ねこ絵描き岡田千夏のねこまんが、ねこイラスト、時々エッセイ
猫と千夏とエトセトラ
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ぽかぽか探知機
2006年10月31日 / 猫
みゆちゃんは首を伸ばして台の上を調べると、よいしょとのぼって、セーターの上に腰を降ろした。お尻がぽかぽかする。足の裏もあったかい。ちょっとみゆちゃん、アイロンをかけてきれいにしたのだから、そんなところに座るのはやめてください。当然みゆちゃんは私の訴えなどには耳を貸さず、さらにくつろいで前足を折って、猫座りになった。
しばらく目を閉じてうとうとしていたが、また立ち上がってアイロン台から降り、ドライフードを食べに行った。降りてくれたか、よかったよかった。
が、まずはごはん、というだけのことだったらしい。食べ終わるとまっすぐアイロン台へ戻った。再びセーターの上に座り込む。快適な場所を見つけることにかけては、猫は天才だとつくづく思う。せっかくアイロンをかけたのに、と言いたいところだが、幸せそうな顔で丸まって眠る姿を見ると、怒る気も失せてしまった。
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脱走猫みゆちゃん
2006年10月30日 / 猫
ところが、令猫のはずのみゆちゃんが、脱走した。植えてある椿の木に登って塀を越えてしまったのである。なんとか連れ戻したが、対策が必要だ。
まず、見映えが悪いが、木の幹のみゆちゃんが跳びつく少し上あたりに空になったペットボトルを縦に並べて、猫返しを作った。効果を確かめるために、みゆちゃんを庭に出す。脱走の味を覚えたみゆちゃんは、まっすぐに木のところへいって、幹に跳びつく。が、猫返しに行く手を阻まれ、降りざるを得なかった。成功である。
さらに、その晩、脱走疲れですやすや眠るみゆちゃんの手を見ると、爪が鋭く伸びている。これも切っておかなければ。ぱちんぱちんと、ちょっと気の毒なくらい短く切ってしまった。
次の日の朝、みゆちゃんはまた庭へ出て椿の木に登ろうとした。ぴょんと木に跳びつくが、あれあれ、ずずずとすべり落ち、どすんと尻餅をついてしまった。
みゆちゃんは、まさか爪を切られたせいだとは思わず、おかしいなという顔をして昨日は登れた木を見上げている。小首をかしげ、庭を一周してから気持ちも新たに、もう一度挑戦した。だが結果は同じことである。またずり落ちた。
みゆちゃんはショックを受けているように見える。自分は木登りもできない駄猫になってしまったのだろうか。そのあと、低くて枝ぶりの登りやすい沈丁花の木に登ろうと前足をかけたが、あきらめてしまった。猫としての自信を喪失してしまったようである。
庭遊びもやめて、すごすごと家の中に戻ってきた。ちょっと可哀想なことをしたなあ。またすぐ伸びるよと、慰めの言葉をかけたが、みゆちゃんは肩を落として自分のベッドへ歩いていってしまった。
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オカメとモヒカン(トラックバック練習板)
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救えなかった子猫(後篇)
2006年10月26日 / 猫
子猫たちの居場所へ急いだ。一匹の子猫が、箱から這い出したのか、通路の真ん中でべったり腹ばいになって、動かなくなっていた。慌てて抱き上げようと触れた体は、すでに冷たく、硬直していた。
もう一匹はと、箱の中をのぞく。生きていた。しかし衰弱している。病院へ連れて行かなければ。死んでしまった子猫もほうっておけなくて、とにかく一緒に箱に入れ、小走りに道路に出てタクシーを拾った。
最寄りの動物病院へ行ってもらう。すぐ診てもらえることになった。
