オベロン会ブログ

英米文学の研究会、オベロン会の専用ブログです。

5月のオベロン会報告

2011-06-09 | ねるど
英文学にかかわる人々にとって5月といえば、
日本英文学会の総会が開かれる時期で、小規模な学会
なんて忘れられがちかもしれません。

ところがどっこい、われわれオベロン会の同人は、
そんなことはお構いなしで、いつもどおり月の
最終土曜日の午後2時に、いつもの国際文化会館
に集まり、英文学について大いに語ったのでした。

今回の発表者は根岸愛子さん、ターゲットは16世紀
イングランドの宮廷人サー・ジョージ・ギャスコインでした。

サー・ジョージは、バッキンガム州の執政官(sheriff)や
治安判事(justice of peace)の父親のもとに生まれます。
このように書くと、なんとなく立派な家柄で(確かに悪くは
ないんですが)、半ば自動的に左団扇の人生を送ることが
できそうですけど、現実はそんなには甘くはありません。

有名どころでいえばイーヴリンやオーブリィと同じような
身分の生まれなんですが、どちらもたいへんな苦労を
強いられたのでした。(おもに金銭面で…)

サー・ジョージ・ギャスコインとて例外ではありません。
おまけにこの人は若いときに多少ヤンチャが過ぎたのか、
父親の遺言によって長子としての権利を弟に奪われて
しまうことになります。

とにかくトラブル続きの人生だったようです。

経済的逼迫を立て直すために、とある裕福な未亡人と
結婚したかと思えば、重婚の裁判沙汰になってしまい
ます。(まあ、最終的には結婚は認められたようです
…)

ようやくのことで荘園の賃貸契約にまでこぎつけたかと
思うと、耕作に失敗してしまい、アテが外れてしまう…

また、戦場で活躍し出世の糸口を見出そうとしても、
上官に恵まれずに、武勲を立てることができない…

などなど・・・・・・

まあ、何をやってもいまひとつ乗り切れない
人生をおくっていたようです。

そんな彼が最後に思いついた一攫千金の方策がこそが文学、
つまり筆で身を立てるという道でした。

といっても、現代的な意味での文筆業、つまり商業作家を
志したわけではありません。文学作品を後援者(パトロン)を
見つけるための武器にしようと考えたわけです。

そんな彼が、人生の命運をかけて発表した第1詩集が『百花繚乱』
(A Hundredth Sundrie Flowers)でした。

ところが、ギャスコインはまたまたしくじってしまいます。
満を持して発表した自信作のはずが、内容があまりに奔放だった
ために、枢密院の不興をかってしまいます。宮廷内の人間模様を
スキャンダルに仕立て上げたとみなされちゃったわけです。
(残念…)

しかしながら、ギャスコインはここで終わっちゃったわけでは
ありません。自分自身のキャラクターを設定しなおして、
文筆家としてみごとにカムバックを果たします。

復帰作『ジョージ・ギャスコイン殿の短詩』(The Posies of George
Gascoigne Esquire)において、選んだキャラクターが「悔い改めた
放蕩息子」っていうんですから、なんだか楽しいじゃないですか。
自虐ぽいいところがいいですね!読んでみたくなります。
しかも、彼の場合、半分以上事実なわけですからなんとも意味深です。
(ぜひとも精読して、「本当に悔い改めたのか」きっちりと吟味して
みたいものです。)

その後も『狩猟の高貴なる技術』(The Noble Arte of Hunting)や
『ケニルワース城での君主に似つかわしい娯楽』(The Princely
Pleasures at Kenilworth Castle)などを発表し、宮廷の中で
有力な後援者を見つけようと奮闘努力を続けます。

『狩猟の高貴なる技術』には、狩猟好きで知られるエリザベス女王を
モデルにしたとしか思えない版画が添えられていたりして、
案外大物ターゲットにロックオンしていたことなどがうかがわれます。

さまざまな努力が実って、ギャスコインは最終的には女王の庇護を
受けて、政府雇いの職を手に入れるんですが、それは彼が死ぬ
前年のことでした。(人生って厳しいもんです…。)

・・・・・・

16世紀の宮廷文化や文学について造詣の深い根岸さんは、
ギャスコインのさまざまな著作から、テクストだけでなく、
添えられた版画についてもご紹介くださり、私たち不慣れな
聴衆を、華やかで厳しい宮廷社会へといざなってくれたのでした。

とちゅうからは、やはりルネッサンスの宮廷文化に一家言ある
女性同人2人も話しに加わり、鼎談形式で発表は展開されて
いったのでした。

会場の都合もあり、議論はとちゅうで打ち切りとなって
しまいましたが、宮廷文化の一端に触れることができて、
とても楽しいひと時を過ごすことができました。

根岸さん、どうもありがとうございました。


筆者的には、「悔い改めた放蕩息子」という自虐キャラが
魅力的で、腰をすえて読み込んでみたいという気がしています。

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