医師日記

「美」にまつわる独り言です
水沼雅斉(みずぬま まさなり)

literacyに関する美徳4

2006年10月02日 12時26分32秒 | Weblog
 誤解を恐れずに言えば、最近の医療過誤の報道に関しても、あまりに過熱しすぎている側面もあると思います。

 最初に大前提を申し上げますが、防げる事故はいかなる努力を払っても防がねばなりませんし、そのための思考は常に停止してはなりません。

 また医師に厳しいモラルや技術の習得が求められるのは当然です。

 しかし医師とて人間、医療に過大な期待と、100%完全性を求める風潮は絶対に危険です。

 「副作用のない薬にしてください、医師が処方するのですから副作用があっては困るし、納得できません。」とおっしゃられる方がおられます。

 医療に100%があればもちろん誰もが一番ハッピーですし、医療従事者は常に100%を目指すべきですし、その理想のために努力し続けねばなりませんが・・・現代医学では100%はないという現実もまた冷静に受け入れねばならないとも思います。

 残念なことですが、副作用のない薬はありません。

 そういう啓蒙もマスコミには公平に公正に行って欲しいものです。

 医師とてすべてを予見できる訳でもありませんし、相手が人間であれば思わぬ反応が起こることもありますし、医学の歴史上初めて直面する問題もあると思います。

 この風潮がさらに過熱すれば、最後に損をしてしまうのは結局誰かといえば、それは一般国民になってしまいます。

 このままではマンパワーの足りない地方や、重労働の救急医療や心臓外科や脳外科、リスクの高い小児科や産婦人科の医師は益々激減するでしょう。

 誰もリスクの高い手術や困難な手術、危険を賭しても行わなければならない手術は請け負わなくなってしまいます。

 そうなれば特区から始まるでしょうが外国人医師が多数やってきて、優秀な日本人医師はどんどん海外に流出し、いずれ国民が困る事態になることは容易に想像されます。

 せっかくの「人のために尽くしたい」という医学生の志は潰(つい)え・・リスクは高いし自分の生活は犠牲になるし、その上マスコミからも叩かれ、国民からは100%を常に強いられる・・・そうなると優秀な学生も集まらなくなります。

 明らかに不適切な医師や病院、これはいかがなものだろうか?と首を傾げざるを得ない医師がいることも事実です。

 それらに対しては勇気を持って糾弾・スクープをするべきですが、もしもデリケートな問題を取り上げる際には、両者を丁寧に取材をして、感情的にならずに学問的根拠に基づく必要もあると思います。

 不勉強を恥じることなく、センセーショナルに、理想論ばかりを正論としたり、面白おかしく、事後追求もされることもなく、必要以上に叩いていることや、一方で不勉強の上、視聴率や話題性のためか、特殊な医師を持ち上げているケースもあります。

 患者様の利益にならないばかりか重大な後遺症を残す可能性のある、それを行う医師の間違った思い込みか、あるいはその医師のお金儲けのためか、学会でも問題なっている手術を続けている医師を、非常に優秀な医師だとデコレーションつきで紹介しているのもまた不勉強なマスコミなのです。

 その番組を見て受診してしまい、不幸な結果に陥った患者様には、どのように責任を果たすおつもりなのでしょうか?

 また最近の産婦人科学会と検察との確執も深刻です。

 医療にも温かいまなざしと厳しい監視と両方を公平に送りましょう。