さて、骨髄線維症・・・。
僕は3、4年目の時にやっていた研究のテーマは実は骨髄線維症でした。
骨髄線維症は骨髄の線維化、骨硬化が起きる疾患で、それにより巨大脾腫による圧迫・髄外造血による白赤芽球症、高サイトカイン血症による全身症状が特徴になります。
以前書いた時はルキソリチニブがなかったので、治療が「同種造血幹細胞移植をどのような対象患者に行うかが」ポイントでしたが、武器が増えました。
また、遺伝的な背景としてJAK2、CALR、MPLの変異がわかっていますし、色々理解が深まった分野だと思います。
それでは、簡単に書いていきます。
以前書いた記事はこちらになります
Mさんは左腹部の膨満感、食欲低下を主訴に近医を受診されました。診察と超音波で巨大な脾腫があることがわかり、紹介されました。
原因精査のための検査で、いくつかのことがわかりましたので、説明してまいります。
今回の巨大脾腫の原因は骨髄線維症という病気によるものです。
骨髄線維症は血液を作る骨髄という場所が線維化と言って、硬くなっていく病気です。本来、血液を作るはずの工場が、他の物で埋まっていくために血液が作れなくなります。当初は貧血が進み、病気が進行すると血小板というものも減少してきます。
今回の血液検査では白血球は7000/µl、ヘモグロビン(Hb)は8.2g/dl、血小板は18万/µlと貧血の進行を認めました。血液中には芽球が2.0%、赤芽球が8%と血液中に本来は出てこない若い血液が出てきていました(白赤芽球症)。
Mさん:それはどういうことでしょうか?
今からご説明しますが、骨髄というところが硬くなると、そこで血液が作れなくなってしまうため、胎児の頃に血を作る組織であった「脾臓」「肝臓」などに血液細胞が移動していきます。そこで血液を作るのです。
しかし、骨髄には「骨髄-血液関門」というものがあり、幼弱な血液は出ていかないようになっていますが、脾臓などではそれがないために若い血液も出てきてしまいます。
他に涙滴赤血球という涙のような形をした赤血球なども認めています。
骨髄穿刺・骨髄生検の結果は、骨髄穿刺はdry tap (うまく骨髄が取れない)気味でしたが、形態学的に異形成のある細胞やリンパ腫細胞、固形癌などは認めませんでした(二次性骨髄線維症では固形癌の骨髄転移などや骨髄異形成症候群、急性白血病、悪性リンパ腫などが基礎疾患になることがあります)。骨髄生検では過形成骨髄で、骨髄の線維化を伴っていました。巨核球系はやや過形成、赤芽球系細胞は減少していました。
このあと出てくると思いますが、BCR-ABLという慢性骨髄性白血病で認められる異常は認めていません。真性多血症の診断基準は認めず、本態性血小板血症に特徴的な変化もないため、特発性骨髄線維症と診断しました。
染色体検査なども行なっていますが、複雑核型や7番染色体異常などの予後不良染色体異常は認めておりません。
Mさん:骨髄線維症はどのような症状が出たり、どうなっていくのでしょうか?
骨髄線維症の症状は多いものは肝脾腫、巨大な脾腫による圧迫症状、貧血による症状などに加えて、サイトカインと言いますが異常な細胞が出す因子によって発熱や着替えなくてはいけないレベルの寝汗、体重減少などもあります。そのような症状はありますか?
Mさん:発熱はないと思いますがなんとなくだるい感じはします。寝汗はなく、体重も減ってはいないと思います。
治療に関してですが、この病気を完治させる手段は「骨髄移植」しかありません。しかし、骨髄移植はリスクを伴いますので、リスク評価をした高リスク(int-2以上)のグループに行います。Mさんは60歳ですので、骨髄移植の適応はあります。
今までの情報から、リスク評価を行いますとIPSSで2点、DIPSSで3点、DIPSS-PLUSで2点になり3つの予後分類でint-2になります。これは同種骨髄移植を検討して良いことになります。
Mさんにはご兄弟がいらっしゃいますでしょうか?
Mさん:弟が1人おります
では、弟さんとも相談しながら、移植などの可能性も検討していきましょう。必要であればバンクドナーも検討しましょう。
もし、ドナーが得られない場合や、そこまでに時間がかかるようでしたらルキソリチニブで治療を行いましょう。
Mさん:ルキソリチニブという薬はどのような薬ですか?
この骨髄線維症の原因遺伝子の1つにJAK2という遺伝子があります。このJAK2を含めたものを抑える薬です(JAK1/2阻害薬)。脾腫や高サイトカインによる症状を改善する効果があり、延命の効果もあるとされています。
ただ、JAK1というものがリンパ系に強く影響するため、JAK1も抑えてしまう結果、ウイルスを含めた感染症に弱くなってしまいます。しかし、高リスクで移植を検討する状況であれば、デメリットよりもメリットが大きいので、うまく使って治療をしていきたいと思います。
Mさん:宜しく御願い致します。
こんな感じでしょうか?
