長電話

~自費出版のススメ~

フィクションのような喪失

2009-07-31 | アート
ストレスに強いというより、かなり無神経な私なので少々の事では動じません。小学生の頃に隣の家(田舎なので家と家の間は広い)が夜中に火事になって、セットのようにお屋敷が焼け崩れ落ちる様子に周囲が青ざめているのを不思議に思って見ていました。事態の核心にアクセスする能力がそもそも欠けているのかもしれませんし、他人の痛みを想像する感受性にも問題があったのでしょう。

大人になって東京にでてくると、どこか私と同じような疎外感を纏った知り合いができました。彼らは猫の集会のように、干渉せず、たまに逢ってもお互いの健在を祝うといった程度の付き合いに徹し、決してベタベタした関係を求めません。例え年上であっても距離を示す敬語を好み、私のことを「さん」づけで呼びました。

彼等には、マーキングをしないので女性にはもてず、セックスよりは酒を好み、政治や映画、音楽やスポーツを語るのが好き、といった傾向があり、聞かない限りは自分のことも話しません。こうしてお互い都合のよい関係さえ構築すれば、「友達」ではなく「知り合い」、「対立」ではなく「抱摂」を好むお互いを尊重するつきあいを維持できます。

オバマさんが件の人種問題事件を「大したことじゃない、ビールでも飲もうじゃないか」といった姿勢で解決したように彼等とも、軽く、サクっともう一杯やりたいものです。

サブウェイパニックのリメイク

2009-07-30 | アート
ハリウッドのイマジネーションの枯渇によるネタ探しもここまで来たかと思わせる「サブウェイパニック」のリメイク、公開も間近なんだそうです。

傑作なんだけど、賞ももらってないし、歴史に残るほど有名な作品じゃないけど好きな映画があるって人は多いでしょう。私にとってこの「サブウェイパニック」もそういった作品のひとつで、ヒッチコックを思わせる完璧な脚本構成と、ロバート・ショー、ウォルター・マッソーなど男っぽく堅実な配役に彩どられた楽しい作品でした。

映画好きと思われる人同士に限られますが、どんな外国映画が好きですか? と聞かれて「ノスタルジア」というのもスノッブだし、「イレイザーヘッド」というのも誤解を招くし、かといって「気狂いピエロ」「8と1/2」「ワイルドバンチ」なんて名作を挙げても通っぽくないから軽い会話には相応しくありません。こんな時は小粋な映画、例えば「コンドル」とか「ラムの大通り」、「サブウェイパニック」なんてのを最初に挙げるのが穏便です。

小説を生業にしている人は「職業」といえるのかは疑問ですが、脚本家ってのはスキルも経験も必要な仕事だし、人材もネタもないこの状況ですので、挑戦しがいのある職業かもしれません。

営業右翼とWBC

2009-07-29 | スポーツ
三島由紀夫は、時の政権(統治権力)が愛国心(ナショナリズム)を強制・奨励することは、政権が変わることによって愛国心のあり方が左右され、健全な郷土愛(パトリオティズム)が阻害される恐れがあるので、決してやってはいけないことだ、というような意味のことを言っておりました。戦前の一時期にファナティックな国家運営をし、敗戦とともに大きく舵を切った日本という国にいれば、よりよく分かるお話です。

安倍政権の環境に関する「美しい星」構想は三島の作品のタイトルからとったものです。親米右翼などというわけのわからない立場をとりながら保守を自認する人達も大好きな三島ですなのですから、このあたりの見識を見習い、勉強して欲しいものです。子供達だって普通にWBCやワールドカップの応援に熱を入れるのは、多くの知り合いがおり、知っている場所が沢山あるからこそ日本にこだわっているのであって、何も強制されたわけではありません。

某保守系メディアに「WBCへの参加を拒否した中日の好調とそれによって失った何か」てな内容の記事が掲載されているのを読みました。内容は、今の中日の強さをすべて「WBCに参加しなかったこと」に求め、WBCへの中日の選手供出拒否ともとれる姿勢を「日本人が失った何か」によるものと指摘して悦にいっている気持ちの悪い文章で、ほとんど野球を見ていないんじゃないかと思われる状況認識の甘さに、情報の錯誤もあり、まともに反論する気にはなれないお粗末なシロモノでした。おそらく記事を書いた記者にとってはWCもWBCもオリンピックもすべて国威発揚の場なのでしょう。

