第54話 皮むき林檎

2005年04月20日 23時55分11秒 | Weblog

職場では、謹聴しなければならない。
のに、祖母からテレビの声、大きいよと注意を受ける程度に私は耳が遠い。

最初はきかねばと思っていた。
私は、前の席や隣の席、後ろの席や給仕室からきこえる笑い声をきいていた。
私は、前夜行われたであろう食事会のかけらを事後きいていた。
私は、お揃いの文具を手に喜ぶ声をきいていた。
私は、私の心が割れる音を初めてきいた…。

笑い声が、強い明るさが、仲良きことの美しさが、人を傷つけることもあることを知り、
こたえた。
私はきくことを拒絶し始めた。
すると敏感なほどに、体が心の声に素直に従った。
以前より私の耳は遠くなり、私はその場にいながら、
みんなとの距離をますます感じていた。 つづく


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