金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【米国シリコンバレー銀行破綻】 粘着性の乏しい銀行預金 金利上昇程度の要因で破綻とは⁉

2023-03-15 04:49:05 | 金融マーケット

 先週末から、米国シリコンバレー銀行の破綻によって、内外の株式市場に影響が出ています。今回のシリコンバレー銀行の破綻は、今までにないタイプの破綻であると言えると思います。

 

 まず一般論から、銀行が破綻する原因について考えてみましょう。銀行とは、個人や企業の預金口座を作って貰い、ここで資金を集めて、その資金で預金金利を上回る資金運用を実行することで『利鞘』を生み、利益を出す商売です。

 一般的な商業銀行(全国銀行や地方銀行)では、多くの個人が資金決済口座として利用していることから、ちょっとした変動要因くらいでは、例えば金利上昇程度の理由で、口座を解約したり、預金を大量に引き出すことはありません。むしろ、金利が上昇すれば、預金金利も上がってくれて、少しは助かると考える人が殆どです。

 しかし、このシリコンバレー銀行の預金者の大半は、シリコンバレーで起業する新興企業が殆どでした。個人の口座は、全体の10%程度しか無かったとのこと。まず、この点が通常の銀行とは異なり、『預金口座の粘着性』=『顧客のロイヤリティ』が異常に低い体質だったことが言えます。

 さらに、集めた資金の運用と言えば、例えば、粘着性の高い個人預金の資金であれば、住宅ローン融資などの長期貸出で、相応の利鞘が取れる資金運用を混ぜながら、利益を確保するのが普通です。しかし、このシリコンバレー銀行は、住宅ローンを出すための審査体制や住宅販売会社との連携にコストを掛けるよりも、もっと単純な債券運用によるマーケットでの資金運用を選択していました。確かに、預金粘着性がない資金ですから、万が一の場合、すぐにキャッシュ化しやすい債券運用の方が、合理的と言えば合理的であります。

 

 今回、何が起きたかと言えば、昨年後半からのFRBによる急激な金利上昇によって、シリコンバレー銀行が保有している債券価格が急落しているとの懸念が広がって、預金口座を開設していたシリコンバレーの新興企業が、こぞって資金を引き揚げてしまいました。これにより、資金繰りがつかなくなり、破綻したという結末。

 まだ詳細は分かっていませんが、それならば、保有する債券を売却して現金化し、預金引き出しに対応すれば良いと思いますが、それが出来なかったところを見ると、債券価格の下落が大きすぎて、債務超過になっていたと思われます。なお、銀行界の常識として、不良債権で破綻する銀行はあっても、金利上昇で潰れる銀行は存在しない、と言われてきました。それが現実に発生してしまったようです。

 ちなみに、中期債や長期債など、米国の債券価格が最も下がったのは昨年の11月から12月にかけてですから、バランスシートが最も痛んでいたのは、むしろ昨年末の時期のはずです。しかし、昨年末の段階の四半期決算報告書では、『債務超過』にはなっていないとのディスクローズ=会計開示が為されているようです。

 

 こうなると、何だか、会計上の不正も匂ってくる気が致します。金融機関の体質としては、顧客基盤が弱い=預金粘着性が弱いということが言えますが、実際の問題は、もっと他にあるのかもしれません。

 シリコンバレー銀行以外にも、ネット系の金融機関や、少額決済に特化した金融機関は、世界中に数多く存在する時代になっています。これらの金融機関は、平常時は問題が起きませんが、ちょっとした変化や変動に対して、経営基盤が脆く壊れやすい体質が隠れているように感じます。

 

 このあたり、伝統的な商業銀行との一番の違いですと言ったら、言い過ぎになるのでしょうかね。

 


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