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夢いまだ成らず 評伝山中峯太郎

2007年01月02日 | ノンフィクション
山中峯太郎って誰、ですよね。戦前の小説家ですがわたしも読んだことがありません。でも戦時中に発表された「敵中横断三百里」は当時の大ベストセラーで、それが代表作の冒険小説作家、と思いきやじつは作家としても器用な人でいろんな作品を書いているし、信じられないかもしれませんが作家になるまでは中国革命党党員、陸軍中尉、朝日新聞記者という立場をほぼ並立させていたようです。
この本の元になっているのは本人の日記や自伝なので、どこまでホントなのか眉唾ものですが、尾崎秀樹が確かめているわけなので、あながちウソでもなさそう。

意外に面白かったのですが、これを読んでいて連想したのがアレイスター・クロウリーの書いた「ムーン・チャイルド」という小説です。クロウリーはイギリスの有名な黒魔術師で、ジミー・ペイジやロバート・フリップなんかもファンだそうです。サマセット・モームの小説「魔術師」はかれをモデルにしているそうで。キング・クリムゾンの1stアルバム「クリムゾンキングの宮殿」に入っているバラード「Moon child」はたぶんこの小説からインスパイアされたのでは…。

で、その「ムーン・チャイルド」という作品は、クロウリー自身が主人公で自分の願望すべてをぶちこんだ牛の涎みたいな話です。クロウリーはジェームズ・ボンドの数十倍くらいのスーパー・ヒーローで絶世の美女をはべらせながら世界平和のために子供を作る! というお話。支離滅裂ですね。でもところどころ笑える箇所もあって読んで損はしないかも(おすすめはしませんが)。

そのクロウリーとダブるのはトランス状態に近い精神状態で、世界平和を唱え宗教的法悦にひたり、文章をものにしていく様子です。ある事件で投獄されるまでは中国革命軍と軍部との連絡役をつとめていて、軍事政治にもある程度かかわっていたフシも見え隠れしますが確証はありません。毎朝座禅を組むと心明鏡となり、革命のための次の一手がおのずと分かってくるなんて部分はもうアブナイ人です。
山中峯太郎の書く小説は、フィクションとしては荒唐無稽で面白いのでしょうが、その面白さを軍国少年のイデオロギー育成に使っているところが承服しかねる部分です。
その人をゾルゲ事件で死刑になった兄を持つ尾崎秀樹が描いているところに妙味があります。

「夢いまだ成らず 評伝山中峯太郎 尾崎秀樹著 中公文庫」
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