かなり悪い状態だった。体温が低下し、衰弱しすぎてもうミルクを自力で飲むこともできない。注射器の先に細いチューブをつけて、子猫の胃に直接ミルクを流し込む必要があった。その手順を教わる。獣医師は、こちらが見ていて心配になるくらい口の奥へ奥へとチューブを入れていく。どのあたりまで入れなければならないのか、チューブにマジックで印をつけてもらった。誤って肺のほうへ入らないように注意をしなければならない。間違えば、窒息してしまう。
病院でしてもらえる処置は終わり、私は獣医に礼を言って、子猫を連れて家に帰った。一回分のミルクを飲ませてもらったので、次は約二時間後である。子猫の容態は落ち着いているようだった。眠っているようである。
二時間が過ぎて、ミルクを与える時間になった。口を開かせて、チューブをマジックの印まで滑り込ませる。ちゃんと胃まで入ったか、肺の方へは行っていないか、緊張と責任の重圧で胸が押しつぶされそうだ。失敗が恐ろしい。でも、やらなければ死んでしまう。そっとピストンを押し下げ、ミルクを流し込む。大丈夫なようだ。温かいミルクがお腹に入って、子猫は安らいだ表情をしている。もし誤って肺に入ったなら、ミルクで咳き込み苦しがると聞いていた。
一匹は死んでしまったが、この子は助かるかもしれない。そんな気がして、私は気持ちが少し明るくなった。箱の中の子猫を眺めながら、名前を考えた。
はじめぐったりしていた子猫は、少しずつ動くようになり、徐々に元気を回復していくように見えた。頭を持ち上げ、小さな手足を動かして、箱の中を這おうとする。希望を見たように思った。この調子なら、助かるに違いない。二回目のミルクを与えた。子猫の様子を確認してから、少しの間、子猫のそばを離れた。
戻ってくると、子猫はぐったりしていた。私は後悔した。どんなに声をかけても、体をなでても、子猫はだんだん手のひらの中でだらりと動かなくなって、そして死んでしまった。
次の日の朝、私は近くの山へ登って、落ち葉のいっぱい積もった日当たりのよい斜面に、子猫の入った小さな箱を埋めた。
あの時、すぐ保護していれば。次の日だって、もっと早く行っていれば。ずっとそばを離れなければよかった。悔やんでも悔やんでも、悔やみきれない。
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救えなかった子猫(前篇)
2006年10月25日 / 猫
その頃、私は大学の研究室で働いていた。建物の三階にある研究室のほかに、地下にも機械を置いた部屋があって、そこで用事をしている時だった。かすかに猫の鳴き声が聞こえたように思った。部屋の扉を開けて、耳を澄ます。薄暗い地階は静かで、何も聞こえない。が、しばらくしてまた鳴いた。子猫の鳴き声だ。どうやら隣の倉庫からのようである。
とても気になった。倉庫へは入ったことがないが、鍵がかかっているだろうか。機械室を出て、倉庫の扉のノブを回してみる。鍵はかかっていない。私は静かにドアを開けて中に入り、電灯のスイッチを入れた。
蛍光灯が点灯するまでのちょっとの間をおいて、うずたかく積まれた雑多な物が光に照らし出された。椅子、電気ポット、扇風機。倉庫の右手は外へ通じるシャッターになっていて、少し開いた隙間から差し込む太陽光の中で埃が舞っている。今度はもっとはっきりと、子猫の「にー」と鳴く声が聞こえた。鳴き声はシャッターとは反対側の、左手の奥から聞こえる。
ごちゃごちゃと物が置かれて狭くなった通路を、体を横にして、声のする方へと進む。倉庫の奥までくると、シャッターの隙間から射す光はもはや届かない。薄暗い蛍光灯の下には背の高い棚が整然と並べられ、棚にぎっしりと置かれた箱には岩石や化石の標本がごろごろ入っていた。
鳴き声がするのは、一番奥の通路である。両側は無数の標本箱の壁。この箱のうちのどれかに、子猫がいるのだと思われた。
にゃあ、と猫の鳴き声をまねてみる。「にー」返事があった。耳をそばだて、声の方向を定める。「にゃあ」「にー」大まかな場所を見当つけて、ひとつひとつ、標本の入った箱を覗いていった。
