金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【世界の半導体サプライチェーン】 これを見ると、米中関係の本質が見えてくる⁉

2022-11-22 05:43:31 | 金融マーケット

 東北大学の遠藤哲郎教授のお話を聞く機会がありました。遠藤教授は「国際集積エレクトロニクス研究開発センター」のセンター長も兼務されており、云わば、日本における半導体研究・開発の第一人者でいらっしゃいます。

 ちなみに、2018年の統計ですが、世界の半導体市場は約54兆円という規模。メモリーが18兆円ロジックが21兆円、そしてその他(パワー半導体とかイメージセンサーなど)が15兆円。半導体が重要なのは、その市場規模だけでなくて、これがないと、パソコンやスマホはもちろん、車も飛行機も、ミサイルも地対空バズーカも作れなくなります上に、使えなくなるということ。まぁ、人間のすべての生活基盤を支える存在なので、何が無くても『まず半導体』と言われる所以であります。

 

 遠藤教授のお話を、ワタクシなりに、判りやすくアレンジして纏めると以下のとおり。

 歴史を紐解くと、今から30年前には『日米半導体摩擦』なるテーマがございました。半導体メモリーのマーケットで日本製品が世界シェア50%を超えてしまい、これをアメリカの保守派が問題視。日本製品のシェアを、20%以下に抑えるよう圧力をかけてきた事件結局、日本はアメリカの言いなりになって、その後の半導体供給において、日本製品のシェアはどんどん下がっていき、今では半導体全体の7%程度まで下がっております。

 ちなみに、この時の日本は、半導体メモリーを最終的に組み立てる分野を外国に譲ることとして、そのかわり、半導体材料を作る分野と、半導体を作る装置分野については、その優位性を譲らないようにしました。結果、今でも半導体装置・半導体材料の分野ではアメリカと並んで世界トップの技術とシェアを維持しています。ただし、最終的にメモリーを組み立てて製品として供給しているトップ企業は韓国のSAMSUNGであり、またロジック半導体のトップ企業は米国Intelということになります。云わば、名を捨てて実を維持する、という選択をした訳です。

 ところで、数年前に、故安倍首相時代に、日本から韓国へ、半導体材料と半導体装置の輸出を止めた事件がありました。当時の報道では、慰安婦問題への報復などと伝えられていましたが、実際は、さにあらず。あの頃、文政権時代の韓国が日本から輸入した半導体材料と半導体装置を、自国生産に使うだけでなく、そのまま中国に横流ししていた疑惑があって、そのために取った措置、というのが真相のようです。このように、半導体メモリーの組立て自体は、韓国や中国でも出来ますが、その材料や生産装置は作れないので、日本やアメリカを頼らないといけないという図式があります。

 

 ところが、そんな図式に大きな変化が起こります。ロジック半導体分野で、これまで1強体制を維持してきた米国Intel社が、投資計画の失敗により、次世代のロジック半導体の中心となる10nm以下の分野で、世界シェアの90%以上を台湾のTSMC社に握られてしまったのです。ちなみに、この分野のロジック半導体が手に入らないと、アメリカはステルス戦闘機F35の生産が止まってしまうことになります。

 同じく、ステルス戦闘機の開発を進めている中国にとっても事情は同じ。台湾のTSMC社に半導体生産を委託しないとステルス戦闘機が作れない。習近平総書記が『台湾統一』を核心的利益として第一に掲げる理由もここにあるとのこと。そして、アメリカのバイデン大統領が『台湾の独立維持』を絶対的使命として掲げる理由も同じ。

 

 米中間の激しい罵り合いの裏に、こんな半導体供給の事情があったとは・・。まぁ、判りやすいと言えば、判りやすいですけどね。また、ミサイルの打ち合いとかしてしまって、半導体工場を破壊してしまったら元も子もないですから、具体的に激しい空爆戦や陸戦などは、あまり現実味がないことも判りました。これは安心材料であります。

 

 ところで、遠藤教授のお話で一番大事だったのは、この半導体の電力使用量は、今後の技術革新によって、1/100とか、1/1000にすることが可能であり、このことが半導体以外の全てのエネルギー消費にも大きな影響を与えるので、カーボンニュートラルと言えば、一丁目一番地は、この半導体技術開発にあり、とのこと。

 そして、その開発の最前線は日本の技術がリードしているそうなので、ここの分野への投資をケチっては損だそうです。

 

 大変、勉強になるお話でありました。


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