新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

僕の骨髄線維症の説明(患者さん向け、2017年度版)

2017-12-15 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

さて、骨髄線維症・・・。

僕は3、4年目の時にやっていた研究のテーマは実は骨髄線維症でした。

 

骨髄線維症は骨髄の線維化、骨硬化が起きる疾患で、それにより巨大脾腫による圧迫・髄外造血による白赤芽球症、高サイトカイン血症による全身症状が特徴になります。

 

以前書いた時はルキソリチニブがなかったので、治療が「同種造血幹細胞移植をどのような対象患者に行うかが」ポイントでしたが、武器が増えました。

 

また、遺伝的な背景としてJAK2、CALR、MPLの変異がわかっていますし、色々理解が深まった分野だと思います。

 

それでは、簡単に書いていきます。

以前書いた記事はこちらになります

 僕の骨髄線維症に関する説明(患者さん向け)


Mさんは左腹部の膨満感、食欲低下を主訴に近医を受診されました。診察と超音波で巨大な脾腫があることがわかり、紹介されました。

 

原因精査のための検査で、いくつかのことがわかりましたので、説明してまいります。

 

今回の巨大脾腫の原因は骨髄線維症という病気によるものです。

骨髄線維症は血液を作る骨髄という場所が線維化と言って、硬くなっていく病気です。本来、血液を作るはずの工場が、他の物で埋まっていくために血液が作れなくなります。当初は貧血が進み、病気が進行すると血小板というものも減少してきます。

 

今回の血液検査では白血球は7000/µl、ヘモグロビン(Hb)は8.2g/dl、血小板は18万/µlと貧血の進行を認めました。血液中には芽球が2.0%、赤芽球が8%と血液中に本来は出てこない若い血液が出てきていました(白赤芽球症)。

 

Mさん:それはどういうことでしょうか?

 

今からご説明しますが、骨髄というところが硬くなると、そこで血液が作れなくなってしまうため、胎児の頃に血を作る組織であった「脾臓」「肝臓」などに血液細胞が移動していきます。そこで血液を作るのです。

しかし、骨髄には「骨髄-血液関門」というものがあり、幼弱な血液は出ていかないようになっていますが、脾臓などではそれがないために若い血液も出てきてしまいます。

 

他に涙滴赤血球という涙のような形をした赤血球なども認めています。

 

骨髄穿刺・骨髄生検の結果は、骨髄穿刺はdry tap (うまく骨髄が取れない)気味でしたが、形態学的に異形成のある細胞やリンパ腫細胞、固形癌などは認めませんでした(二次性骨髄線維症では固形癌の骨髄転移などや骨髄異形成症候群、急性白血病、悪性リンパ腫などが基礎疾患になることがあります)。骨髄生検では過形成骨髄で、骨髄の線維化を伴っていました。巨核球系はやや過形成、赤芽球系細胞は減少していました。

 

このあと出てくると思いますが、BCR-ABLという慢性骨髄性白血病で認められる異常は認めていません。真性多血症の診断基準は認めず、本態性血小板血症に特徴的な変化もないため、特発性骨髄線維症と診断しました。

 

染色体検査なども行なっていますが、複雑核型や7番染色体異常などの予後不良染色体異常は認めておりません。

 

Mさん:骨髄線維症はどのような症状が出たり、どうなっていくのでしょうか?

 

骨髄線維症の症状は多いものは肝脾腫、巨大な脾腫による圧迫症状、貧血による症状などに加えて、サイトカインと言いますが異常な細胞が出す因子によって発熱や着替えなくてはいけないレベルの寝汗、体重減少などもあります。そのような症状はありますか?

 

Mさん:発熱はないと思いますがなんとなくだるい感じはします。寝汗はなく、体重も減ってはいないと思います。

 

治療に関してですが、この病気を完治させる手段は「骨髄移植」しかありません。しかし、骨髄移植はリスクを伴いますので、リスク評価をした高リスク(int-2以上)のグループに行います。Mさんは60歳ですので、骨髄移植の適応はあります。

 

今までの情報から、リスク評価を行いますとIPSSで2点、DIPSSで3点、DIPSS-PLUSで2点になり3つの予後分類でint-2になります。これは同種骨髄移植を検討して良いことになります。

 

 

Mさんにはご兄弟がいらっしゃいますでしょうか?

