長電話

~自費出版のススメ~

退廃的男優の系譜

2010-10-29 | アート
ジャニーズ事務所の供給するあまり奥行のない健全な男の子が「かっこいい」の標準である日本でも、本田恭章の居場所のなかった昔と違い、いろんなタイプの俳優が需要として成立してきたもんだと、ARATAの台頭を見て思います。

遅ればせながら、春に放送された「チェイス」を(まとめて)観ました。主演である江口洋介の、唐沢寿明でも、いやむしろ役所広司のほうがいいかとに思える換えのきく役柄や演技と違い、ARATAの存在感は冴えざえとして際立ったものでした。

「チェイス」での彼は、顔でしか演技のできないキムタクや鶴太郎とは違い、頭の小ささや身体の繊細さを活かす透徹した様子で、豊川悦司の若い頃とも違う、どうしようもなく追い込まれた神経質な異常者のストイックな美意識を、自意識を感じさせない「自然」な態度で演じていました。

カメラも自然と引いたのか、ARATAの姿をテレビでありながらミディアムショットでその美しいフォルムを捉えようとしていたような気がします。ゴッドファーザーパート2でのデニーロ、あるいは若い頃のスティングの声のようなその優雅で繊細なルックスが、今後どんな作品を選び、また演出家のイマジネーションを刺激するのか、とても楽しみです。

作品自体は、珍しく予定調和のない、そしていい加減な奇跡の起こらない展開と結末で好感はもてたのですが、演出意図の解からないものも多く、恢復する父と娘の組と、焦点の定まらない母と息子の組のコントラストはいいとしても、果たして私の解釈と作者の意図や狙いはあっちょるのかね、と不安になって、クリントイースウッドの映画のように解説はできそうにありません。

この作品「チェイス」はARATAを見てよいと思えればそれでよいのです。

モリのアサガオ

2010-10-26 | アート
ARATAが死刑囚役をやる、ということで見始めたテレビ東京のドラマ「モリのアサガオ」。第1話は、死刑囚、死刑、(刑務所ではない)拘置所、登場人物とその背景について、結末への流れの大雑把な説明に終始、さらに言えば「死刑廃止の観点からの啓蒙ドラマ」を匂わせる内容でした。

若いジャーナリストや行き着けのバーのママなど、事情をよく分かっていない「世間」を新鮮な質問者、狂言まわしとして設定し、「死刑囚には労務がない」など、それに答える形で死刑をとりまく諸問題を明示していくという手法でドラマを展開させています。

渋澤龍彦の「おもろい奴が犯罪を犯す。だから死刑反対」てな内容のエッセイを読んだことがあります。このドラマに登場する死刑囚のように、死刑にアタイするといわれる犯罪を起こす人達の幼児的で節度のない様子は、役者の熱演もあって「病的」であり「過剰」であるからこそ、ドラマとして成立するわけですから渋澤さんの言うことはもっともなのかもしれません。

欧米では死刑廃止が大勢で、人権先進国として自慢し、さらにその姿勢を広めようとしてうっとおしいのですが、ほんとに危ない奴は現場で射殺してしまうので、彼等には死刑制度など必要ありません。そして日本の死刑囚のような異常なタイプは犯罪者ではなく病人として捉えられ、収監はされますが、殺されはしません。そして本当の悪人はまず捕まったりはしないものなのです。

王制の名残のある欧州は、死刑は国家(王)による最高刑(報復殺人)なので、被害者は国家(王)であり、国家(王)に対する反逆や紊乱に対して執行されるのが妥当と思われていましたが、日本では国家とは関係なく「殺した数」という(永山)基準で、(罪ではなく)犯罪者を被害者に成り代わって第3者が(自動的に)成敗し、事件とは関係のない国民が溜飲を下げるというわけのわからない構図になっています(あくまで乱暴に言えばです。日本は死刑判決が乱発されているわけでも執行が多いわけでもありません)。

光市母子殺害事件の加害者の悲惨で異常な家庭環境はあまり報道されず、無慈悲な犯行ばかりが強調され報道されるのを見るにつけても、マスコミも政府もその姿勢を修正するつもりはないのでしょう。

第2話を見るところ、私の目的であるARATAのシーンは少なく、どうやら死刑囚ひとりひとりにスポットを当て、1話ごとに死刑台に送り込んでいく趣向のようなので、待ちぼうけを食らってる間に、死刑を取り巻く制度についての豆知識が増えそうです。

