ずっとずっと、行きたいと思っていた庭に、ついに行ってきた。
「プロスペクトコテージ」と呼ばれるこの小さな一軒家とその庭は、
映画監督、画家、そして舞台デザイナーであったデレク・ジャーマンが、晩年の7年間を過ごした場所である。
"derek jarman's garden"という本は日本語訳も出版されており、日本でも結構知られているとかと思われるが、10年以上前に初めてその本に出会った時から、その独特の世界に引き込まれていった。他のどんな庭にもない、何か、魂のようなものが宿っている庭。それでいて、とても平穏で、温かさが感じられる庭。
プロスペクトコテージのあるダンジェネスという町は、我が家が近年海水浴に行くビーチ、Camberから車で20分ほど。原子力発電所にかなり近いせいか、殺風景な野原が広がる中に、同じような小さな家(といってもうちよりは大きいけれど…)が並ぶ道がある。元々は漁師の住居であったらしい。
こんな場所は他にあるだろうか。映画のワンシーンのよう。
HIV感染が発覚した翌年にこのコテージを購入し、移り住んだ彼は、この何もない不毛の地の、荒涼と静けさを愛した。海辺を散歩して拾ってきた石を並べることに喜びを覚え、この地に育つ草花を見つけては植えていった。
錆びたオブジェとシルバーグレイの絶妙な色合い。
デレク・ジャーマンの庭に多く見られるSea Kale。
こういうところに、生き物が宿っているような気がする。
多肉植物の鉢植え
私たちが着いたのはお昼頃。プロスペクトコテージには現在もちゃんと住人がいて(親戚なのだろうか?)庭に出て、手入れをする姿も見受けられた。看板も何もなく、ただその存在を知る人が、勝手に訪れては、少し遠慮がちに遠巻きに庭を見て行く。観光バスが来るほど混み合うことはなさそうだが、それでも私たちがいる間、人が途切れることはなかった。そんな中で普通に暮らしている人にとって、我々のような見物客は、やはり迷惑なのだろう。それでもこうして、この庭を見せてもらえるのは、申し訳ないけれど嬉しい。家主の寛大さに感謝して、なるべく邪魔にならないように、そっと訪れたいものだ。おそらく家主も、この自然体の姿を守りたくて、敢えて何もしないし、何も言わないのではないだろうか。デレク・ジャーマン本人が生きていた姿、そのままに…。
壁に書かれたデレク・ジャーマンの詩。
植物のうねるような生え方がまた生物を連想させる。
このような山がいくつもあった。
家の裏側。表も良いけれど、裏が凄い!
デレク・ジャーマンの庭のポストコードは、結構見つけるのに苦労したので、
こちらに載せておきます。
TN29 9NE
ここを訪れたのは8月の終わり、もう一月近く前。
ちょうど夏が終わり、秋の気配がする頃だった。
今行ったらまた違って見えるのだろうか。
あそこでは、今日もあの住人が庭の手入れをしていることでしょう。
あんな土地に、生き続ける庭を残した、それだけでも偉業だ。
庭を造ることの喜びが、至る所に感じられる、生きている庭。
私のかなりの期待を裏切らない、それ以上に良い庭でした。