4月29日~5月2日まで、奥穂高岳の南稜へ登攀縦走に行ってきた。
ワタシはこの計画を一年前から今年のG.Wに挑戦しようと考えていた。
この南稜は、岳沢をベースにして出来るだけ軽身で登攀するのが一般的。
でも私たちはあえて縦走スタイルを選択する。
そのため生活道具一式を担いでの登攀挑戦なので技術・体力ともにグレードはアップ。
出発前、ワタシは南稜縦走成功のため念入りにルートを下調べして頭に叩き込む。
そして、いっぱいの期待と少しの不安で心地よい緊張感を持って本番当日を迎える。
新島々に着くと桜がちょうど満開だった。
この日の気温22℃、これから雪山にいくなんて想像出来ないくらい暖かい。
ここからバスに乗換えて、上高地まで約1時間。
上高地には11時過ぎに到着。河童橋から見るこの光景、いつの季節に来ても立ち止まって
見入ってしまう。そして、あぁ今年もここに帰ってきたぞ、と思う。
観光客で賑わう上高地からほんの少し離れると、もう誰もいない。
岳沢への登山口は雪はまったくなく、まだ春の匂いだ。
岳沢小屋は、営業しているとのことだったが幕営・水・トイレのみ。
14時半に岳沢小屋に到着。登山口からは2時間半で登ってきた。
小屋に着く頃には空に雲がかかりだした。
テント数は少なく、人の気配もほとんどない。少し寂しくなるくらい静かだった。
早速、テント設営してから明日に備えて南稜取付きまで下見に行くことにする。
下見を済ませてテントに戻る。テン場からは焼岳、乗鞍岳が眺望できる。
景色を楽しみながら、お酒をチビチビやり始め今夜の夕食作り。今夜はちゃんぽん鍋だ。
鍋の具材はもちろんペミカンで持参。明日からの食事は軽量化の為フリーズドライになる。
だから今夜はしっかり栄養補給して明日に備える。
と、気合いは充分だが、かなり緊張していたワタシはお酒が入ってもいつものように陽気になれない。
3時起床、5時15分出発。この日の天気予報は曇りのち晴れ。
太陽は出ていないが風が無いので寒くはない。
前日に下見しておいたので取付きまでスムーズに行き、5時50分到着。
先行には1パーティ二人組のみ。あとは私たち二人で、他には誰も居ない。
G・W前半だと、こんなに空いているものなのか・・・混雑するよりはいいが。
先行パーティより100メートル程下の雪壁から取付く。
草付や露岩のあるルートより雪上の方が登りやすいと見たからだ。
トレースのない急登を延々と登る。早朝でまだ雪が締まっており、キックステップがよく効く。
ここの登りは、先月大猫山縦走の時にK氏が歩き方・ピッケルの使い方を教えて頂いたその成果を
発揮することが出来た。
後続に単独で登ってくる人が見えた。
南稜をソロで行くの・・・?大丈夫なのかなぁ、と思いつつも先を進む。
途中で、前日のパーティのトレースと思しき箇所と合流しさらに登り詰めていくと
ほぼ直角に近い雪壁のトラバースにぶち当たる。
「何か様子が違う。こんなトラバース、調べたルートにはなかった・・・」
どうも雪庇の下側に周りこんだようだ。
今さら間違ったと分かっても、もうここまで来たら引き返せない、前進あるのみ。
オーバーハングした雪面と足幅20cmもあるだろうかという箇所までやってきた。
ここで、先行パーティがロープを出して向こうへトラバースしようとしていたがかなり難しそうだ。
しばらくして、後続の単独の方も到着するがここから先は一向に進まない。
足が自由に動かせるスペースもなく、じっとして待つしかない。
先行パーティの通過を待って、私たちの順番が回ってきた。
1時間じっとしていたので足が寒さで思うように動かない。
それでも、トップのリーダーをビレイするためロープを掛けたピッケルを
足元に埋め込み体重を掛ける。
ロープ半分で、ビレイ解除の声。さぁ、ワタシの番である。
雪壁にピッケルを差し込み、足元を一歩ずつ確実に歩ませながら
前に進む。と、あと少しという地点で足場がない。右側は切れ落ちている。
「木に掴まって思いっきりジャンプ!」と指示され、迷っているヒマもないので
ヤケクソ気味で跳んだ。ハイマツの極小テラスに無事着地したが安心している場合ではない。
この雪壁トラバースで約2時間弱のタイムロスなのだ。休憩する間もなく先を進む。
ふと、この時ワタシは後続の単独者が気になった。独りでここを渡りきれるのだろうか。
一緒にロープ繋いで行きませんかと声を掛けるべきだったかな・・・
先行パーティの方々により雪庇を掘り乗越し、11時トリコニー基部に到着。
トリコニーが南稜の核心であるが、もう先程のトラバースで充分に核心部を到達した感であった。
時間が遅くなったが、この日は幸い曇っていて雪がまだそれほど腐ることなくよかった。
最初の岩峰は3ピッチⅡ級であるが、岩が思っていたより脆くて
少し緊張させられた。身体がすっぽり入ってしまう岩の間を抜ける。
登り詰めていくと今度は中央峰へトラバースである。中央峰は、見た目よりはやさしくスムーズに登攀。
岩上まで来ると雪稜へ続くナイフリッジを進む。雪が崩れないように、慎重に進む。
ナイフリッジを通過して雪稜を進み、今度は急な雪壁だ。この時、14時30分。
ワタシは、まったくゴールが見えないこの登攀に、緊張を持続し続けることにかなり疲れていた。
また、そんな緊張感のためか、休憩なしで何も食べていなかったが空腹を感じなかった。
雪壁最後はコンテで登り続ける。ふと、先の方に奥穂高山頂の祠が小さく見えるではないか!
