空色野原

空の下 野原にねころんで つぶやく

偉い人扱い一切なし

2008-03-23 12:36:53 | 元気になる人物伝
中部空港でボランティアを3年続けるINAX名誉会長 
伊奈輝三さん(70)

 国際線の到着ロビーでバスの時刻表と腕時計をにらめっこしている旅客を見つけた。近づいて、「まだ間に合いますよ」。
 道順を教え、走って乗り場に先回り。運転手に待ってもらうのだ。
「乗り遅れて1時間も待つのは可哀想」。
 迷惑顔をされても笑顔を絶やさない。

 85年、5代目の社長として伊奈製陶からINAXへ社名変更を決断した。企業のブランドイメージ戦略を確立した先駆けとされる。
「世の中の役に立ち、自分も成長する」。
 01年に会長を退いた後も自ら掲げた社の理念を実践する。

 ふるさとの愛知県常滑市沖に国際空港が開港した05年2月から案内ボランティアを週1回続ける。ビジネスで培った滑らかな英語で、海外からの到着便が多い夜7~10時を買って出た。3年で約1500人を導き、中国語も勉強中だ。

 仲間は同世代のリタイア組や学生、主婦ら約300人。
 空港への熱い想いを語って面接をパスした。
 元会社員の仲間は「肩書きや地位にしがみついていては、ボランティアはできない。うちの社長じゃ無理」と舌を巻く。
 旅行帰りの昔の知人にも驚かれるが、「楽しんでやっているだけ」とどこ吹く風だ。

 昨年10月、地元の商工会議所会頭など20~30あった公職をすべて返上した。身軽になった象徴にあごからもみあげにひげを蓄えた。偉い人扱いの一切ない、ボランティアが生活の中心になった。
(朝日新聞 08.2.17)