中国のプランＢ

日中双方ともに国内の権力闘争が大きく絡んでいるとみられる尖閣諸島に端を発した騒動がなかなか収まりません。日本としてはセンチョさんを解放することで大きく譲歩したつもりだったのですが、フジタの社員はいまだ解放されず、政治的な窓口も閉ざされたままです。ただ、今回のケースは外交のロールプレイの見本のようでなかなか面白いものではあります。

あらかじめ有事のシミュレーションを行ってないと思われる「おひとよし」の国の内閣はクラスの保険係、生き物係を選ぶようなセンスで構成されていますし、一体感、整合感に大いに欠けています。それがいけないとはいいませんが、理想主義者の限界、日本の正当性の敗北をこれだけ見せ付けられては子供の教育にも悪いってもんです。

それならばと、主張の正しさを国際社会に訴えようと今回の尖閣騒ぎの肝である「証拠のビデオ」。これが日本の唯一のカードで、訴訟になるケースも想定してこれまで公開されていなかっただけに、期待が高まります。

しかし、そのビデオはどの国の領海で撮られたものなのでしょう。

中国は「証拠ビデオ」の存在もその内容も把握とまでいかなくても想像はしているはずですから、当然世界に公開されたとしてもしっかり準備はできているはずです。あくまで自国の領海内という前提である以上、センチョさんは

「わが国の領海釣魚島を守るため、侵犯してきた日本の海軍の巨大な艦船に身を挺して守ろうとしただけだ」

と、こういう種類のことを言ってもおかしくはないでしょう。

フォークランド紛争も、またイスラエル・パレスチナの地位問題も他人事で済ましてきた日本人にとって、いまいち実感のない北方領土や竹島の領土問題以上のストレステストが始まったようです。

イチロー裁判 少年野球の愉悦

イチローが毎年記録してきた２００本安打に関して、内野安打が多い、スランプがない「足」で稼いだ安打に意味はない、などと揶揄する向きも多いようです。

私は野球のシステムの中で一番美しいのは、ホームランの軌道ではなくダブルプレイの無駄のない流れるような動きだと思っているので、左で足の速さを印象付けられた併殺の少ないイチローの存在により内野手が慌てる様子を見るのが好きです。

ホームランや四球ですと、当然内野手は動きません。展開次第では試合進行や結果にダイナミズムがあったとしても、その時間帯のプレイ自体には躍動感はないのです。イチローが打つだけで、サッカーのゴール前の攻防のような緊張感が生まれるとすれば、現場にいる観戦者にとってはこれほどのカタルシスはないわけです。

イチロー自身がそのようなエンターテイメント性を前提にプレイしているとは思いませんが、面白い野球が見たいと思う野球ファンとしては、大味な大リーグの中で観客も含めた試合参加者の誰にも集中を強いる彼のスタイルは、薬によるパワーや球場の広さに関わることのないピュアな野球だといえるのではないでしょうか。

休日に散歩がてらあちこちの公園で行われている少年野球を見ている限り、打取った内野ゴロでの攻防が雌雄を決しますし、ライトゴロなどが頻繁なので、最後はディフェンシブなチームが勝つという傾向が見て取れます。

結局、どのレベルであれ、舞台であれ、スリリングであればそれでいい、なんてことを思う私のようなものにとってイチローの記録は、ついてくるものであり、記録事態は記憶の補完でしかないものです。

なまはげのいない世界

マスコミへのリークなど陰謀的な動きによって時の権力にすら立ち向かってきた検察の失態。不敗を誇ってきた小沢氏の代表戦でのあっけない敗北とあっさりしたその後の対応。親アジアだと思われていた政権の尖閣での対立の先鋭化。今年も磐石だと思われた金満球団巨人阪神の終盤での失速。政界とのコネも利用する芸能プロダクションのタレントの管理の甘さ。

それぞれの業界を守ってきたグランドデザインを持つ大きな力による秩序、というものがあると信じられてきましたが、それが神話に過ぎないことがあからさまになり、自主規制を止めた個人は神話に対する「怖れ」を失い、どこに向かって何を動機に、どういう美意識で動いているのかがよく分からなくなってきているようにみえます。

イラク戦争もアフガン戦争も９・１１によって引き起こされたものですが、その目的も動機も様々に言われ、既にそもそも論を誰も問わなくなったように、今見えている現実に見通しのないまま、直対応的に脳髄反射を繰り返すことが政治家にも一般的になってしまった現実からも、世界的にも方向感覚が失われていることがみてとれます。

適当にやってても、もう「なまはげ」が我々を懲らしめにくることはありません。

陰謀はなかった。個人の欲望が個別に露出しただけ。文化的な匂いが犯罪から消え、犯罪が社会に与える影響が息苦しい法の整備にしか反映しなくなったとしたら残念です。