LONDON DIARY

ロンドン在住フローリスト、asuka のブログ。

Jane Packer

2011-11-23 23:17:14 | flower


才能ある人の短命は宿命なのだろうか。
11月9日、ジェーン・パッカーさんが亡くなった。

イギリスの、いや、世界のフラワー業界の発展に、近年これほどまでに貢献した人は
他にいないのではなかろうか。誰が見ても「Queen of Flower」だったとは、花市場の老舗問屋の店主の言葉。

思えば、私の花人生も、すべてジェーンの店からスタートした。
もう、かれこれ10年以上も前のこと。レジスターオフィスでの小さな結婚式に相応しい、季節を感じられる花を、との注文に私の大好きな小振りのチューリップだけの、さり気ないウエディングブーケを提案してくれた。

その後、ジェーンパッカーフラワースクールで、花の基礎から一通りを学び、ワークエクスペリエンスを経て、ジェーンの店で働くようになった時、最初のミーティングで、ジェーンから言われた言葉。
「この店には、世界中から、わざわざ足を運んでくれるお客さんが毎日来ているの。その一人として、がっかりさせてはならないわ。毎日、最高の店であり続けなくては。」

セルフリッジズの支店にいた私には、毎日ジェーンと顔を合わせる機会はなかったが、多忙な割には、よく店に立ち寄り、店のディスプレイやブーケについて、細かく確認していた。初めてブーケを褒めてもらった時、どんなに嬉しかったことか。

店のディスプレイを一緒にしていた時のこと、使いたいスペースがあり、セルフリッジズ側に交渉してみたがダメと言われた。ほんの僅か、店の通常スペースからはみ出してしまう程度のことだったのだが、ジェーンは迷わず、「あなた明日の朝早く来れる?誰も来ないうちにやってしまいましょう!」と一言。本当に誰もいないデパートの店内で待ち合わせた翌朝、「開店前の店内に入れるって、何か優越感がない?なんかワクワクするわね」などと言い、魔法瓶に入れてきた自前のコーヒーを注いでくれた。その時思ったものだ。ああ、この人は何でも楽しめる人なのだ。それから、やると決めたことは、絶対にやる、という強い意志があるのだ、と。

なぜ、ジェーンの花が好きなのか。
それは、一口にはうまく言い表せないけれど、
何より、花が好き、という気持ちが伝わってくるからだと思う。
これは、彼女の本からも感じ取れること。

ジェーンの生ける花には、ちょっとコーディネートが上手な、新手のフラワーデザイナーたちとは、明らかに違う、花への”敬意”のようなものが表れているのだ。
僅か13才の頃から花屋でアルバイトを始め、お給料をもらっては花代にしていたというのは有名な話であるが、長年花と向き合い、花を知り尽くしている人の作り出すものには、無理がない。例えば、バラの花の頭だけを揃えて生けるような生け方も、最初は、「茎の長いバラをこんなに切るのは勿体無い、不自然なのでは」などと思ったこともあったが、実際にやってみると、バラも長持ちするし、何と言っても、華やかな花の特徴が最大限に生かされている。彼女の生み出したスタイルは、斬新でありながら、自然に花が美しく見えるものばかりなのだ。

同系色使い、”グルーピング”(同じ種類の花材をまとめて使う)、この二つは、典型的なジェーンパッカースタイルと言われているが、どちらにも、美しい花をより美しく見せたいという気持ちが原点にある。同じものばかり一緒にまとめるのは、一見不自然なようで、実はとても自然。「庭に生えている植物も、バラバラではなくて、大体同じものは同じ場所にまとまっているものでしょう」という理由。ある程度まとまっていた方が、花が生き生きと見えるような気がする。

フルーツをや羽根など、オブジェを組み合わせた、一見奇抜なアレンジも、けして奇抜に見えないのは、ひとつひとつのものがエレガントに調和しているからなのだ。だから、他のデザイナーが、いくらスタイルだけを真似しようとしても、同じクオリティーには仕上がらない。新しいスタイルを生み出すと、瞬く間にコピーをした作品が出回る。でも、本物のクリエイターであったジェーンは、そんなことは、ものともせずに、堂々と新しいスタイルを作り続けていった。

他にも思い出を語ろうとすれば限がない。もちろん私はジェーンの店にいた頃はまだまだ駆け出し(今でもそんなに変わっていないかな?)で、たくさんのスタッフを抱えて世界中を飛び回っていた彼女にしてみれば、私とのそんな一つ一つのやり取りなど、取るに足りないことだったと思う。

でも私にとっては、彼女から教わったことは大きかった。

いつかまた、ジェーンと共に働きたいと思っていた、その願いはもう二度と叶うことはなくなってしまった。とても残念なことだけれど、仕方がない。

ジェーンさん、私が花を生ける時、いつも心の片隅に、あなたがいます。
どうぞ安らかにお眠り下さい。