LONDON DIARY

ロンドン在住フローリスト、asuka のブログ。

さよなら The Garden

2010-10-21 23:38:38 | flower

7月の終わり、産休に入る前日、最後に作ったブーケ。
同じ会社の(フード部門)同僚の為のウエディングブーケ。
うちの店の花は、常に白い花のみで、それに様々なグリーンやハーブなどを添えてあることが多く
まさにこれぞ、"The Daylesford"という感じのブーケ。

最後の日に、心を込めてこのブーケを作らせてもらえたこと、本当に光栄だった。
今まで、星の数ほど(大袈裟?)のブーケを作ってきたけれど、
その中でも、いくつか忘れられないブーケというものがあるものだ。

そしてこれは、私のDaylesdordでの、本当に最後のブーケとなってしまった。
というのも、8月に店自体が閉店し、ついに幻の店となってしまったから。

そもそも、7月の終わりには産休に入ることにになっていたし
1年後に復帰するつもりはあまりなかったのだけれど、
それでも、産休に入る1週間前に、突然閉店の知らせを受けて、正直とても寂しくなってしまった。



この店を初めて訪れた時、一目で惚れ込んでしまい、思わず「働きたいんですけど、空きはないですか?」とその場で聞いてしまった私。私も私だけど、それを聞いて、特に募集もしていなかったのに、私の話を熱心に聞いてくれて、ポートフォリオを送ったその日に、インタビューの約束をしてくれた当時のマネージャーJ氏。

そして、その最初のインタビューで、かなりの時間をかけて、店の話をしてくれたJ氏。
この店で、これから何をしたいのか、何故この店が好きなのか、それにはどんな人が必要なのか…。
仕事のインタビューに行って、そんな話を1時間以上も延々されたことは初めてだった。
そんな彼女の情熱に私もつい熱くなり、興奮気味で、うんうん、と頷いて、夢を膨らませていった。
娘の学校の迎えの時間が来なかったら、きっと何時まででもそんな話をしていたに違いない。
それくらい、店のコンセプトへの共感は強かった。

だから、トライアルデー(一日実際に働いてみて、スタッフとして正式に雇われるかどうかが決まる。言わばテストのようなもの)に無事にパスして、この仕事が決まった時は、最初の店の仕事が決まった時と、同じくらいうれしかったものだ。



この店のスタッフはとにかく細かい。
とにかく、美しくないものは、店で使ってはならない。
例えば花がオランダや国内の市場から運ばれてくる時、プラスチックのバケツや箱に入っているものなのだが、そういうものは、数分たりとも店頭に置いておく事は許されない。
「物を置く時には、常にどうしたら一番美しく見えるか考えて…」店員全員の口癖だった。
これは、花を美しく生ける云々以前の問題。
だけど、こういったことすべてが、創るものの美しさにも反映する。



それと、もうひとつ、私が他の店と違うと思ったことは、
花材、プランツ、すべてのものを、大切に、大切に扱っていること。
もちろんどこの店にもそういう人はいると思うけれど…。
花を売り物として扱うだけでなく、生き物として扱っている、そんな店だった。



そもそも、うちの会社はオーガニックの食材や食品を売るのがメイン。
あくまでも、オーガニックフードの会社。
Gloucestershireの田舎で、最初は自分の家族の為に安全な食品を作ることから始めた農場、そこからビジネスを拡大していって、今の、何でも揃うオーガニックショップに発展していったのだった。
そしてそのオーガニックライフを、都会のロンドンの暮らしにも…ということで、
まずは食品の店舗がオープンして、その後に、花やプランツ、長く使えるクオリティーの高い雑貨を扱う"The Garden"がオープンする運びとなったらしい。
店全体は、カントリー風のようで、それでいて、田舎を歩いて探してもどこにもないような、徹底したテイストで統一されている。~風、というのは好きではないし、そんな風に括ってしまうと陳腐になってしまうから、そもそもそんな定義をするのはおかしいのだけれど…。



だから、私も、店に置かれているアンティークの家具や雑貨ひとつひとつにもとても思い入れがあり、毎日掃除をして、並べているうちに、自分の物のように錯覚してしまうくらいのものもあったくらいだ。
それでも、もともとあまり細かくない性格の私は、ちょっとしたことで同僚によく注意されたものだったけれど…。言われ続けた割には、まだまだ全然ダメな私…。性格的な問題なのか…。つくづく、花の仕事には向いていないのだなあ…と落ち込むこともあったけれど、それでも、続けてこられたのは、そんな直向で徹底した完璧主義の同僚に、少しでも近づきたい、私もいつか、あんな風になりたいな、という思いがあったから。
そんな風に思わせてくれた同僚、特にM氏には、本当に感謝している。彼と仕事をしながら、花の話をすると、いつも盛り上がって止まらなくなるのだった。(でも彼はテキパキと次々に仕事をこなす、その辺が私と違うんだなあ…)


これがM氏。真剣な眼差し。

店を閉めるに当たって、本当に多くのお客さんが惜しんでくれて、中には泣き出すような人もいた。
実際うちの店は、わざわざ見る為に遠くからやってくる人も少なくなく、かなりの人に、この上ないお褒めの言葉を頂いた。でも、実際に店として続けていけるかというと、それは全く別な話…。
私が好きだなと思うものは、大体あまりお金にならない、ビジネスとしては大成しないことばかり…。
何故なんだろう…。経済などに全く疎い私にとって、その問いはいくら考えても答えは出ず…
それでも、まあいいか…なるようになる!と大雑把に考えてしまう、楽観的な性格の私…。

心を込めて、人の為に美しい花を作る、そんな仕事を続けていくことができたら、それで良い。
そんな思いは、大好きなDaylesfordがなくなっても、この店を通して私の中刻まれた、大切な思い。

この仕事を通じて出会ったすべての人々に、感謝して…。
ありがとう。さようなら。








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