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『東京ヒゴロ』
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2021年09月11日 11時06分22秒
このエントリーを書くのを、ちょっと躊躇った。
私なんかが『東京ヒゴロ』について語るなんて、おこがましい。
という思いもあったが、
この気持ちをうまく伝える言葉が見つからない。
というのもあった。
私と「松本大洋」というか「漫画」との出会いは「鉄コン筋クリート」であった。
それまで全く漫画を読まなかったわけではないのだが、特にお気に入りの作品があったわけでもなく、週刊のマンガ誌を定期購読するという習慣もなかった。
当時、仕事で詰めていた現場の付近には何もなく、昼休みに食事を終えると、誰かが詰所に置いて行った週刊マンガ誌を、暇つぶし程度に読んでいた。
そんな中、「鉄コン筋クリート」の連載が始まり、
面白いね、コレ。
と、最新刊がやって来るまで、週に3回くらいは「鉄コン筋クリート」を繰り返し読んでいた。
ある時、
そろそろ、新しいのが出るんじゃないの?
と、待っていたのだが、一向に最新刊がやって来ない。
どうやら、それを置いて行ってくれた人の担当分が完了し、現場を去ってしまったようだ。
やばい。
次の新しい号が出てしまう前に、最新刊を自分で購入した。
それ以来「ビッグコミックスピリッツ」を愛読していた。
「ナンバーファイブ 」の連載開始ともに「月刊IKKI」に移り、「月刊IKKI」の休刊に伴って、お気に入りの作品を追って、今は「月刊スピリッツ」を読んでいる。
情報が入らないので、インスタで「#松本大洋」をフォローしているのだが、最近「東京ヒゴロ」がアップされており、
新しいの、出たんだね。
と、ネットで購入し、先ほど読み終えた。
正直なところ、私の中のナンバーワンは「鉄コン筋クリート」なので、絵柄が変わったことに不満を抱いていた。
「Sunny」「ルーヴルの猫 」と、それなりに楽しませてもらっているが、「鉄コン筋クリート」を毎週貪るように読んでいた時ほどの圧倒的な「何か」が、そこから得られることはなかった。
単行本が刊行されるまで、その存在すら知らなかったことと言い、「東京ヒゴロ」という「のほほん」としたタイトルと言い、それほど期待せずに読み始めたのだが、これは違った。
松本大洋の新しい絵柄の意味が、初めて解った。
そう、感じられた。
私も大分年をとったが、作者もそれなりの歳を重ねているはずだ。
それなりの年齢に達しなければ描くことの出ない深みが、その絵と言うか、漫画という媒体の持つ表現形式全体から、溢れている。
静的な絵で、淡々と物語が展開される。セリフも決して多くはない。
だが絵として描かれるそれの、微妙であったとしても必然性から選ばれた描写と、短いながらも、いや、短いが故に1文字たりとも疎かにされずに選び抜かれた言葉により、一つ一つの言葉の間に、その10倍もの物語が詰め込まれている。
最後のページの東京の風景が、多くを語っている。
そこに1ページを割く意味が、はっきりと感じられる。
「傑作」とか「名作」とか、そう言った言葉では語れない。
読後に感じるこの静かながらも圧倒的な感情は、何なのだろうか。
恐らく、今までの人類が味わうことのなかった、あったとしても極めて稀な感情であったため、それにふさわしい「名まえ」がまだ付けられていない。
光の挙動を説明するのは、それまでの物理学では不可能であり、「相対性理論」という新しい言葉が編み出されてはじめて、的確な表現が出来るようになった。
それと同じことが、「東京ヒゴロ」を読んで得られる、この未だかつて味わったことのないレベルの感動についても言える。
うまく表現出来ないのだが、とてつもない作品だ。
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