風が鼻先に海の匂いを運んできた。
「海の匂いがする」
少年は緊張に耐えられなくなり、声に出した。
そして、そのことが恥ずかしくなり、身体を竦ませた。
少年は目の前で岩のように動かない父の背中に
顔をこすりつけたくなったが、我慢した。
四方を山に囲まれた村の外れにある芋畑を
天空に上った満月がサーチライトのように
明るく照らしていた。
猟犬のジャックは父の隣でいつでも飛び出せる体勢で
合図を待っていた。彼は父が待てと言ったら、死ぬまで
同じ体勢で待つ忠実な猟犬だった。
ジャックが低いうなり声を立てた。
父が猟銃を構えた。銃口の前方50メートルに標的が現れた。
芋の味を知ってしまった猪は、身の危険を冒してまで山を降りてくる。
河豚の肝を食うのと一緒だと父が言ったことがある。
母に止められても、父は河豚をさばいてしびれると言いながら肝を食べた。
耳たぶがカッと熱くなった。心臓の鼓動がドラムロールのように
早うちを始めた。ジャックが飛び出そうとするのを父が止めた。
父が猟銃を膝に下ろした。
月明かりを浴びて小さな瓜子たちが芋畑で飛び跳ねていた。
母猪が掘り起こした芋を取り合って遊ぶ姿は、絵本の中の出来事のようだった。
父が再び銃を構えた。少年は目を閉じた。
銃声がほうき星のように長く夜空に轟いた。
少年が目を開けると、芋畑に標的はいなかった。
父の銃口は天空の月に向かっていた。
「海の匂いがする」
少年は緊張に耐えられなくなり、声に出した。
そして、そのことが恥ずかしくなり、身体を竦ませた。
少年は目の前で岩のように動かない父の背中に
顔をこすりつけたくなったが、我慢した。
四方を山に囲まれた村の外れにある芋畑を
天空に上った満月がサーチライトのように
明るく照らしていた。
猟犬のジャックは父の隣でいつでも飛び出せる体勢で
合図を待っていた。彼は父が待てと言ったら、死ぬまで
同じ体勢で待つ忠実な猟犬だった。
ジャックが低いうなり声を立てた。
父が猟銃を構えた。銃口の前方50メートルに標的が現れた。
芋の味を知ってしまった猪は、身の危険を冒してまで山を降りてくる。
河豚の肝を食うのと一緒だと父が言ったことがある。
母に止められても、父は河豚をさばいてしびれると言いながら肝を食べた。
耳たぶがカッと熱くなった。心臓の鼓動がドラムロールのように
早うちを始めた。ジャックが飛び出そうとするのを父が止めた。
父が猟銃を膝に下ろした。
月明かりを浴びて小さな瓜子たちが芋畑で飛び跳ねていた。
母猪が掘り起こした芋を取り合って遊ぶ姿は、絵本の中の出来事のようだった。
父が再び銃を構えた。少年は目を閉じた。
銃声がほうき星のように長く夜空に轟いた。
少年が目を開けると、芋畑に標的はいなかった。
父の銃口は天空の月に向かっていた。