翼がある物ならバットウィングから手羽先まで。脚がある物ならロボットからチャンネーまで。ストライクゾーンは無限大。
趣味人(シュミット)のプラジェクトX
続 師走の模型屋
趣味人(シュミット)のブログへ、ようこそいらっしゃいました。
冬の夕暮れどき、仕事をハネて職場の駐輪場をすり抜け中心街のアーケードに繋がる裏通りに出た。少し寒い。模型屋で暖をとってから家に帰ろう。老舗旅館の板塀を越えて逃げてきた、赤や茶色の落ち葉が五、六枚、鬼ごっこをするかのようにクルクルと足元に遊んだ。
職場の近くには地方銀行の駐車場があり、併設された屋根付きの駐輪場に高校生と思しき男の子が、自転車にまたがったままタバコに火を点けようと、百円ライターの点火ホイルをカシャカシャ弾きながら、咥えたタバコの先に当てがっていた。
… こいつ制服のままでタバコなんか咥えやがって…
歩みを進めながらも視線が合うまで睨みつけ、そいつに昔の自分を重ねた。点火に成功したものの、眼を合わそうとしなかった。
たかだか高校生、かわいいもんよ。
アーケード街は夕暮れどきにもかかわらず、人影はまばらだった。歳も暮れようというのに、クリスマスソングだけが活気を取り戻そうと、やかましくスピーカーから流れていた。
ジングルベルが遠ざかり、模型屋のショーウィンドウが目に入ってきた。
相変わらずの面々が薄いホコリをかぶり、新参者との交代を待ち望んでいたが、中々現れなかった。
空で言える程見飽きた戦車やロボットに一べつを加え、店の入り口に手を掛けようとした時、自動ドアよろしくさっと中から開き、制服姿の男の子が突っ立つ私の横を滑り抜けていこうと、かがみながら出ていった。
制服のボタンは外され、模型の箱を胸に詰めていた。
何かおかしい!
そうだ!包装してないもの持ってる!
儀式が済んでない!!!
開けっ放しの引き戸越しに半身を店内に突っ込み、新聞に顔を埋める呑気な店番に声を掛けた!
「おばちゃん!今の男ん子に、模型売ったと?裸んまんまん箱ば持っとったばい!」
老眼鏡にシニアグラスを嵌めた三倍に見える黒まなこが、事の大事に五倍に拡大して見えた。
「なんて!何も売っとらんばい!」
売っとらんばいの“ う ”を聞くや否や反転し、男の子の背中を追った。
走り出した私の気配を感じたのか、一瞬振り返った男の子も走り始めた。今だ模型は胸に突っ込んだまま。
舐めんなよ!元ラガーマンを!
模型を必死に隠しながらのぎこちない走り方の男の子を、ズンズンと追いかける。
あと10ヤード!アーケード街にチラシしか持ちあわせない偽サンタクロースをサイドテップで交わし、もう2ヤードで追いつく!ダッシュ、ダッシュ、ラッシング!百貨店跡地のコインパーキング横でスマザータックル(ラグビーのタックルの技法のひとつ。ボールごと羽交い締めにしてパスも走る事もできなくする)をかませ、サビだらけの金網に男の子を押し付け、逃げるのを諦めさせた。
ガシャンと金網が軋む音に、フーっと煙を吐きながら火の着いたままのタバコを投げ捨て、慌てて自転車を漕ぎ出す 不良野郎が遠く目に入った。
グルか!
「なんか こら!買うてきたもんや?」
ハアハア息があがる男の子を押し付けたまま、模型の箱を引き剥がした。元ラガーの一撃で、無敵のアニメロボットの箱絵は無惨にも破壊されひしゃげていた。
黙ったままの男の子の腕を掴み、店の方に連れていこうとした。
向こうからは、歩く速度で走るかっこうばかりの、店番失格者がさすがに真っ青になりながら、近づいてきた。
「 慎ちゃん(仮名)、なんばしよっと!
話しばするけん、店にもどんなっせ!」
店番失格者は取り消そう。客としての男の子の名前を覚えていた。しかもちゃん付けで呼んだ。
三人、黙ったまま走った逆の方向にゆっくり歩いていった。チラシを渡そうとするサンタを尻目に。
幸い店には他の客はおらず、三人戻ったところで、寒さに震えるふたつ星の入った路上看板も店内に引き入れ、臨時閉店となった。
もぬけの殻になった店を店主が出て来て番はしてはいるが、名残おしそうに居間のテレビをドアを半開きにして観ていた。
( おじちゃん、もう印籠はかざされたんだろう?やっつけなきゃいけない奴、しょっ引いてきたんだから!テレビはあとで!)
