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うっかり者のアゲハ母さん

 息子と庭に出ていたら、せまい空から、一匹のアゲハチョウが舞い込んできた。ひらひらと小さな庭を飛び回って、舞い上がったかと思ったら、羽の動きを止めて、またふわりと落ちるように降りてくる。今にも、私の肩や息子の頭の上に止まりそうなほど近づいて、蝶の羽が大きく空を打った音が聞こえたように思った。
 見たこともないような大きな美しい蝶で、それがすぐに出て行きもせずに、庭をくるくる回っているので、じっと感動しながら息子の手を握って見ていたのだけれど、どうやら、蝶は山椒の木に近づきたいのだとわかった。雌の蝶なのである。卵を産みに来たのだった。
 アゲハチョウが止まりやすいように、山椒の木から少し遠慮して離れてやると、案の定、蝶は軽く羽ばたきながら、山椒の木とグレープフルーツの木それぞれに、尾の先をちょん、ちょんと押しつけるようにして、庭をひとまわりすると、隣家の物干し場の向こうへ、浮かび上がるように飛んで行ってしまった。
 蝶の産卵をはじめて見た。興味しんしんで山椒の木をのぞきこんで、吃驚した。なんと、枝の上で休んでいる先住のアゲハの幼虫の背中に、黄色い卵がひとつ、ぽつんとついているのである。
 うっかり者の蝶のお母さんなのであった。緑色の幼虫を、山椒の葉だと勘違いしたのである。
 これではまずかろうと、落ちていた細い草の茎を拾って、そっと青虫の背中から卵をはずしてやったら、卵はすぐ下の葉の上に落下した。それでよかったのだけれど、もっと安定のいい場所へ動かそうとしたら、意外と粘着性がなくて、あっと思ったときにはもう、ころころと転がり落ちてしまった。
 途中の葉や植木鉢の中、その周りまで、なんどもなんども探したのだけれど、小さな黄色い卵は、とうとう見つからなかった。これではせっかく卵を託してくれたアゲハのお母さんに申し訳が立たない。どこへいったかわからないけれど、無事に孵って、餌となる木にたどり着いてくれることを祈るばかりである。
 グレープフルーツの木のほうも調べてみたら、こちらはちゃんと葉の裏の端っこに、小さな卵がついていた。
 ほとんど丸坊主になった、小さな小さな山椒の木を、母アゲハが高い空からどうやって見つけるのか、不思議である。
 先住二匹の幼虫の食欲は、うちの木だけではとても足りないので、今は実家からもらってきた山椒の枝でまかなっているのだけれど、新しくまた幼虫が生まれるのであれば、食糧問題に対して、もっと抜本的な対策を取らねばなるまい。
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猫のいる日々

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