威」と呼ぶことにしておく。権威という言葉の意味を「真理を保証するもの」の意味に限定して用いるということである。

この権威(の担い手)は、もちろん人間であるとは限らない。実際、日常生活習慣から身についた知識において、それが真理であることを保証しているのは、特定の人物ではないし、特定されない誰かでもない。今日も昨日も一昨日も夜が明けて朝が来た、だから明日も明後日もそうなる、夜は必ず明けて朝が来るのだといったたぐいの知識は、人物として誰かがそれを真理であると保証しているわけではない。

とはいえ、これ(夜は必ず明けて朝が来る)が自明な真理ではないことも確かである。明日の朝がどうなるかは未来の出来事であって、いまここの直接経験ではない。「1、2、3ときたら次は4だ」という主張は少しも真理ではない。

細かく見ればいましがたの直接経験でさえ、それが知識であるためには何らかの保証を必要とする。いましがた目にしたものはリンゴだった、それは、それを目にしたことの直接経験としては自明な真理であるが、「いましがた目にした」と形容されるものは直接経験ではなく、その記憶ないし記憶の想起にすぎない。

想起された記憶、ないし記憶の内容が真理であることは自明ではない。実際、我々はしばしば「いましがた目にした」ものについて「わが目を疑う」ことがあるし、疑うことができるし、事実それはときどき間違っている(笑)。目をこすってもう一度見てみたら見間違えだったということは、よくあることである。

結局、「いましがた目にした」ことでさえ、それが知識として行為を──たとえばそのリンゴを手に取って食べるなどの行為を──触媒するものであるためには、「いましがたの直接経験、その記憶として想起された内容は、たいていの場合(笑)真である」ことが保証されていなければならない。それを保証している権威は自分自身ではないし、リンゴでもないし、いましがたの直接経験でもない、まったく不明な何かである。とはいえ、その不明な何かは存在するわけである。いかなる意味でも存在しないものは保証するということもできないであろう。

これらのことは、知識にとって「記憶」とは、また「理論」とはなにか、といった様々な問題を提起するものでもあるが、これらについてはしばらくおく。ほとんどの知識は真理として自明ではなく、何らかの権威によって真理であることを保証されなければならない。この権威とは何なのか。権威は存在しなければならないが、どのような様態(mode)において存在するのか。

原始時代の共同社会だったら、それを保証するのは、たとえば神話伝承(イイツタエ)のたぐいであったかもしれない。どうして夜は明けるのか。昔々これこれのことがあって、それ以来夜は明けるようになったのだ。そういうたぐいの神話伝承なら、いかにもたくさんあったに違いないと思われはすることである。

むろん、これは「思われはする」というだけで、実のところはまったくありもしなかったことの空想かもしれない(笑)。また本当にそうだったとしても、すべての権威がそうした起源をもつとは考えにくい。ただ、知識が神話伝承の類から真理であることの保証を得ている(権威づけられている)ことがありうること、またそのような(多少とも権威の効果をもつ)神話伝承が、原始時代の共同社会がどうであったかはともかく、現代の社会生活の中にも存在する──いわゆる都市伝説(urban legends)だけではなく、迷信(superstition)一般がこれに該当しよう──ということ、これらのことはたしかである。

迷信は我々にある行為を促すように感じられたり、あるいは逆に躊躇わせたりするものである。現代の文明社会の中では、迷信には一切従わないという人はそれなりにたくさんいるであろうが、それが行為を促したり躊躇わせたりすること、そのような効果をもつものの気配を、日常まったく経験することがないという人は、なお稀であろう。

そして、そのような神話伝承的なものとその権威が自発的(spontaneously)に、無名の(特定の人物や対象をその担い手としない、対象に帰属しない)秩序として生じてくるということは、可能であるように思われる。

そらまたいったいどんな風に、というのをこれから書こうとしているわけだが、前置きをぐだぐだ書いていたら長くなってしまった(笑)ので、続きは次回ということにする。キーワードだけ書いておけば、それは再び「触媒」である。

(つづく)
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 4月1日(火)のつぶやき その2 | TOP | 4月2日(水)のつぶやき その1 »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | チラシの裏