その稜線の右手には、南稜の頭と標識が雪に埋もれて半分姿を現している。
今度こそもうすぐゴールだぞと思うと、疲れも忘れ一気に登りきる。
15時17分、南稜の頭到着。ここまで、なんて長かったことか・・・
ここで、僅か5分程だが今日初めて休憩をとった。
15時47分、やっと奥穂高岳3,190m山頂に到着する。
今まで何度もこの頂上を踏んでいるが、この日ほど感動したことはないだろう。
長く長く遠い道のりだった奥穂高岳南稜も、二人の目標通り無事に到達することが出来た。
誰もいない山頂の祠の前で手を合わせてから、穂高山荘へと降りる。
前方に鋭く尖った穂先を持つ槍ヶ岳が、今度はこっちにもおいでよと言われているような気がした。
気の早いワタシは、そのとき早くも来春の目標を決めたのだった。
穂高山荘までの下りは、2箇所ロープを使い17時10分に到着。約12時間の山行であった。
その約1時間後、気にしていた後続の単独の方が到着。
声を掛けると、なんでもあのトラバースで200m滑落して、背中のザックがクッションになり命拾いしたとか。
ケガがなくて本当に良かった。
今回、私たちが登攀したルート。また次回登るときに参考にしたい。
因みに、トリコニーとは、登山靴の底に打つ鋲のこと。
ゴムのビブラムソールが出現するまでは、皮の靴底に鋲を打っていたそうな。
帰宅後、あんなに苦労して登った南稜が、すっかり楽しい思い出となり数日後には早く
山に帰りたい!と言っている。
そうやって、また目標を立ててずっと山を登り続けていこう!
それでも無事完登された由、おめでとうございます。荷物が重かった分だけ価値の高い完登です。写真を見ると、らいちょうのあしをきちんと振り上げ蹴り込んでいるようなので、頼もしく思いました。
ところで、当方は越後の山の縦走に行ってきました。28日から1日までだから、雷鳥ご夫妻より1日だけ早かったようです。
有名な苗場山から魚野川の上流をぐるっと回って三国峠まで行く計画でしたが、今年はグズグズの雪が大量に積もっていて、なかなか厄介で、予定の2/3ほど進んだ白砂山から、上州側の野反湖に下山しました。麓の山上集落の桜が満開でした。
奥穂頂上で、「そのとき早くも来春の目標を決めた」ってありますが、なるほど、そういうつもりですか。健闘を祈ります。
すごい!としか言いようがないですわ(>_<)
でも今回はいつもよりハラハラしながら読みました!
写真も高くて怖い場所ばかりや~ッ!!
単独の方も無事でよかったですね。
らいちょうさんのブログは私の未知の
山の世界をいろいろと教えてくれるので
読んでいて面白いです♪
ちゃんと登れたのは本当にK氏の指導があってこそ!です。
いつもご指導、ありがとうございます。
越後の山に行かれたとのことですが雪の状態が悪かったのですね。
残雪期の縦走は、毎年のことながら難しさを感じます。
天候によっては、真夏並に暑かったり急に雪が降ったり、夜は零下まで冷え込んだり・・・
いろんなパターンに一気に応じないといけない。今回、私たちが悩んだのはシュラフです。
夏用は軽いが寒い。冬用は重いが暖かい。
結局、春秋用の中間モノを購入しましたが。
これで、また縦走登攀が楽しめそうです。
見て下さ~い。一度行ったらやみつきになりますよ。
今週末は、晴れみたいですね!
新緑の山行を楽しんできてくださいね。