新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

ちょっとした抗癌剤治療の話…その1

2013-11-19 21:49:30 | 医学系

こんばんは

 

先週は風邪でダウンして(インフルエンザの流行の兆しもあるようですが)大変でした。

実際、風邪でダウンした状態で外来と当直をしておりました。周りにうつすなよ・・・・という声が聞こえそうですが、まぁ仕方がないです。

 

さて、昨日コメントを返したのですが近藤誠医師の関連記事のところでは、いろいろご意見をいただきます。賛成反対いろいろあるのですが、僕は基本的に「時代が違うのではないか?」ということから、少なくとも・・もろ手を挙げて賛成する気にならないというところです。

 

というわけで、若造が書く内容ではないかもしれませんが抗癌剤の話を少しだけ。一応、血液専門医でもありますので。

抗癌剤治療と聞くとどう思われるでしょうか。

 

抗癌剤には大きく分けると今の時点では2種類あります。

 

従来の抗癌剤分子標的薬です。

従来の抗癌剤というのは代謝拮抗薬、アルキル化薬、抗癌性抗生物質など基本的には細胞毒性(一言でいえば毒物です)を持った薬剤です。ほとんどは難しい言葉で書くと「核酸合成」「蛋白質合成」「微小管」「DNA」などをターゲットにしていますが、基本的に「よく増えるもの」に対する毒性が高いものです。

基本的には「増殖しない」脳などにはあまり影響がないものが多いです。脳にも影響するのは血液脳関門を越えるMTX(メソトレキサート)が若干ある(白質脳症とか)かしら。神経系に関しては微小管が関連するビンカアルカロイド(ビンクリスチンなど)やタキサン系が有名です。

 

すなわち、普通の細胞よりも「増殖が速いはず」の「悪性腫瘍」に対して使用して、そちらを中心につぶそうというものです。そのため、正常であってもよく増えるところはダメージを受けやすいという欠点があります。有名な脱毛ですとか、消化管障害(消化器は菌と接していますので、常に新しいものが増え続けています)、そして僕たちが専門としている血液系があります。

 

その一方で分子標的薬というものも出てきました。

最初の分子標的薬は1997年にでてきた「リツキシマブ」になります。これは悪性リンパ腫などでCD20という標的を表面に出していたら、それに引っ付いて壊すという薬です(簡単に書きすぎかもしれませんが)。そうするとCD20というものが出ていない他のところには副作用がない。すなわちメリット(抗癌作用)がデメリット(副作用)を大きく上回るわけです。このメリットがデメリットを大きく上回る可能性があるのが、分子標的薬の特徴だと思います。

次に有名なものは慢性骨髄性白血病で標準治療となったbcr-abl阻害薬「イマチニブ」です。慢性骨髄性白血病は診断基準としてbcr-ablという複合遺伝子を持っていることが条件ですが、この腫瘍細胞は増殖にほぼ完全な「bcr-abl依存性」を示します。専門用語的にはoncogene addictionというらしいですが、要するに100%依存しているため、ここを何とかしたら病気の細胞が増えなくなっていきます。

 

では、他の癌細胞ではどうかといいますと、どちらかというと、この依存性が100%まで高くないものが多いというところだと思います。例えば肺癌の治療薬として有名なゲフェチニブ(イレッサ)では普通のEGFR遺伝子ではあまり効かないといわれています。逆に東洋人に多い「遺伝子変異」があるとよく効くので、それが使用基準となっていると思いますが、この異常がいいのかというと腫瘍細胞の増殖を強く刺激(腫瘍の増殖がこの遺伝子に依存している)しているから効いているといえます。

 

分子標的薬は「できるだけ癌細胞だけに効かせる」ことを狙いとしていますが、やはり多少なりとも副作用があります。ただ、患者さんのがんによってはとてもよく効く可能性を秘めているわけです。

 

普通の抗癌剤の効果は「がんの増える速度依存性」となりますし、分子標的薬は「がんがそれにどの程度依存しているかに効果が依存する」わけです

分子標的薬がわかりにくい気がするので、もう少し書きます。

 

例えばリツキシマブの効果はCD20という分子を発現している量に依存します。あまり強く表面いだしていなければ、リツキサンは引っ付きにくいですし効きにくいことになります。慢性リンパ性白血病ではCD20の発現は一般に弱いのですが、それに対してリツキシマブよりもよく引っ付く薬としてオファツムマブができたわけですが。

 

他にも同じキナーゼ系の阻害薬といっても、慢性骨髄性白血病におけるイマチニブ(含めたチロシンキナーゼ阻害薬)ほど絶対的なものはほとんどないと思います。これはその経路だけに依存していないということを示しています

 

慢性骨髄性白血病ではある池から別の池につながる川は1本しかありません。それ故、そこをふさいで染めば切り離すことができます。他の病気では2本も3本も出ているので、たまたま使用する薬が塞ぐ河が「本流」であるかどうかに依存してきます。

 

それを見極めることができるように、さまざまな研究がされている状況であると思います。

 

そういうわけで、僕たちはどういう患者さんにこの抗癌剤が効くのかを考えながら研究していたりしています。可能であれば日常診療で分かるものが、最終的に何かのシグナルを刺激していて、この抗癌剤が必ず効果を発揮する・・・というような発見をしたいものです。患者さんにいい意味で還元できますので。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また。

 

 

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