じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

桃と、そして彼らの好物と。

2006-08-07 23:28:59 | じいたんばあたん
今夜じいたんは、叔母の家族と一緒に近場の温泉へ一泊している。
わたしは一人、自宅でゆったり過ごさせてもらっている。

本当ならわたしも一緒に行くはずだったのだけど、
相変わらず夏風邪が治ってくれず
微熱や咳がなかなか止まらないといった調子なので、
今回は、お休みさせてもらったのだ。
 
週末もずっと、ほとんど安静にしていた。
相方が代わりに、じいのところへ顔を出してくれた。

*********


土曜日、じいたんの主治医のところへ行った。
風邪がなかなか治らないので見てもらうついでに、
じいたんの最近のことを色々話したりしたくて。
 
先生から、
「こないだお越しになったとき(1日)、
 おじいさま、少し元気がないような、不安げな様子だったから
 あれ?と思ってね」
という話を聞く。
 
わたしは風邪を引いてから、じいたんとは直接接触しないで
もっぱら、朝夕に電話で話をするようにしていた。

朝は30分程度、そして夜は
一回、1時間~2時間くらいだろうか。
じいたんが「じゃ、そろそろ切ろうか」というまで。

  というより実は、切ろうにも切れない状態だったというのが正しい。
  よほど淋しいという気持ちが強かったのだと思う。
  それから夜は、疲れのせいか、我慢がきかないようなところも
  見受けられたように思う。

  電話で話すのはそれほど好きではなかったはずなのに、
  話が、あちこちに飛び、蛇行し、切るタイミングがない。
  「お薬を飲みたいから一旦、電話を切ってもう一度かけるね」
  といっても、なかなか理解が難しい様子だったりする。
  以前のじいたんなら、考えられないことだ。

この一週間とちょっとで、
ずいぶん、じいたんに負担をかけてしまった。

ほとんど毎日来てくれていた人が来なくなる。
一人の時間がうんと増える。
そういった変化も、じいたんにとっては辛いものなのだ。
 

体調管理を第一にと思い、温泉行きを断ったものの
なんとなく、割り切れないような思いが残っていた。

だって、じいたんにとっては一番楽しみな、
「家族の団欒を味わえるひととき」なのだ。
それも、温泉だ。特別なイベントだ。
ひとりでも頭数は多いほうがいいに決まっている。
 
 (しかも、
  「ばあたんとの旅行がだめになった分、何かしたい」
  と叔母に頼んだのは、わたしだったのだ)
 

**************


そうやって、そろそろ出かける時間だなぁ、と
布団で時計を見ながら、少しはらはらしていた午後。
 
ピンポーン。…叔母が訪ねてきた。
手には小さなビニール袋。
 
「たまちゃん、今回は残念だったわねぇ。
 はい、これ、おじいちゃんからあなたへ差し入れですって。」

袋の中には、きれいな桃がふたつ。
底の方にも何か入っている。
 
「今日はホンマにごめん。何かあったらいつでも電話して」

と叔母に詫びて、そそくさと部屋へ戻り、袋を開けた。
 

さっそく袋を開けて、桃を確かめる。
紙の箱にきれいに座っている。

そして、ビニール袋の底を探ってみると、
入っていたのは、食べかけの(袋の開いた)
じいたんの大好物「アスパラガスビスケット」と
ばあたんの大好物「松露」という砂糖菓子だった。
 

たぶんじいたんは今朝、この暑い中を
スーパーまで歩いて、この桃を買ってきたのだろう。
じいたんの足だと、片道20分くらいかかる、あの店まで。
わたしが桃を大好きだから。

そして、それだけじゃ何となく物足りなと思って、
お菓子の棚をごそごそ探して
自分がいつも食べている気に入りのお菓子と、
毎週すこしずつばあたんに持っていってあげるお菓子を
両方、袋に入れてくれたのだろう。