子猫がいた。何かの化石と一緒に、二匹の黒っぽい子猫が箱の中に入っていた。生後一週間くらいだろうか、手のひらにちょうどおさまるくらいの大きさで、まだ目もよく開いていない。か細い声でにーにー鳴いて、小さな手足を、ぎこちなく動かしている。母猫はどこにいるのだろう。そばにいる様子はまったくない。
いったん研究室に戻って、助教授の先生に子猫のことを話してみた。私の仕事の監督者である。先生は優しい人なので、とりあえず行ってみましょうと、牛乳とそれを温めるためのお湯を持って一緒に来てくれた。
もしかすると、母猫が倉庫に出入りするのに使っていたどこかの入り口がふさがれて、入れなくなったのかもしれない。そんな可能性を考えて、子猫を外に出してみることにした。母猫が近くにいれば、きっと子猫の鳴き声を聞きつけて姿を現すだろう。
母猫が現れるのを待つ間、お湯で温めた牛乳を脱脂綿に浸して子猫に与えてみた。口元につけてみたが、子猫は飲まなかった。
小一時間も経っただろうか。太陽が傾いて、私たちの影は長くなった。母猫は現れない。塀ひとつ向こうの道路を走る車の音を聞きながら、不吉な考えが頭をよぎる。交通事故で死んでしまったのではないか…。
子猫を保護するべきか迷った。母猫がいるのであれば、余計なことはするべきではない。判断に悩んだ。倉庫の床の上に、子猫の尿のようなあとがあることも気になった。この時期の子猫の排泄物は、母親がなめて処理するはずだからである。
が、結局この日はひとまず元の場所へおいて帰ることにした。子猫たちも元気そうに見えた。この判断が誤りであった。この時点で保護すべきだった。(つづく)
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トイレのクモ子さん
2006年10月24日 / 虫
いつトイレに入っても、やはりクモの巣には何もかかっていない。そこでたまたま私と一緒にトイレに入った蚊を捕まえて、巣の上に落としてみた。
クモの反応は早かった。蚊が巣にかかるや否やとび出してきて、ぐるぐる、ぐるぐる、蚊を回して糸で巻いていく。巻き終わると、クモはぐるぐる巻きになった蚊をぶら下げて、巣の端っこに吊るしておいた。あとで食べるのだろうか。なにぶん小さな者たちの間のことであるからよく見えないが、クモは獲物に消化液を注入し、獲物の体を溶かして吸うのだと言う。次にトイレに行ったときには、食べかすだろうか、さっきぐるぐる巻きにされた蚊が巣の下に落ちていた。
トイレに行くたび気になって見るのだが、私の与えた蚊の他に、何かを食べたような様子はない。食べかすが落ちていないのである。獲物がいないのだから当然だ。なのにクモは、平気そうな顔で巣のメンテナンスに余念がない。一般に巣を張った場所に餌となる虫が少ない場合、クモは巣をたたんで別の場所に張りなおすと聞くが…。
それから二、三回、蚊を与えてみたが、やはりそれ以外に餌はないようである。ある日、クモは巣から下りて床の上を歩いていたが、その様子がいかにも弱々しく見えた。だんだんと涼しくなって、蚊の数も減ってきた。このままでは餓死してしまうかもしれない。意を決して、クモを外へ逃がすことにした。
ところが、クモを庭に放した次の日、トイレの隅っこの同じ場所に、今度は別のクモが巣を作っている。人間が知らないだけで、実は人気スポットだったのかもしれない。前のクモには、悪いことをしたような気がする。
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袋破りの猫たち
2006年10月23日 / 猫
ところが次の朝、みゆちゃんにご飯をあげようとドライフードを取り出すと、袋の側面が破れている。みゆちゃんの仕業だ。封をしていてもおいしい匂いがするのだろうか、みゆちゃんはドライフードの袋を噛んで破る悪い癖がある。せっかく湿らないようにジッパーの付いたものを買ってきたのに、これでは意味がない。破られた場所をビニールテープでふさいで置いておくと、別の場所をまたやられた。そこで、みゆちゃんが入れない押入れにしまうと、今度はネズミに破られた。結局、みゆちゃんの手の届かない食器棚の上が、ドライフードの置き場所になった。