ミスコンテスト

2010-10-20 | アート
どの報道番組もチェックしているわけではありませんが、記者クラブや官房機密費の問題で活発に動いていた上杉隆氏をテレビで久しくみていません。業界の方から「二度とテレビで仕事ができないようにしてやる」などと脅しを受けたと「ラジオ」で言っていましたが、そのとおりになってしまったようです。

上杉氏は「小沢問題」においても、マスコミと検察による小沢氏の悪いパブリックイメージを捏造として指摘し続けた珍しいジャーナリストで、私のような社会の末端にいる人間でも、小沢氏が幹事長時代に毎週会見を開いた際、事件に触れ、説明していたことを知っているのは、彼等フリージャーナリストのおかげです。

様々に権力と癒着した悪が描かれ、法の外でそいつらをやっつける元不良達の活躍を描いた「ワイルド7」という漫画がありましたが、現代は「昭和」のように、表だった「政財界を牛耳る右翼の大物」と呼ばれるような個人としてのフィクサーはおらず、政治家もすっかり小粒でクリーンになり、そしていまや、それら権力と闘ってきた人達が政権についています。

それなのにそんな時代に何故、今良心的な一フリーの記者をスポイルせねばならないのか。

答えのひとつは「みんながそうするから」。上杉氏の活動を心の中では支持していながらも、勇気をもって起用したりすると、何か恐ろしいことが起こるんだ、という思い込みにしばられているからではないでしょうか。

小沢氏は多分こう思っているから、検察がこういったから、と、自分の意見は持たず、多分みんながそう思ってるだろうと忖度し、確かめもせず行動するのです。蒼井優がほんとは好きなんだけど、宮崎あおいの方が人気があるしふさわしいからミスコンテストには彼女に入れよう、という発想です。

フィクサーを亡ぼし、代わって、蟻のように同じ意識をもった集団の同調圧力が社会に蔓延している様子は、番長のいない学校の陰湿なイジメのようで、現象としては自然な流れなのかもしれません。

巨人帝国の皇太子にハンカチ王子を

2010-10-17 | スポーツ
巨人や阪神は金にあかして、他球団の主力選手を奪う汚い球団として、良識・良心さを旨とする野球ファンには嫌われてきました。しかし私には今般のCSでさえ地上波放送のない、斜陽である日本プロ野球へのてこ入れとして、この2チームにどんな手を使っても再興へのリーダーシップをとって欲しいという気持ちもあったります。

私は中日の野球ファンであり、中日球団ファンではありません。中日の野球は高校生レベルならまだしも、子供には理解できないダンディなもので、そのいぶし銀スタイルの勝利へのこだわりは、官僚的とさえ見え、(子供達に)退屈だと映っても仕方のないものです。

野球好きの子供には、YGのロゴの黒にオレンジのストライプの入った巨人の帽子が似合います。東京で、中日や広島の帽子をかぶっている子供を見かけると、妙に知的に大人びて見え、親の出身地のせいでそれは自然なことなんだろうとか、その原因を考えつつも、自らがマイノリティであることを自覚させられるこれからの厳しい立場に少々将来を心配させられたりします。

今の中日の(選手選考も含め)野球は地元ファンと玄人と、(私のような)玄人を自称するスノッブな野球ファンのものであり、決して全国的なポピュラリティを得られるようなシロモノではありません。巨人の坂本や広島の栗原のように愛嬌のあるスター選手は(今の)中日では自然淘汰(あるいは浄化)されてしまう土壌があります。

いわば、中日のプロ野球の人気面での貢献は端から期待できないのです。

今、不人気で視聴機会減少という負のスパイラルに陥っているプロ野球に必要なのは、強さではなく、人気です。

阪神はすでに人気球団であるから勝つためという方針のもとに補強をしていますからいいとして、巨人はそれに加えて人気を得るための補強をしなくてはいけません。そしてそれはつまり、おば様たちのアイドル、子供達のヒーローにふさわしいルックスをもった正義の使者、早大の斎藤佑樹くんを巨人に入れることではないでしょうか。

阪神の能見の女形のような美しさや、SBの和田の玄人好みのかっこよさではなく、少年漫画のパロディのようなルックスの、成績に関わりなく客やスポンサーを呼び込むことのできる営業的才能をもったハンカチ王子こそが巨人帝国の皇太子として今必要なのです。