Mさん:弟が1人おります

 

では、弟さんとも相談しながら、移植などの可能性も検討していきましょう。必要であればバンクドナーも検討しましょう。

 

もし、ドナーが得られない場合や、そこまでに時間がかかるようでしたらルキソリチニブで治療を行いましょう。

 

Mさん:ルキソリチニブという薬はどのような薬ですか?

 

この骨髄線維症の原因遺伝子の1つにJAK2という遺伝子があります。このJAK2を含めたものを抑える薬です(JAK1/2阻害薬)。脾腫や高サイトカインによる症状を改善する効果があり、延命の効果もあるとされています。

 

ただ、JAK1というものがリンパ系に強く影響するため、JAK1も抑えてしまう結果、ウイルスを含めた感染症に弱くなってしまいます。しかし、高リスクで移植を検討する状況であれば、デメリットよりもメリットが大きいので、うまく使って治療をしていきたいと思います。

 

Mさん:宜しく御願い致します。

 


 

こんな感じでしょうか?

 

低リスクに対しての治療という意味では経過観察をするか、貧血に対してはタンパク同化ステロイド、保険適応はないですがサリドマイド・レナリドミドも有効とされています。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また。

 

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53 コメント

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Unknown (Unknown)
2019-12-07 15:17:55
はじめまして、病気の事を調べていましたら、先生のブログに出会う事が出来ました。2013年の会社の健康診断から白血球11,000.血小板50万と少し高めで、会社の嘱託医に相談した所、少し高めだけど大丈夫と言われ安心しきっていました。2017年11月会社から帰って来た時に、真っ直ぐ立っていられなくなり、血圧を測ると上178-84-96でした。1週間後、血液検査の事も気になた
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初めまして (アンフェタミン)
2019-12-09 05:50:15
おはようございます。コメントありがとうございます。

2013年の健診で骨髄線維症が見つかったという状況でよろしいでしょうか?
おそらく血圧とは直接関係がなかったかもしれませんが、血圧が上昇するなどがあり病院を受診されて診断が確定したということかなと推測いたしました。

コメントが途中のようでしたので、もしご質問などがございましたら、ぜひよろしくお願いいたします。

また、コメントいただければと存じます
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Unknown (希望を持って)
2019-12-10 20:10:42
12月7日にブログ途中で、本当に申し訳ありませんでした。ブログへの送信が初めてで、入力しているうちに時間切れになってしまい、まさか送信されていると思いませんでした。後日もう一度送信させて頂きます。本当に申し訳ございませんでした。返信有難うございました。
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Unknown (希望を持って)
2019-12-11 16:56:31
先日はお忙しい中、コメントを頂き有難うございました。2017.11血液検査 白血球10260 赤血球418 血小板30.6 LDH815 多数の幼若顆粒が出現。巨大血小板、破砕赤血球、涙滴赤血球など好中球に中毒顆粒が認められました。2017.12大学病院を受診。1月骨髄穿刺、生検を実施。原発性骨髄線維症と診断。余命35ヶ月との宣告を受けました。大学病院では移植をやっていないとの事で転医を進められ、今の病院に通院して、1年9ヶ月が経ちました。染色体異常が見つかり、私の染色体は45,xx,?t(1;17)(p36.1:q21),dic(4:8)(p16:p11.2) 46,xx,t(7;14)(q11.2:q32)でした。7番、17番は予後不良染色体と拝見しましたが、予後不良染色体がある場合は移植は無理なのでしょうか?3年前から心雑音もあると健康診断で言われ、心エコーを実施。極端な洞性不整脈とのコメントでしたが、大丈夫との事でした。移植のリスクが高い為本当に不安で悩んでおります。2018.3に今の病院に行った時には著明な脾腫になっていて、直ぐにジャカビの投薬が始まりました。もう1年9ヶ月薬を飲み横ばいを保っております。このまま、いつまで横ばいが続くか、白血病にしまったらと本当に不安でたまりません。身体は少し怠さを感じたりする時もありますが、仕事はまだ続けています。大学病院での骨髄の線維化はMF-2〜MF-3でした。今現在の血液検査は白血球12,100 赤血球371 血小板42.6 LDH1024 骨髄芽球1〜3 赤芽球1 骨髄球7〜20 後骨髄球13 このような現状です。実は今通院している病院も移植をやっていない事が少し前にわかりました。移植の話をする勇気もなく、移植するとなると転医をしなくてはならなくなるので、Drにも話す事が出来ないでいます。今の状態がいつまで続くか、本当に不安です。線維化した骨髄は本当に治るのでしょうか。移植のリスクも知りたいです。この身体の状態で移植が受けられるのか?毎日悩んでおります。長々と書いてしまい申し訳ありません。少しでもコメント頂ければ嬉しいです。宜しくお願い致します。乱文お許し下さい。
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Unknown (希望を持って)
2019-12-12 16:46:42
 昨日コメントを送信させて頂いたのですが、年齢を書くのを忘れていました。今年の10月で56歳になりました。2018年3月にCTで画像一杯肝臓と脾臓で埋まっていた著明な脾腫は2018年10月のエコーでも、脾臓splenomegaly 2019年4月も肝脾腫は大きな変化はない。骨密度上昇あり。原病によるものと考えられるとの事で、脾臓は大きくも小さくもなっていませんでした。
 今日、先生の2013年3月13日に書かれていた余命の話を拝見させて頂きました。私は今まで、移植した場合の再発、生着不全、治療関連死、残された予後の事ばかり気にしておりました。先生が、「まずは行うべき治療を行い病気をやっつけて治る事を考えましょう」「余命」とか「予後」という言葉を気に掛けるよりも「出来ることがあるならまずはやろうじゃないか……」とのお考えを拝見致しました。
 難病で病気が治る方法は唯一移植のみ。大学病院でDrに診察の度にインフォームド・コンセントを書いて頂いたのですが、2回とも病気の説明と余命35ヶ月と。この病気は厄介な病気なんだよねと言われ帰りにプリントを渡されました。このプリントで、私は4ヶ月で7キロも体重が減ってしまったのです。アンフェタミン先生のお考えを信じ、これからは予後は考えないようにしたいと思います。今は横ばいが1日でも長く続く事を願い、これからも病気と一生懸命闘いたいと思います。一緒に頑張っていてくれる主人と子供の為にも、心配していてくれるお友達の為にも…… 乱文お許し下さい。
返信する
Unknown (アンフェタミン)
2019-12-12 23:11:08
>希望を持ってさん
こんばんは、コメントありがとうございます。

