オベロン会ブログ

英米文学の研究会、オベロン会の専用ブログです。

7月のオベロン会例会報告

2012-07-30 | てこな姫

7月のオベロン会例会は
28日、猛暑の中
国際文化会館で行われました。


今回の発表者は伊達恵理さん。

予告にもありましたように
W.B.Yeatsの 'The Second Coming' についてのお話でした。


'The Second Coming' は第一次世界対戦の余韻とロシア革命の激動のなか
1919年に、50歳代半ばのイエイツによって書かれました。

イエイツ独自の double cone のイメージを冒頭に置き、
世界崩壊の感覚の提示を経て
不気味な rough beast の出現(Coming) の予兆で締めくくられるこの詩について、
伊達さんは、イエイツの遺した草稿を丹念にたどりながら
試行錯誤を通じて詩語が結晶していく過程を詳細かつ精密に跡づけてくださいました。



Turning and turning in the widening gyre
The falcon cannot hear the falconer;
Things fall apart; the centre cannot hold;
Mere anarchy is loosed upon the world,
The blood-dimmed tide is loosed, and everywhere
The ceremony of innocence is drowned;
The best lack all conviction, while the worst
Are full of passionate intensity.


世界の混乱・無秩序・崩壊を強烈に暗示する第一連ですが、
草稿をたどってみると
イエイツは社会的混乱を表現するのに
mob, murderer, armed tyranny というよりイメージしやすい語を
いったんは用いていたのが分かります。

また Marie Antoinette, Burke, Pitt といったフランス革命を想起させる固有名詞
Germans, Russia など、大戦や革命を連想される国名が出てきています。

しかし、イエイツは決定稿に至る過程で、
これらの具体的な言葉を捨て、
上記のような抽象度の高いイメージを選んでいきます。



イエイツの草稿の各段階を丁寧に点検しながら
伊達さんは

「なぜイエイツは多くの「固有名詞」を捨てたのか」

「イエイツの言葉の選択とイエイツの神秘主義的世界観との関係は」

などといった、
きわめて重要な問いかけを発していきます。


そして、議論はさらに深まり、
イエイツに続くモダニズムの作家たち
――とくに、ジョイスの『ユリシーズ』―― との関連にまで話が及んだところで、
会は時間切れに…


イエイツには一言ある参加者が多かっただけに、
白熱の議論は、
その後のビールの席に、持ち越されたのでした


暑い7月にふさわしい
熱い、熱い、イエイツ談義は、つきることがなかったのでした


伊達恵理さん、どうもありがとうございました










2012年7月28日オベロン会のお知らせ

2012-07-25 | キャリバン
3.11以降、
現実感覚も生活感覚も変わって来ましたが、
節電の夏と同時に熱中症の夏でもあり、
もどかしいですね。
でも、汗をかくのは、
季節のためばかりではありません。
研究のための汗も貴重です。

さて、今週末のオベロン会は、
7月28日土曜日の2時から、
伊達恵理さんの発表です。

題目は、

<W.B.Yeatsの'The Second Coming'を読む>

ということです。伊達さんからのコメント:

<A Visionの神秘主義的的歴史観の視点から論じられることの多い作品ですが、その点を踏まえた上で、それ以外にも、一つの詩作品としての精読により、多角的な読みの可能性を掘り起こしてみたいと考えています。>

イエイツの問題作をどのように読まれるのか、
興味津々です。
詩を読む醍醐味と、詩作品の持つ可能性の広がりを
ゆっくりと味わわせていただけそうです。
楽しみにしたいと思います。


場所: 国際文化会館 
     都営大江戸線 麻布十番駅 7番出口より徒歩5分
     東京メトロ南北線 麻布十番駅 4番出口より徒歩8分

お楽しみに!

6月のオベロン会例会報告

2012-07-01 | てこな姫

6月30日、晴天の中 オベロン会例会が行われました。


発表は、川井万里子さん


Sir Walter Ralegh の
The Prerogative of Parliaments(1628)(『議会の大権』)についてのお話でした。


この文章は、最初、
A Dialogue between a Counsellor of State and a Justice of Peace(1614)
という題で、手稿のまま回覧された文書です。


1603年以降、Ralegh はロンドン塔に幽閉されていたわけですが 
そのような境遇にあってなお
大作 History of the World を著し、そして、この『議会の大権』を書きあげた点に
川井さんは注目しています。


川井さんによれば、1603年以降の不遇のローリーにこそ
その真髄が見て取れるということなのです。


あたかも
シベリア流刑になったことで一流作家になったドストエフスキーのように、
ローリーは、ロンドン塔での辛酸を経て、
真の書き手へと変容したということでしょうか。


とはいえ
The Prerogative of Parliaments は、そんなにメジャーな作品ではありません。
モダンエディションも出版されておらず、
17世紀の版のファクシミリ版でしか手に取ることはできません。


そんな貴重な文章を、川井さんは実に丁寧に読み砕き、作品の要諦を詳細に解説し
さらには、同時代の権謀術数にありようについても、
さながら歴史活弁を聞いているかのように、
実に鮮やかに語ってくださいました

ローリーを破滅へと追いやっていく Robert Cecil や Henry Howard、
そして、ローリーに劣らない傑物である妻エリザベス (Bess Throckmorton)…。

陰謀渦巻く、血なまぐさい時代に生きた
ローリーの姿が見事に浮かび上がってきました。


川井さんの今回の発表では、
Anna Beer, Sir Walter Ralegh and his Readers in the Seventeenth Century (1997)
が重要な文献として活躍していましたが、
同じ著者は、ローリーの妻の伝記も出版しています。
( My Just Desire : the life of Bess Ralegh, Wife to Sir Walter)


川井さんのお話をうかがっていると
こちらもさっそく読みたくなってきますね! 


川井さん、いつもながらの力のこもった発表、ありがとうございました