じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

水飲み場の珍客、森の中の相方。

2006-07-15 01:18:25 | 介護の周辺
ある日の夕方、ここのところ調子があまり良くないわたしを
(日曜からこっち、食あたり&脱水その他でかなり発熱したりしたのだ)
相方のばうが、散歩に連れ出してくれた。
会社のお休みを半分だけ使って。

少しずつわたしを庇いながら歩く、ばう。

どこへ行くのかな、と後をついて歩いていたら、
家の近所にある、広々とした緑地帯へ。

目と鼻の先にあるのにもかかわらず、三年も暮らしていたのに
一度もまともに歩いたことのなかった
そんな場所だ。
近隣の緑地帯とも道でつながっているので
全部歩くとかなりの距離になる。


それでもうれしい、歩くだけでもうれしい。
だって、まるで普通のカップルみたいだ。

ばうが、わたしを慰めるためだけに、
何も言わずに、ここでデートしようと連れてきてくれた、この森。
どんな豪華な旅行よりも、うれしい。


***************


歩き始めてしばらくすると、のどが渇いた。
ちょうどそのとき、きらりと光る銀色―水飲み場が見えた。
だがそこには、こんな先客が。



一見、なんてことない場所に居るように見えるのだが
実はここ、ちょっとばかり特等席っぽい雰囲気にあふれている。

少しカメラを遠ざけてみると、こんな感じ。



そしてさらに俯瞰図を捉えると、こんな感じ。



わたしたちが近づいても、逃げようともしないで
悠然と、涼しげに身体を横たえている。

相方は結局、水飲み場を諦めて
スポーツドリンクを買っていました^^:


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とても蒸し暑かったのだけど
不思議と、歩くのは嫌じゃなかった。

空気がなんとも言えず、やわらかいのだ。

木々や草花がひっそりと吐息を漏らして
わたしの皮膚へとしっとりと沁みこんでくる。

風がそよぐたび、森の良い匂いが
鼻腔を、頬を、耳たぶを、やさしくくすぐる。

いろんな鳥の声や、ひぐらし、小動物の足音は
森の中の生態系の豊かさを、わたしの魂にそのまま供給する。


もともと山を切り開いて作った街であるだけに
自然な山にも似た気配をあちこちに残しているのかもしれない。
たとえば、本物の竹林などもしっかりとある。
竹林の静寂がこんなに心地よいなんて、はじめて知った。


沢に下りてみると、キノコを発見。



かさがすっかりめくれあがっているけれど、
却って想像を掻き立てられる。

見た目はまるで杯みたい。けれど本当は妖精の寝床だったりして。
「ばあたんの好きな、ティンカーベルが眠っていないかな」
なんて思ったり。



こちらは、「なんだか食べられそうな茸だな」というところが素敵。
でも、かわいそうだから摘めないんだけれど…^^;

そして、このキノコをカメラに収めようと苦戦していたわたしを
遠くから眺めていた、相方ばうばうの姿。



遠くからわたしをデジカメで撮ろうとしている。

この写真、たかが携帯カメラなのですが
わたしの中の相方のイメージに、すごく近い写真になった。

いつも一緒にいられるわけではない、わたしと相方。
だけど、遠くにいても、見守っていてくれる。
面と向かって護ってくれるのではなく
遠くから、影から、後ろからそっと支えていてくれる。

そして顔など見えなくても、わたしは知っている。
あたたかい表情で笑っていてくれていると。


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自然の中を、休み休み歩いているうちに、
出なくなってしまっていた汗が、少しずつ滲むようになった。
飲むと吐いてしまっていた水分が、のどから吸い込まれていく。
肩こりが和らいて、だんだんと頭がすっきりしてくる。

自然のなかで愛情に包まれる。
自分のなかの力が、少しずつよみがえる。


まだしんどさが残っているものの、完全復帰まであと少し。

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