低リスクに対しての治療という意味では経過観察をするか、貧血に対してはタンパク同化ステロイド、保険適応はないですがサリドマイド・レナリドミドも有効とされています。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
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それでは、また。
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2013年の健診で骨髄線維症が見つかったという状況でよろしいでしょうか?
おそらく血圧とは直接関係がなかったかもしれませんが、血圧が上昇するなどがあり病院を受診されて診断が確定したということかなと推測いたしました。
コメントが途中のようでしたので、もしご質問などがございましたら、ぜひよろしくお願いいたします。
また、コメントいただければと存じます
今日、先生の2013年3月13日に書かれていた余命の話を拝見させて頂きました。私は今まで、移植した場合の再発、生着不全、治療関連死、残された予後の事ばかり気にしておりました。先生が、「まずは行うべき治療を行い病気をやっつけて治る事を考えましょう」「余命」とか「予後」という言葉を気に掛けるよりも「出来ることがあるならまずはやろうじゃないか……」とのお考えを拝見致しました。
難病で病気が治る方法は唯一移植のみ。大学病院でDrに診察の度にインフォームド・コンセントを書いて頂いたのですが、2回とも病気の説明と余命35ヶ月と。この病気は厄介な病気なんだよねと言われ帰りにプリントを渡されました。このプリントで、私は4ヶ月で7キロも体重が減ってしまったのです。アンフェタミン先生のお考えを信じ、これからは予後は考えないようにしたいと思います。今は横ばいが1日でも長く続く事を願い、これからも病気と一生懸命闘いたいと思います。一緒に頑張っていてくれる主人と子供の為にも、心配していてくれるお友達の為にも…… 乱文お許し下さい。
こんばんは、コメントありがとうございます。
2017年11月に原発性骨髄線維症と診断され、ルキソリチニブ(ジャカビ)を内服中ということでよろしいでしょうか。
確かに骨髄線維症はなかなか難しい病気です。外勤先と合わせて確定診断した患者さんを8名ほど(二次性含む、疑いはもう少しおります)を診察させていただいていますが、それぞれの患者さんがそれぞれの考え方で闘病されています。
たまたまですが今日の外来には去年の夏に骨髄移植をした60代の男性が受診されました。移植後約1年半くらいかと思いますが、月に1回のペースの受診で大きな合併症もなく通院されております。
他に前にいた大学病院や別の大学病院でもたまたま移植をした骨髄線維症の患者さんがいましたが、うまいこと線維化が取れていました。必ず線維化が改善するわけではなく、再発もあり得るのですが、完治の可能性はもちろんあります。
主治医の先生がおっしゃるように骨髄線維症の移植はなかなか難しいと言われています。いくつかの臨床試験が海外では行われていましたので、僕はそれを参考にしてやりましたが、移植に慣れた施設はあると思います。移植の話も聞いてみたということであれば、一度は聞いてみても良いのではないかと思います。
今日の夕方、別の病気の患者さんも移植の怖さについて話をされていました。僕はデータとしてこの時期に何が起きるかということは概ね把握していますので、それらについて説明をして予測できることや注意するタイミングはわかっていても、「読めないことがいくつかあるのが移植の怖さ」と説明しました。
その「読めない怖さ」を理解していただかないと、なかなか移植は難しいだろうと思います。
まずはできることを1つ1つやっていくことは大事だと思います。大変なことも多いかと存じますが、闘病を頑張ってください。
また、コメントいただければと存じます。
アンフェタミン先生に相談する事が出来て、本当に良かったです。患者でもない私に、このようなアドバイスを頂き、本当に有難うございました。これからも患者さんが頼れるDrでいて下さい。これからもお身体ご自愛下さいませ。本当に有難うございました。お子様の良き父親振りも毎回尊敬致しております。
こんばんは、コメントありがとうございます。
返信が遅くなり申し訳ございません。
おっしゃられること良くわかります。確かにいま普通に生活できているのにリスクのある治療をするべきか、迷うのは当たり前かと存じます。
血液検査に関してですが、骨髄線維症は病初期は血小板数は上昇しますが、徐々に下がってきます。
移植ができるかは実際に評価をしなくてはわかりませんが、ほかの合併症のない56歳であれば移植は十分に選択肢になります。ただ、前のコメントと同じですが、どうしてもリスクは高くなります。それでもやるかどうかというのが重要かと思います。
また、コメントいただければと存じます。
こんばんは、コメントありがとうございます。
返信が遅くなりました。移植のリスクはリスクですが、リスクと長期生存の可能性とを考えて治療方針は立てるべきかと思います。
大きな病気をされた時にいろいろなことを考え、時間を大切に考えることはとても重要なことかと存じます。
また、何か気になることがございましたら、ご連絡いただければと存じます。