2017年11月に原発性骨髄線維症と診断され、ルキソリチニブ(ジャカビ)を内服中ということでよろしいでしょうか。
確かに骨髄線維症はなかなか難しい病気です。外勤先と合わせて確定診断した患者さんを8名ほど(二次性含む、疑いはもう少しおります)を診察させていただいていますが、それぞれの患者さんがそれぞれの考え方で闘病されています。

たまたまですが今日の外来には去年の夏に骨髄移植をした60代の男性が受診されました。移植後約1年半くらいかと思いますが、月に1回のペースの受診で大きな合併症もなく通院されております。
他に前にいた大学病院や別の大学病院でもたまたま移植をした骨髄線維症の患者さんがいましたが、うまいこと線維化が取れていました。必ず線維化が改善するわけではなく、再発もあり得るのですが、完治の可能性はもちろんあります。

主治医の先生がおっしゃるように骨髄線維症の移植はなかなか難しいと言われています。いくつかの臨床試験が海外では行われていましたので、僕はそれを参考にしてやりましたが、移植に慣れた施設はあると思います。移植の話も聞いてみたということであれば、一度は聞いてみても良いのではないかと思います。

今日の夕方、別の病気の患者さんも移植の怖さについて話をされていました。僕はデータとしてこの時期に何が起きるかということは概ね把握していますので、それらについて説明をして予測できることや注意するタイミングはわかっていても、「読めないことがいくつかあるのが移植の怖さ」と説明しました。