日頃本を読まない人達が買うことによってベストセラーが生まれ、日頃野球を見ない人達がテレビを見ることによって高視聴率が生まれるように、WBCの盛り上がりはそういった野球にも愛国心にも興味のない飽きっぽく一時的な「ネタ」を楽しむ人達によってもたらされたものであり、選手達も含め、ベストは尽くせど決してこの記者の期待する「何か」などをもってして、習合されたものではありません。

昨日の中日vs巨人の好ゲームが汚されたようで、少し憤ってしまいました。とりあえずこの「保守系メディア」に関する文物は購入しないことにします。政権与党同様大手メディアの我田引水的ミスリードにも気をつけなければなりませんね。

都会の盆踊り

2009-07-28 | アート
先週末は郊外のあちこちの公園で盆踊り大会が催され、方々から太鼓や花火の音が聞こえる賑やかな夜でした。鎮守の神様がいるわけでも、壇家を組織する寺、お墓もない新興住宅地の寄る辺なきお祭りは、「お盆」という意味を問うことのない、さながら運動会の最後に全校生徒で演じるお遊戯のようでしたが、共同体の中心が小学校だったりする地域では仕方のないことです。むしろそうやって形骸化しながらも、毎年しっかり、それも細かく分かれて実施されていることに驚くべきでしょう。

地域のお祭りなどかったるいし、格好悪いし、せっかく都会にやってきたのに他人と干渉しあうなんてまっぴらだと思っていましたが、防犯の意味でも近所の人達の顔見せの場となるこういった催しは大事なことです。私のような田舎者のイメージする都会は、かつてヒットしたクリスタルキングの「大都会」という恥ずかしい曲のごとく「孤独と裏切りの街」だったので、ようやくそんなものは嘘だと気付いてきたということですかな。

思春期と思われる少年達が盆踊りの輪に加わっているのが印象的でした。若者は社会に反抗し、大人に対して礼儀知らずだというのもまた幻想なのでしょう。マイケルジャクソンのスリラーで盆ダンスとか言っていた頃が懐かしいものです。

白鵬 相撲の完成形

2009-07-27 | スポーツ
憂いを帯びた琴欧州の瞳に光が差すことは最後までありませんでした。白鵬のパワー、スピード、テクニックという3拍子揃った強さは対戦相手によって柔軟に変容し、千秋楽に気合いを入れベストを尽くした朝青龍に対してはスピードを駆使し、見た目以上に余裕をもって退け、改めて白鵬時代の到来を印象付けました。

白鵬はモンゴル相撲と日本の相撲との融合の完成形を魅せながら、中日、かつてでいえば阪急ブレーブス、清原が居た頃の西武ライオンズを彷佛とさせるプロフェッショナルを強く自覚した大人の相撲を展開して優勝し、朝青龍のがむしゃらでガチャガチャしたスタイルとは違い、安定感のある磐石な怪物力士に成長しました。

グローバリズムの象徴でもある朝青龍という世紀の悪役の強さを失った土俵は、本来の姿を取り戻しはしましたが、WBCで活躍する以前のイチローの求道的態度に人気がでなかったように、中日や阪急同様、人気面が不安です。今場所を見る限り、横綱を追う琴欧州や稀勢の里、日馬富士も成績以上に差があり、横綱昇進の条件である二場所連続優勝が難しい状況です。柔らかく怪我もしにくい体を持つ事実上の一人横綱がどれだけ記録を伸ばすかが今後の見所となりそうで、それはそれで残念で悲観的な見通しではあります。

よく言われる裁判員制度の難点の話

2009-07-26 | 政治
裁判員制度が始まりましたが、実は民主党党首選挙の前後に超党派により、制度停止法案が検討され、法案提出直前まで至ったことがあります。もちろん時期が時期だけに話題にもならず、どういういきさつで潰されたかもよく分からないものでした。

刑事事件の1審しか参加しないのですから、そんなに影響はなく、懸案だった市民参加ができれば、そこから風穴を開け、今後少しずつ修正していけばいいのではないか、というのが関わった人たち、政治家の多くのスタンスでしょう。マスコミもこれは法務マターなのか、社会部マターなのか、あるいは政治部マターなのか、セクショナリズムの中でお互い牽制しているのか、検討が必要であるというばかりで、強い批判はないようです。