今秋のドラフトは豊作だといわれています。プロ野球は興行であり、宣伝活動という側面も強くあるわけですから、江川や桑田を強奪したような手法を使ってでもという巨人の意気込みを見てみたいものです。

中日ファンとして、営業面は巨人に任せるから、安心して野球観戦のできる環境ができればそれでいいという、虫のいいお話でした。

マッチョで感情的なメジャーリーグ

2010-10-14 | スポーツ
阪神のマット・マートン(29)が来日1年目、また右打者でありながら、イチローの最多安打記録を16年振りに塗り替えました。試合数を根拠に参考記録と悪口をいう方もいることにはいますが、とにかくタイトルホルダーとして歴史に名を刻むこととなりました。

マートンは大リーグの名門「レッドソックス」にドラフト1位指名された逸材で、期待されながらも所属したチーム(カブス、ロッキーズ、アスレチックス)事情からレギュラーに定着できず、流れ流れて日本のチームに辿りついたそうです。

8年連続100打点・150安打という素晴らしい記録を達成した巨人のアレックス・ラミレスなど、本人のポテンシャルが開花するステージは、日本であったり韓国であったり、向き不向き、運不運によって左右されるものです。

「アメリカの3Aレベルの選手でも日本の一軍の試合では通用する」などという揶揄(事実?)をもってして日本プロ野球の低レベル批判をする向きもございますので、今後成績が安定して評価が定着し、再び大リーグに戻ることができるかどうかはまだ分かりませんが、彼が日本人ならばメジャー挑戦者候補になっていたのは間違いないでしょう。

日本でトップクラスの成績を残すラミレスやマートンでさえ通用しない大リーグならば、かつて長嶋巨人が強奪した各球団の強打者のように、それは野球の才能とは違う作用や要因が働いているということです。

今年は日本人のメジャー進出候補としてダルビッシュ、岩隈、中島、青木、和田、杉内など錚々たるメンバーが名乗りを上げていると言われています。

イチローというとんでもない「ものさし」のある中、どの程度活躍すれば成功、活躍しているという印象を与えられるかは分かりませんが、ステイタスとして渡米するのなら、成果が出なくても評判にこだわらず、さっさと帰ってきてほしいものです。

日中関係の不確定要素

2010-10-07 | 政治
尖閣で活躍して中国に送還された船長さん、晴れての釈放、家族も大喜び、地元ではちょっとした人気者。証拠ビデオでも公開された日にゃ、国民的英雄となり老後も安泰・・・だとばかり思っていましたら、中国国内で監禁されているそうです。

彼はどういう立場の人間なのでしょう。

中国共産党は、軍部を握り反日で有名な江沢民派と、胡主席を中心とする穏健な開放派に分かれて権力闘争を長年やっています。主席の任期切れが迫り、さらに激しくなる争いの中で現体制に失点をつけようとお互いに必死、その闘争の真っ最中での今回の事件ですから、船長さんも政争の具となりその渦に巻き込まれていてもおかしくありません。

一枚岩の独裁政権とのイメージの中国ですが、旧ソ連のように政権内には揺れがあり、この時期に指導者が弱みを見せることは人事への致命傷につながりかねないのです。

かつて靖国参拝を中曽根元首相が諦めたときも、やはりその権力闘争に影響があると、裏ルートを使い、なんとか「勘弁してくれ」と拝みこんできたことから応じたといわれています。

強硬な態度によって、欧米や周辺諸国の中国への警戒感は増し、レアアースビジネスも安全保障の観点から中国の外へシフトしようとする動きが起こってしまって、結果的には得たものより失ったものの方が多いのですから、船長さんが中国にとっても「トラブルメーカー」だったと考えたほうがいいでしょう。

中国にとってリスクの大きい人質作戦まで使って勝負に出るほどのことなのか。また弱腰に出た場合の反響を考えていながら唐突に船長さんの解放に踏み切り、おかしな事後処理をした日本政府の対応。

中国には権力闘争の影が、そして日本にはアメリカの影がちらついています。中国色を嫌う内閣の主要メンバーをみても、やはり船長の釈放は日本の防衛を担い、尖閣で事を構えることを厭うアメリカの圧力ではなかろうかと推測されるのです。

いずれも今回の事件への不自然な対応で、大損ぶっこいたわけですし、今後はお互い敵意を助長するような態度は慎むようにはなるでしょうね。

証拠ビデオの行方も怪しくなってきました。