長電話

~自費出版のススメ~

宿命の女、藤圭子

2013-08-23 | アート
お菊人形のような黒目がちなルックス、陰鬱でハスキーな声。

宗教画を思わせるドスの効いた佇まいをもつ藤圭子という歌手は、昭和の新宿・中央線沿線に数多く湧いたファムファタルの中でも突出した存在でした。

生い立ちからして不幸、流れ流れて都会に辿りつき、喧騒に身を委ねながらも自分をかろうじて保ち、その結果その血と肉だけが存在を強く主張するというそのいきづまったタイプは、実は「俺だけが彼女を救える」と思わせられる、現代のアニメファンの男の子がはまる綾波零のような存在、言わばロリータの昭和新宿バージョンの展開だったのかもしれません。

当時の、まだ甲子園地元出場校を応援する習慣のあった地方出身者にとって、ネットもなく交通事情からも遠かった東京という街のイメージは、クリスタルキングの「大都会」や桑田圭佑がカリカチュアした「東京」のように、極端に猥雑でいわゆる生き馬の目を抜く、哀しく危険な場所というものでした。

石井隆や上村一夫の漫画の影響もあるのでしょう、学生運動をやってた連中の危険な生き方もありました。そしてそこにあるべきヒロインとして藤圭子が嵌るわけです。あっさり出て行き、自由に振舞う高橋真梨子とは違い、彼女はどこにも行けず、四畳半に留まり、不器用に拘り寄り添ってくれました。

男の勝手な思い込みが投影されたキャラクターが共有された時代は終わり、現実にはそういった女性は最初から存在せず、新宿はゲイが席巻、「痴人の愛」の主人公のような沢口エリカに振り回されるのに辟易した男達は二次元世界に救いを求めはじめるわけです。

藤圭子さん本人が実際どういった人かは分かりませんが、藤圭子が残したキャラクターを引き継ぐアイドルは現実世界ではもう現れないし、必要ともされないでしょう。しかし現在でも日本の男達は高橋真梨子や大貫妙子に順応できず、心情としてはいまだ藤圭子に拘り続けているような気がします。私のように。

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