この、袋を破る悪癖を持った猫がもう一匹いる。実家のトラ猫ちゃめだ。そして、みゆちゃんとちゃめは犬猿の仲である。
ちゃめの袋破りは、さらにたちが悪い。実家には5匹の猫がいるから、エサを買うときは一度に何袋も買っておく。買って来た5、6袋ほどのドライフードを車から降ろして、ちゃめの入れない物置にしまうまでのほんのわずかの間に、もうやられている。しかも一袋ではない。全部破られている。
ちゃめの被害はドライフードにとどまらない。ジッパーの付いた海苔の袋も次々と破られる。わざわざ、選択的にジッパーの付いたものを狙っているような気さえする。お茶の袋も全滅。また旅空の下、父が空気枕を膨らませようとすると、穴が開いていて使い物にならなかったらしい。
ある時、みゆちゃんのドライフードを買ったついでに実家へ寄り、そのあいだ、買ったフードを玄関に置いておいた。さて帰ろうと袋を持ち上げると、中身がざーっとこぼれ出た。猫の勘で大嫌いなみゆちゃんのドライフードだとわかったのだろうか、いつにもまして、滅多切りにされていたのであった。
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お猫サマのために
2006年10月20日 / 猫
人間が見るに楽しそうなものばかりなので、きっと喜ぶだろうと買ってしまうのだが、家に帰って猫にあげると、これが喜ばない。ちょっと手に取ってみるのはいい方で、たいていがしらんぷり。買ってきたおもちゃらしいおもちゃよりも、ごみみたいな物の方が面白いのである。たとえばビニタイ。パンの袋などをねじって止める、短い針金が入った金色のものだが、床の上を滑らして、いつまでも飽きずに遊んでいる。紙袋の取っ手など、ひもの切れ端。これも滑らせて遊ぶ。空き箱。引っ掻いたり、中に入ったり。例を挙げるといくらでもあるが、いわゆる「猫のおもちゃ」ではあまり遊ばない。
これは一歳の息子にもあてはまる。何かおもちゃを買ってあげても、あまり関心を示さないことがある。息子のおもちゃ箱には、いらなくなったCDや、ポテトチップの空き筒、壊れたマウスなど、おもちゃらしくないおもちゃが結構入っている。
人間の好みと猫の好み、また、大人が面白く思うものと子供に受けるものの間にはちょっとした隙間があるようだ。そうわかってはいるものの、今度こそはとついつい買ってしまうのである。
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冬猫支度
2006年10月19日 / 猫
家の台所は東向きで、午前も遅くなると、秋を迎えて弱くなった太陽の作る陽だまりは、部屋のほんの一部になる。それは、立ててある二十四缶入りビール箱の上だ。みゆちゃんはその箱の上によいしょと跳び乗り、前足を内側に折ってつくる香箱の姿勢でうずくまって、うつらうつら居眠りしていた。
が、ビール箱が未開封だったのは昨日までである。今朝もビール箱に上ろうと、箱に手をかけたみゆちゃんは、あれ、という顔をして立ち止まっている。箱が開けられて中身が数本抜き取られ、上蓋が内側に落ち込んでいるのだ。それでも無理に上って、箱の上で香箱をつくろうとした。
滑り台のようになった蓋の上なので、みゆちゃんのからだは、ずるずる箱の中に沈む。さすがに寝心地が悪く、足の位置を何度もかえて姿勢を直すが、すぐにまたずり落ちる。でも目は開けない。ぽかぽか陽気が気持ちいいのか、よっぽど眠いのか、しまいには香箱をつくれず不安定な箱の上に座ってしまったが、それでも顔は寝たままである。
しばらく頑張っていたが、さらに時間が過ぎて、日のあたる場所はみゆちゃんのおしりだけになってしまいった。みゆちゃんは太陽をあきらめて、内側に断熱材のついた保温バッグの中にもぐって行った。
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