あの世代の人にとって、お菓子は贅沢なものである。
自分たちの楽しみに買うものは、とても慎ましい。
でも、それをたぶん、あるだけ全部わたしにくれた。
簡単に買い与えるのとは、意味が全然違うのだ。
 
そしておそらくは、
自分が見舞いに行くと却ってわたしに心配をかけるから、
娘が来るのに合わせて桃を用意して、
彼女に届けさせるよう、気遣いをしてくれたのだと思う。
 
 (でも桃をどうやって用意したか察しができちゃったので
  やっぱり心配だったりするのだけど…
  今夜あたり、脱水ぎみでぼんやりしていないか)
 
じいたんらしさがおかしくて、クスッと笑いがこぼれた。
そして、それだけ心配をかけているということに
ひどく胸をしめつけられる気持ちになった。
 
わたしはしばらく台所で、桃を眺めていた。



じいたん独特の、心地よいあたたかさ。
(それは同時にばあたんの温もりでもある)

昔から、知っていた。ほんとうは。

じいたんも、ばあたんも、何気ないところで
本当に見返りを求めない愛情を、人に注げる人だった。
それは、老いが進んだ今でも、ぜんぜん変わらない。
 
誰が忘れても、わたしは忘れない。

あの二人ならではの優しさを、
ずっとずっと大事に、心に留めておこうと思う。

最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは! (なっちょん)
2006-08-08 15:53:31
返事ありがとうございました!風邪の具合は、どうですか?この前訪問介護の実習を行わせていただいて、訪問の場合、介護ヘルパーさんのアドバイスも学ぶポイントになるのですが普段家で介護しているご家族の方の話を聞く方がずっと長くご本人と関わっているからか、介護を勉強させてもらっている私としましては、「なるほど!!」という感心が持てたりしたので、こういう「介護をしていて…」という専門員でない人(たまさん)の意見(?)を読ませていただくのも勉強になるかなと思い(興味を持ち)読ませてもらっています。また、たまさんの場合は介護という視点だけじゃなくて孫とお祖父さんお祖母さんという視点の何気ない会話(出来事)なども書いており、毎回楽しみに読ませていただいています。少し長くなりましたが第2回目の書き込みを終わらせていただきます!風邪早く治ると良いですね
返信する
なっちょんさん (介護人たま)
2006-08-08 19:54:20
こんにちは。おかげさまで、一進一退しつつもぼちぼちやっています^^



わたしなどはなっちょんさんと逆で、介護職のかた(ケアマネさんとか)から伺うお話や、二本アルツハイマー病協会さん(正式名称ではないですがわかりますよね)の会報に載っている記事などを参考にしていることが多いです。あとは本と…(量がかなり多いのですが、また改めて順次、レビューしていこうと思っています)。

それから、うちのブログに長くお付き合いいただいている方の中には、介護職のかたや介護をしている家族の方もおられます(BlogPeopleのリンクに皆様のブログが格納されています)ので、巡回されてみるのもいいかも…。

もしご自分のブログ等をお持ちでしたら、よろしければURLを入力していただければと思います。拝見しに伺いますので…
返信する
http://blog.goo.ne.jp/himaware/ (かみ~)
2006-08-08 20:47:11
お風邪は いかがですか??



とっても 美味しそうな もも&お菓子の 写真ですね♪

三人の 「だい好き」を そろえてくださるなんて じいたん すてきです



夏風邪を ひらりと 避けて じぃたんと ゆっくりできると 良いですね

返信する
かみーさんへ (介護人たま)
2006-08-08 21:58:06
こんばんはーヽ(^o^)丿 まだ薬が切れると咳き込んじゃうのですが、昨夜に比べておちついてきたかな?って感じです^^



なかなか気づきにくいけれど、じいのこういうところって、本当に奥ゆかしい優しさがあって好きです。見逃さないようにしようっていつも思います。

そのためにも体調を整えて、元気でいなくちゃ^^

いつもありがとうございます
返信する