朝、ちぃちゃんと同じバスに乗る。
バスを待つ間、ちぃちゃんはちっともじっとしていない。すぐどこかにいってしまう。
ちぃちゃんの代わりに、おばちゃん(ちぃちゃんのママ)が並んでいる。
おばちゃんはおばちゃんと話している(私ではない)
ちなみに私もおばちゃんだが、残念ながらその輪の中に入る資格をまだ持ちあわせていない。
私は耳があまりいい方ではないのに加え、立ち聞きしてはいけないとどこかで思っているのか
大阪のおばちゃん達の会話はいつもうまくききとれない。
なのに、突如くっきり、「うちは あの子残して 死なれへんからな~」
ちぃちゃんのおばちゃんの声が心にはっと飛び込んできて、そのまま沈んでいく。
バスが来ると同時に、ちぃちゃんが走って戻ってきた。
ちぃちゃんは私よりたぶん年上。
ショートカットに化粧っけのない顔をして、顔の近くでずっと左手を振っている。
休むことなく、ずっと。最初はバスから手を振っているのかと思っていたが、
その先には誰もいなかった…。
喜んで真っ先にバスに乗るちぃちゃんの背中に向かって、おばちゃんが、
いや、ちぃちゃんのお母さんが見送る。
「ちゃんと、いつもの場所で降りるねんで!いってらっしゃい!!」 毎朝。
いつも一番先頭の席に座るちぃちゃんと私は同じ場所で降りる。
ちぃちゃんと一緒の時は、私が降車ボタンを押すことはない。
ちぃちゃんは降りなければいけないひとつ手前のバス停に停まると、
発車する前にはもうボタンを押してくれている。
そしてバス停につくと、一番に降りてどこかへ走り行く。
きっとおばさんは何度も何度もちぃちゃんと一緒にこの道を通ったに違いない。
そしてきっとおばさんは今でもちぃちゃんが帰ってくるまで、
どこか小さく落ち着かずに過ごしているのだろう。
窓の外に、誰かちぃちゃんの手に応える人がいてくれたらいいなと思う。
言葉はどこからはき出されたかで重さが違ってくる。
あの日、つぶやいてしまったかなしみを最後また自分で笑い飛ばしたおばちゃんの言葉が
今も私の中で沈んだまま残っている。
※この話は過去に劇団カプチーノHPに掲載されていたものです。
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