(多数決で死刑判断のできる)裁判員には守秘義務が課せられるので、取材もできず、取材したりすると対象者が刑罰の対象になるというこの制度。洗練されたものにするために必要不可欠な情報が遮断されたままコトは進んでいます。のんびり構えていてよいものではありません。

せめてもの救いは、どういう偶然か、政権交代予定の民主党のマニュフェストに掲げられた取り調べの「可視化」と時期を一にしているところですか。公判前手続きの問題を少しでもクリアするためにも、投票はしませんが、そこは是非実現してほしいものです。


存在の耐えられないユルさ

2009-07-24 | 政治
最近名前を聞かず、欧州・中東を飛び回っているバイデン副大統領にばかり米外交のスポットが当たっているように見えたので、小泉政権における田中マッキーのごとく、オバマさんにスポイルされたのかいなと思っていたクリントン米国務長官ですが、プーケットで開かれているASEAN会合でそのご尊顔を久し振りに拝見することができました。

この会合でのものではありませんが、「北朝鮮は困ったガキみてえなもんで、まともに付き合っちゃいられねえ」てな内容の発言もあり、まず元気そうでなによりです。

最近見ないと言えば、重村智計・早稲田大学教授(北朝鮮専門家のハゲでデブでメガネなおっさん)もすっかりテレビからいなくなっています(私が見ていないだけかな)。金さんはすでに死んでいるとか、正雲さんの後継はないと言ったりと大胆な推測が過ぎたのでしょうか、確かに信用を落としているので仕方ないとしても、パタッと見なくなったので、キタから、あるいは北利権の政治家からのプレッシャーでもあったのかと心配しております。

北部にあると言われたモリブデン、パラジウムなどの地下資源があるというのも実はガセだという噂が拡がり、各国が経済問題で国内にかまけていることもあり、世界が急速に北朝鮮から興味を失っているような気がします。いじめで一番辛いのは「存在を認めず無視されること」ですから、裏で経済を締め上げ、暴発を「やれるもんならやってみろ」くらいの態度でキタに臨むのが効果的なのでしょう。強気なようで下手にでてしまったブッシュ、政権浮揚のためにキタを使った小泉・安倍政権が懐かしい。

ルナティックな大相撲名古屋場所

2009-07-23 | スポーツ
これだけ番狂わせのある一日も珍しい。互助会と揶揄された古参大関陣が全勝力士、横綱を次々と倒し、これから上位で星の潰し合いをするというのに、(われらが)安美錦が2敗を守るという展開。日蝕は実感できませんでしたが、上空で繰り広げられる天体の異変は、地上にも狂った土俵として反映されました。

これで、言い訳のように肘をさすってばかりいる朝青龍や日馬富士にも逆転の目がでてきたと、集中力を取り戻して復活し、どういう取組みを編成するかによっては上位との対戦のないまま安美錦の平幕優勝なんてこともありえますので、協会も頭が痛いことでしょう。

安美錦は優勝したところで相撲界の発展には全く寄与しないし、次場所への期待も膨らまないというユルい力士なんですが、今年の朝青龍、白鵬、日馬富士と続いた優勝力士に安美錦が名前を連ねるのもコントのようで一興です。しかし皆が一斉にひいてしまうのは明らかなので、身分をわきまえた彼は決してそのようなことはしないと思いますが、記憶に残る力士として一回位優勝してほしいと思うのは私だけでしょうか・・・。私だけですね。

泡沫と呼ばないで

2009-07-22 | 政治
今回の総選挙で一番気になるのは、幸福実現党の様子と結果です。一時ライバル関係にあったオウム真理教の選挙活動はこの世のものとは思えないほど醜悪なものでしたが、いまのところニュースになるような突飛なところもなく、選挙の体裁も整っているように見えます。テレビでの党首討論などにどこまで参加できるのかは分かりませんが、開票時に他党同様、当選者に花をつけていく作業は中継されるのか、そのときの背景には何が置かれているのかなど気になるところです。

公明党、日本新党と同じ都議選でのデビューでしたが、結果は10人全員最下位落選。得票数は全体で1万3401票、得票率は1%以下。選挙区別で得票数は足立区の2115票から武蔵野市の396票と、生徒会選挙と見紛うばかりの数字が並ぶ厳しいものでありますが、オウムの真理党の全得票数6000には勝っていますし、なにしろ歴代有名宗教指導者のハイブリッドチャイルドである教祖の御託宣によって始まった選挙活動ですから「選挙の神様」が降りて来るやもしれません。この結果から予断をもって「泡沫」扱いなど、決してしてはなりません。仏罰とか天罰とか河豚とか海老とかいろいろ混ざったものがあたります。