万引きに遭遇し、しかも捕まえた興奮状態の私と対照的に、穏やかに話かける店主。
百戦錬磨、 慣れたもんである。ニコニコしながら
「なんしたんねえ。慎ちゃん。」
店主もその黙り込む男の子を知っていた。常連らしい。私も店で見掛けたような、いないような。ワーワー騒ぐような子は目にも付く鼻もつくが、静かな子は印象に残り辛い。
店番合格者は店主の横をすり抜け、ほどなく熱いインスタントコーヒーを四杯用意した。私もこの場にいても良いと。
「ゴメンなさい。僕、お金はらいます。その模型買います。」
震える声を絞り出し、裏返しの包装紙の上に置かれた人間に負けたアニメロボットを引き取ると意思表示した。
店番だけが座れるスチル製の丸椅子を売り場に出し 慎ちゃんを座らせ、私は地袋に腰掛け熱いコーヒーを手渡され、興奮を収めようと深呼吸を繰り返した。
「 なんてや?金ば…」
「まあまあまあ」
店主が私の言葉を遮った。
「慎ちゃん、初めてねぇ。こぎゃんこつすっと。(こういったことをするのは)
こまか頃から来てもろて、今日はなんしたと?訳ば聴かせてくれんね。」
沈黙が数分……続いた。ジングルベルが遠くかすかに聞こえた。
慎ちゃんはポロポロと涙をながしながら、やっと事の真相を語り出した。
「 万引きしてこいと、小島(仮名)に命令されたと。 お金払えばおばちゃんたちは綺麗に包んでくれるでしょ。でもあいつ、はだかのまんまの箱ば持って出てくっとば見とっとたい。」
自転車で逃げたひとりを確かに見た事を、並んで座るおばちゃんに耳打ちした。うんと頷き、阿吽の呼吸でおじちゃんに伝わった。
陰湿なイジメにあっている。かわいそうに。
頭ごなしに叱ろうとした自分が、恥ずかくなった。
「 小島君は、連絡とるるかい?ここに来てもらわんばん。」
店主の眉がつりあがった。ぬるくなったコーヒーを飲み干し、初めてみるキツい形相に変わった。
印籠をつきつける相手は、ここには居なかった。
………………………………………
不良少年は現れるのか!
店主が下したお裁きは!
次回に続く…。
( 画像と本文は関係ありません )
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冬の夕暮れどき、仕事をハネて職場の駐輪場をすり抜け中心街のアーケードに繋がる裏通りに出た。少し寒い。模型屋で暖をとってから家に帰ろう。老舗旅館の板塀を越えて逃げてきた、赤や茶色の落ち葉が五、六枚、鬼ごっこをするかのようにクルクルと足元に遊んだ。
職場の近くには地方銀行の駐車場があり、併設された屋根付きの駐輪場に高校生と思しき男の子が、自転車にまたがったままタバコに火を点けようと、百円ライターの点火ホイルをカシャカシャ弾きながら、咥えたタバコの先に当てがっていた。
… こいつ制服のままでタバコなんか咥えやがって…
歩みを進めながらも視線が合うまで睨みつけ、そいつに昔の自分を重ねた。点火に成功したものの、眼を合わそうとしなかった。
たかだか高校生、かわいいもんよ。
アーケード街は夕暮れどきにもかかわらず、人影はまばらだった。歳も暮れようというのに、クリスマスソングだけが活気を取り戻そうと、やかましくスピーカーから流れていた。
ジングルベルが遠ざかり、模型屋のショーウィンドウが目に入ってきた。
相変わらずの面々が薄いホコリをかぶり、新参者との交代を待ち望んでいたが、中々現れなかった。
空で言える程見飽きた戦車やロボットに一べつを加え、店の入り口に手を掛けようとした時、自動ドアよろしくさっと中から開き、制服姿の男の子が突っ立つ私の横を滑り抜けていこうと、かがみながら出ていった。
制服のボタンは外され、模型の箱を胸に詰めていた。
何かおかしい!
そうだ!包装してないもの持ってる!
儀式が済んでない!!!
開けっ放しの引き戸越しに半身を店内に突っ込み、新聞に顔を埋める呑気な店番に声を掛けた!
「おばちゃん!今の男ん子に、模型売ったと?裸んまんまん箱ば持っとったばい!」
老眼鏡にシニアグラスを嵌めた三倍に見える黒まなこが、事の大事に五倍に拡大して見えた。
「なんて!何も売っとらんばい!」
売っとらんばいの“ う ”を聞くや否や反転し、男の子の背中を追った。
走り出した私の気配を感じたのか、一瞬振り返った男の子も走り始めた。今だ模型は胸に突っ込んだまま。
舐めんなよ!元ラガーマンを!
