瓢簞舟の「ちょっと頭に浮かぶ」

こちらでは小説をhttps://kakuyomu.jp/works/16816700427846884378

第伍話

2014-03-08 19:13:54 | 奇妙な味
春の陽光が部屋に射しこんでいる。
窓を開けるとエアコンの室外機の上で猫が日向ぼっこをしていた。見知らぬ猫である。
邪魔をするな。
そんな顔つきをこちらに向けたあと、ふたたび猫はまるくなった。

男は猫といっしょになって太陽を浴びる。
そして、うたた寝。

目覚めると、近くに大きな生き物がいた。顔と思しきその真ん中に奇妙な突起物を生やしている。なんだかヘンテコリンだ。
寝そべっているところがあたたかいを通り越して熱くなってきた。
飛び降り、歩き出す。もっと居心地のいい処をさがそう。

歩き出して後ろを振り返る。
あの生き物のことは知っているような気がする。だけど、うまく思い出せない。きっと忘れて差支えがないことなのだろう。
おそらくもっと多くのことをこれから忘れていくような気がするけれど、それがこの在り方としては当然のことなのだ。
この在り方?

何かいま考えかけた気もするが考えようとした途端忘れてしまった。
風が樹の枝を揺らす。瞬間、強い風。
日差しはますますあたたかい。


付記
参考■「荘子」(内篇 第二 斉物論篇 二七) 註:「胡蝶の夢」の出典となる話。
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