民主党の比例区での候補が足りなくなり議席を獲得するという手もあります。投票はしませんが、あきらめず、是非1議席でも獲得して、公明党と共に政教分離の是非を問うたり、ユーモアに乏しい永田町政治に風穴をあけてほしいものです。

海の日

2009-07-21 | 政治
昨日は「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」という海の日でした。海洋国家というとイギリスやオランダ、ポルトガル、スペインなど冒険好きな国を連想しますが、日本は鎖国していましたし、海に囲まれているからといって海洋国家であったことはあまりなかったような気もします。

国民性により、海を大陸や地形に縛られない外国への扉として捉えるか、侵略への防波堤として天然のお堀と捉えるかと着想も様々です。海の日も明治天皇の東北地方巡幸の際、汽船「明治丸」によって航海をし、横浜港に帰着したことに因んだもので、この記念日が法制化された際に批判の根拠とされた右翼的、帝国主義懐古的な意図もなさそうです。

ニュアンスとしては「みどりの日」に近いもので、都市生活一般にはほとんど影響も関係もないものであり、経済効果と当時の政治家の選挙目当て、7月に休みがないことから作られ、その上口にするのも恥ずかしいあの「はっぴぃまんでい」のせいで、7月20日という意味も剥奪され、身も蓋も無い祝日になりさがっていて少々残念です。

風鈴市

2009-07-20 | アート
人込みは苦手なのですが、お祭りは好きで、そば好きのそばアレルギーのような葛藤の中、昼間からアルコールが飲めるということもあり、川崎大師の風鈴市に出掛けてきました。

仙台の七夕祭のようにあちこちに、お店毎、思い思いの飾り付けで街全体が盛り上がってるといったお祭りという予断をもって大師駅に降り立ったのですが、風鈴市は、まさに風鈴市場で境内の一角にまとめられ、商売の匂いにする、お祭りというより、展示即売会といったもので、テレビや新聞でとりあげられる印象とは趣きの異なったものでした。

夏祭りというと、BGMはロックではなくフォーク。小椋佳の「盆帰り」やさだまさしの「ほおずき」など賑やかななかのシリアスな心情を謳うものが多く、それらの唄とともに学生時代のこっぱずかしい記憶がよみがえり、しんみりすることもあります。

ただ人々はそんな私におかまいなく、完全制覇を目指しているのか「やきそば」「フランクフルト」「かき氷」とまるで責任のように次々と胃袋にかっこみ、境内で行なわれていた猿回しに大笑いしております。コンビニでもっと安く売っていていつでも食べられるものをお祭りだからといって、どうしてすみっこで貧乏くさく食べなきゃいけないのかがよく分かりませんが、確かにあのソースの焼ける匂いの誘惑に負けそうになります。

音が一番大人しく穏やかな、パーカッションの人が使うウインド・チャイムのついたリリカルな風鈴を一つ買って帰りました。

大相撲戦国時代

2009-07-18 | スポーツ
日馬富士が早くも2敗目、それも平幕に負けたということで、今場所終了後の横綱昇進は無くなりました。まだ25歳、深田恭子より若く、こないだまで「安い馬」だったのですから気にすることはありません。こうしてちゃんと壁にぶつかる方がむしろ正しいのです。

そもそも日馬富士のようなソップ型の力士は、テクニカルでスピードが持ち味のときどき金星をあげる8勝7敗の関脇止まり、というのが常識で、安馬時代も彼の細い体に場所を盛り上げ役を担わせるのは残酷だと思っていたものです。日を追って体重が増えるでもなく、相変わらず内臓の悪そうな顔をした横綱の誕生は、若手の励みにもなるし、人気も上がるでしょうけど、どこか座りが悪く、小さな体に負荷をかけ過ぎているようで、気の毒です。

安美錦、稀勢の里が勝ち星を重ねていますし、先場所も活躍した琴欧洲も優勝争いに絡んできそうで、朝青龍もまだまだ元気ですし、大相撲はいよいよ戦国時代に入ってきました。