模型を必死に隠しながらのぎこちない走り方の男の子を、ズンズンと追いかける。
あと10ヤード!アーケード街にチラシしか持ちあわせない偽サンタクロースをサイドテップで交わし、もう2ヤードで追いつく!ダッシュ、ダッシュ、ラッシング!百貨店跡地のコインパーキング横でスマザータックル(ラグビーのタックルの技法のひとつ。ボールごと羽交い締めにしてパスも走る事もできなくする)をかませ、サビだらけの金網に男の子を押し付け、逃げるのを諦めさせた。
ガシャンと金網が軋む音に、フーっと煙を吐きながら火の着いたままのタバコを投げ捨て、慌てて自転車を漕ぎ出す 不良野郎が遠く目に入った。
グルか!
「なんか こら!買うてきたもんや?」
ハアハア息があがる男の子を押し付けたまま、模型の箱を引き剥がした。元ラガーの一撃で、無敵のアニメロボットの箱絵は無惨にも破壊されひしゃげていた。
黙ったままの男の子の腕を掴み、店の方に連れていこうとした。
向こうからは、歩く速度で走るかっこうばかりの、店番失格者がさすがに真っ青になりながら、近づいてきた。
「 慎ちゃん(仮名)、なんばしよっと!
話しばするけん、店にもどんなっせ!」
店番失格者は取り消そう。客としての男の子の名前を覚えていた。しかもちゃん付けで呼んだ。
三人、黙ったまま走った逆の方向にゆっくり歩いていった。チラシを渡そうとするサンタを尻目に。
幸い店には他の客はおらず、三人戻ったところで、寒さに震えるふたつ星の入った路上看板も店内に引き入れ、臨時閉店となった。
もぬけの殻になった店を店主が出て来て番はしてはいるが、名残おしそうに居間のテレビをドアを半開きにして観ていた。
( おじちゃん、もう印籠はかざされたんだろう?やっつけなきゃいけない奴、しょっ引いてきたんだから!テレビはあとで!)
万引きに遭遇し、しかも捕まえた興奮状態の私と対照的に、穏やかに話かける店主。
百戦錬磨、 慣れたもんである。ニコニコしながら
「なんしたんねえ。慎ちゃん。」
店主もその黙り込む男の子を知っていた。常連らしい。私も店で見掛けたような、いないような。ワーワー騒ぐような子は目にも付く鼻もつくが、静かな子は印象に残り辛い。
店番合格者は店主の横をすり抜け、ほどなく熱いインスタントコーヒーを四杯用意した。私もこの場にいても良いと。
「ゴメンなさい。僕、お金はらいます。その模型買います。」
震える声を絞り出し、裏返しの包装紙の上に置かれた人間に負けたアニメロボットを引き取ると意思表示した。
店番だけが座れるスチル製の丸椅子を売り場に出し 慎ちゃんを座らせ、私は地袋に腰掛け熱いコーヒーを手渡され、興奮を収めようと深呼吸を繰り返した。
「 なんてや?金ば…」
「まあまあまあ」
店主が私の言葉を遮った。
「慎ちゃん、初めてねぇ。こぎゃんこつすっと。(こういったことをするのは)
こまか頃から来てもろて、今日はなんしたと?訳ば聴かせてくれんね。」
沈黙が数分……続いた。ジングルベルが遠くかすかに聞こえた。
慎ちゃんはポロポロと涙をながしながら、やっと事の真相を語り出した。
「 万引きしてこいと、小島(仮名)に命令されたと。 お金払えばおばちゃんたちは綺麗に包んでくれるでしょ。でもあいつ、はだかのまんまの箱ば持って出てくっとば見とっとたい。」
自転車で逃げたひとりを確かに見た事を、並んで座るおばちゃんに耳打ちした。うんと頷き、阿吽の呼吸でおじちゃんに伝わった。
陰湿なイジメにあっている。かわいそうに。
頭ごなしに叱ろうとした自分が、恥ずかくなった。
「 小島君は、連絡とるるかい?ここに来てもらわんばん。」
店主の眉がつりあがった。ぬるくなったコーヒーを飲み干し、初めてみるキツい形相に変わった。
印籠をつきつける相手は、ここには居なかった。
………………………………………
不良少年は現れるのか!
店主が下したお裁きは!
次回に続く…。
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