その「読めない怖さ」を理解していただかないと、なかなか移植は難しいだろうと思います。

まずはできることを1つ1つやっていくことは大事だと思います。大変なことも多いかと存じますが、闘病を頑張ってください。

また、コメントいただければと存じます。
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Unknown (希望を持って)
2019-12-13 18:58:22
 アンフェタミン先生、昨日はお忙しい中、遅い時間にも関わらずコメント返信頂き、誠に有難うございました。 「読めないことがいくつかあるのが移植の怖さ」 私も血液フロンティアなど自分の病気の事が載っている本やネットでも色々調べてきました。だから移植をする事に不安を持ってしまっているのが、現状です。56歳という年齢なので、生きられるまで病気と闘う選択もあるのかなと思っております。でも娘は元気なうちに移植して、病気を治してと言ってくれました。でも移植を受ける事が凄く怖いのが本音です。毎月病院へ行き、血液検査する度に不安になり、今日は大丈夫?と診察呼ばれるまで不安で…。実は今日は診察日でした。車で病院まで50分。朝病院に着き血圧を測ると193-70-68 176-83-84と高い数値でした。頭がクラクラするような変な感じで、高いなぁ〜と思ったらやはり高かったです。いつも病院行くと緊張して高くなってしまいます。今日の血液検査は白血球133 赤血球388 血小板24.5(今まで、40〜50あったのに) LDH1010(最近1000を超えるのが当たり前に、少し不安です)Drはいつも横ばいを続けられるように頑張りましょうとおっしゃるのですが、いつ血球が下がるか毎日不安でたまりません。移植の話は一度話だけでも聞いて見たいと思います。今の健康状態では出来ないと言われるかもしれないので…
 アンフェタミン先生に相談する事が出来て、本当に良かったです。患者でもない私に、このようなアドバイスを頂き、本当に有難うございました。これからも患者さんが頼れるDrでいて下さい。これからもお身体ご自愛下さいませ。本当に有難うございました。お子様の良き父親振りも毎回尊敬致しております。
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移植は選択肢になると思います (アンフェタミン)
2019-12-21 22:13:24
>希望を持ってさん
こんばんは、コメントありがとうございます。

返信が遅くなり申し訳ございません。
おっしゃられること良くわかります。確かにいま普通に生活できているのにリスクのある治療をするべきか、迷うのは当たり前かと存じます。

血液検査に関してですが、骨髄線維症は病初期は血小板数は上昇しますが、徐々に下がってきます。

移植ができるかは実際に評価をしなくてはわかりませんが、ほかの合併症のない56歳であれば移植は十分に選択肢になります。ただ、前のコメントと同じですが、どうしてもリスクは高くなります。それでもやるかどうかというのが重要かと思います。

また、コメントいただければと存じます。
返信する
Unknown (希望を持って)
2019-12-23 19:09:21
こんばんは アンフェタミン先生、お忙しい中本当に何時もご丁寧なコメントの送信、誠に有難うございます。やはり年齢的には移植は高リスクとの事ですね。でも選択肢に入れる事も可能ではあるのですね。でも病院へ行く度、緊張して血圧が高くなっているようでは、やはり移植には耐えられないのかなぁ?それと染色体異常、17番染色体の事も気になっております。余命はもう考えないと言ったのに、やはり来年の10月の誕生日を迎える事が出来ないのかなぁ~と一人になると考えてしまいます。残された時間をいかに大切に生きる事が出来るか?それが今の私に出来る事。これから迎えるはずだった何年、いや何十年をこの一年を使って大切に生きようと思います。そう考えられるようになったのも、アンフェタミン先生のブログの送信をきっかけに思えるようになりました。今まで不安で不安で余命が怖くて、一人になると涙ばかり流しておりました。でも今の私には泣いている時間は無いのです。まだまだやる事が一杯残っているから…残された時を一日でも長く神様が私に与えてくれる事を願って、これからも病気と闘おうと思います。もう一度家族ともこれからの事を話し合いたい思います。私には弟が一人います。以前主治医に移植をする時の為に弟のHLAを調べてもらいたいと話たら、直ぐに調べられるからとの返事が返って来ました。あれからもう一年半が過ぎてしまいました。なのでドナー登録の話も出ていません。ドナーが見つかるまでに半年程かかると聞いた事があります。私には本当に時間が足りないですね。この2年、本当にあっという間でした。今までの人生の中で時間がこんなに短く感じた事はありませんでした。色々不安な事ばかり書いてしまい本当に申し訳ありませんでした。先生のブログに出会えて本当に良かったです。有難うございました。アンフェタミン先生、これからも沢山の方の大切な命を救ってあげて下さい。本当に有難うございました。
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お役に立てれば (アンフェタミン)
2019-12-31 23:30:20
>希望を持ってさん
こんばんは、コメントありがとうございます。

返信が遅くなりました。移植のリスクはリスクですが、リスクと長期生存の可能性とを考えて治療方針は立てるべきかと思います。

大きな病気をされた時にいろいろなことを考え、時間を大切に考えることはとても重要なことかと存じます。

また、何か気になることがございましたら、ご連絡いただければと存じます。

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