雪に願うこと

2009-07-17 | アート
アカデミー外国語映画賞をとった滝田洋二郎の作品だということ、相米さんも扱った鳴海章の原作(風花)だということでとりあえず見てみました(そんなスタンス)。

滝田さんは、与えられた素材を如才なくこなしていく監督というイメージ通り、映像に対するアプローチは無理せず消極的で、原作があるということもあり、よくあるストーリーと登場人物、役者に与えられるつまらないセリフのせいで、北海道を舞台にしながら、全体に小さくまとまっている印象です。

父親と息子ではなく、兄と弟のバラバラになった家族の再生の物語という捉え方でいいのかな、軽くなってしまった父親不在の指針のない人々の迷いと希望がテーマなのでしょう。兄の赤、弟の青という衣装もポップで、気温が低く清潔な北海道は汗や土の匂いがせず、暑苦しい性描写もありません。これはこれで生活に実感のもてない現代人をうまく表わしているのかもしれません。

今の日本人は都会的で少々ネジのはずれた映画を作るのは得意だし、役者も生活感の無さを売りにしている方が多いので、こういう地方を舞台にした商業映画を撮ると、野趣のない薄っぺらいものになってしまいます。小泉今日子のコピペのような役柄も、昔だったら倍賞美津子など映画的な女優さんが生活の重さを体で表わしながら演じていたものです。

ただ、唯一昭和の「父親」に相当する人物として描かれる山崎努の粗暴な艶っぽさは、その整理整頓された作品世界からはみださんばかりの存在感で出色。狡猾で嫌なこと言う高等遊民親父のしたたかさが、若者のひ弱さを際立たせていました。

見た後で調べてみると、この作品の原作は芥川賞を受賞しており、映画は第18回東京国際映画祭でグランプリを含む4冠を獲得し、絶賛されたとのこと。「癒し」「励まし」が流行っていた頃なんでしょうか。確かに万人受けする健全な作品です。

不知火型土俵入り

2009-07-16 | スポーツ
横綱の土俵入りの型において不知火型は不吉、雲龍型が無難という都市伝説を覆し、白鵬の安定した活躍が続いています。横綱の締め型もわっかが二つの不知火型の方が見栄えがよく、攻撃的とされるこの型には人気がありますし、私も好きです。

旭富士、三代目若乃花、吉葉山、双羽黒、玉の海。確かに短命です。しかし横綱在位期間最長記録の羽黒山は不知火型ですし、雲龍型の横綱だって在位期間最短記録の前田山や三重の海(武蔵川親方、現日本相撲協会理事長)などがいて、不知火型が縁起が悪いというのは、いかにも伝説的な裏付けに乏しい噂話の域を出ません。不知火というどこか霊的な趣きのある語感とともに、迷信深い相撲界ならでは思考パターンのなせるワザともいえます。

朝青龍も独創的な横綱たらんと欲するのならば、ここはひとつ新しい土俵入りの型のひとつでもつくってみてはいかがでしょう。

首相、失格。

2009-07-15 | アート
人の意見に左右され自分を主張できず、道化というスタイルで結界をつくるといえば、『人間失格』の主人公葉蔵ですが、少し怯えた様な目で痩けた頬をした漫画さんの哀愁を纏った佇まいは、無責任に期待し、用が無くなったとみえた途端に葬りさろうとする大衆を諦めているようで葉蔵を彷佛とさせ、就任当時よりずっと冴えて見えます。落日の自民党を演出するに相応しいルックスになってきました。

なんでもかんでも彼に背負わせるつもりの自民党は恥知らずな「漫画降ろし」や古賀や尾辻の「敵前逃亡」を繰り返し、小泉、安倍、福田と続いた保守党でありながら革新的(町村派)な政策の尻拭いをさせるつもりのようです。少数保守本流派閥出身の漫画さんの悲哀は推して知るべしで、利用するだけ利用しておいて、最後はスケープゴートにするという、まったくもって随分な話の主人公になってしまいました。

サミットなど、スポットが当たる舞台に出る度に傲慢になったかつての首相と違い、あらゆる趣味に通じ、文化人たる漫画さんは、実に身の程を知る謙虚さと自虐的な美意識をもって振る舞っているように見えます。

「あなたは決して失格したのではない。魔性達の汚れた精神を持たずともよいと、人間という魔性から除名されたのだ。」(平成9年度高知工業高等専門学校読書感想文コンクール最優秀作品『「人間失格」を読んで』より)